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作品 - 20130709_416_6954p

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透明な統計表

  前田ふむふむ

東日本大震災・死者・行方不明者数
            二〇十二年三月十日(警察庁資料)
 

死者 15854名
 宮城県 9512名 岩手県 4671名 福島県 1605名
 茨城県   24名 千葉県   20名 東京都    7名
 栃木県    4名 神奈川県   4名 青森県    3名
 山形県    2名 群馬県    1名 北海道    1名
行方不明者 3155名


      1

わたしは この数字を知ることはできない
むろん 死者にふれることもできない
さらにいえば 
死者の名前を呼ぶこともできないのだ

世界がどんよりとした空をはぎとり
彼らの出自を たんねんに訪ねると
彼らは すこしずつ色合いを際立たせるが
そうすることによって
彼らは ますます
かたく甲羅のなかに隠れるだろう

そして
記憶が老いて 地平線の底に沈むまで
限りなく
彼らの視線の高さで
一度も避けることなく
血のように
わたしをみているのだ

    2
    
そこにいる
眠れる数字を
アサガオと言おう
もし
それがアサガオでなければ
きみは誰だ

でも
アサガオにしては
蔓がない
葉もない
だから それを
なんと名づけるのか

アサガオだ
アサガオをアサガオと言おう
ほら
みずみずしく
赤い花を咲かせている
その花の名を


  3

これは数ではない
いかにも数を装っているが
実は肉体だ
そしていまも呼吸している
生きている肉体だ
その豊かな来歴は
真夏の森のようだ
仮に
それを数と捉えるならば
永遠に 
肉体をもつ
自分に会うことはできない


「 わたしの
眼のなかで
輝いている
一組の家族である
稲を刈る人たち

そのふむ土に
青く塗された
草は
セイヨウタンポポ
一面
夕日にむかって
繁茂している 」       

「 耳の中で沸騰している
熱気をあげて
海の
魚を待つ人たち

その市場を
通った
冷たい風が
だれもいない
街の
剥がれかけた
バス停の
時刻表を
ゆらしている 」

「 木棺のなかの
きみたちは
いつも
熱狂的だった
あたたかい血は
雨に
すこしずつ
冷やされて

小学校の
体育館で
片づけそこなった
椅子が
山積みにして
置いてある 」


「 それは切望の声だっただろうか
かつて
希望と安住の地であった  
川面に
身体を休めている
老いた水鳥の群れ

やがて
空に一羽ずつ
飛散する
皮膚を斬るような
声をあげて
世界の冬に
翼を
むけている

いくべき場所には
数字を
ひとつひとつ
背負っているだろう 」

   4
   

これは記録に過ぎない
ここに真実などほんとうにあるのだろうか
敢えていえば
ここに書いていないすべてが
確かなことだ
だから
わたしは
彼らに監視されているように
見られているのだ

それは
痛々しい数字に隠れている
空と海と大地と
その間にある
昼と夜のひかりと影だ

文学極道

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