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2013年07月分

月間優良作品 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


LIVING IN THE MATERIAL WORLD。

  田中宏輔




ぽつぽつ、と、深淵が降ってきた。と思う間もなく、深淵が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの深淵のなか、道に溜まった深淵を一つまたいだ。街中が深淵に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる深淵。道を埋め尽くす深淵。街
中、深淵に満ちて。





ぽつぽつ、と、将棋盤が降ってきた。と思う間もなく、将棋盤が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの将棋盤のなか、道に溜まった将棋盤を一つまたいだ。街中が将棋盤に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる将棋盤。道を埋め尽
くす将棋盤。街中、将棋盤に満ちて。





ぽつぽつ、と、神さまが降ってきた。と思う間もなく、神さまが激しく降り出した。
じゃじゃ降りの神さまのなか、道に溜まった神さまを一つまたいだ。街中が神さまに
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる神さま。道を埋め尽
くす神さま。街中、神さまに満ちて。





ぽつぽつ、と、緑が降ってきた。と思う間もなく、緑が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの緑のなか、道に溜まった緑を一つまたいだ。街中が緑に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる緑。道を埋め尽くす緑。街中、緑に満ちて。





ぽつぽつ、と、槍が降ってきた。と思う間もなく、槍が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの槍のなか、道に溜まった槍を一つまたいだ。街中が槍に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる槍。道を埋め尽くす槍。街中、槍に満ちて。





ぽつぽつ、と、片隅が降ってきた。と思う間もなく、片隅が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの片隅のなか、道に溜まった片隅を一つまたいだ。街中が片隅に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる片隅。道を埋め尽くす片隅。街
中、片隅に満ちて。





ぽつぽつ、と、安全が降ってきた。と思う間もなく、安全が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの安全のなか、道に溜まった安全を一つまたいだ。街中が安全に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる安全。道を埋め尽くす安全。街
中、安全に満ちて。





ぽつぽつ、と、頭上が降ってきた。と思う間もなく、頭上が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの頭上のなか、道に溜まった頭上を一つまたいだ。街中が頭上に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる頭上。道を埋め尽くす頭上。街
中、頭上に満ちて。





ぽつぽつ、と、請求書が降ってきた。と思う間もなく、請求書が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの請求書のなか、道に溜まった請求書を一つまたいだ。街中が請求書に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる請求書。道を埋め尽
くす請求書。街中、請求書に満ちて。





ぽつぽつ、と、カルデラ湖が降ってきた。と思う間もなく、カルデラ湖が激しく降り
出した。じゃじゃ降りのカルデラ湖のなか、道に溜まったカルデラ湖を一つまたいだ。
街中がカルデラ湖に濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる
カルデラ湖。道を埋め尽くすカルデラ湖。街中、カルデラ湖に満ちて。





ぽつぽつ、と、しっぽが降ってきた。と思う間もなく、しっぽが激しく降り出した。
じゃじゃ降りのしっぽのなか、道に溜まったしっぽを一つまたいだ。街中がしっぽに
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるしっぽ。道を埋め尽
くすしっぽ。街中、しっぽに満ちて。





ぽつぽつ、と、しかしが降ってきた。と思う間もなく、しかしが激しく降り出した。
じゃじゃ降りのしかしのなか、道に溜まったしかしを一つまたいだ。街中がしかしに
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるしかし。道を埋め尽
くすしかし。街中、しかしに満ちて。





ぽつぽつ、と、でもが降ってきた。と思う間もなく、でもが激しく降り出した。じゃ
じゃ降りのでものなか、道に溜まったでもを一つまたいだ。街中がでもに濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるでも。道を埋め尽くすでも。街
中、でもに満ちて。





ぽつぽつ、と、またが降ってきた。と思う間もなく、またが激しく降り出した。じゃ
じゃ降りのまたのなか、道に溜まったまたを一つまたいだ。街中がまたに濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるまた。道を埋め尽くすまた。街
中、またに満ちて。





ぽつぽつ、と、ええっが降ってきた。と思う間もなく、ええっが激しく降り出した。
じゃじゃ降りのええっのなか、道に溜まったええっを一つまたいだ。街中がええっに
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるええっ。道を埋め尽
くすええっ。街中、ええっに満ちて。





ぽつぽつ、と、ティッシュが降ってきた。と思う間もなく、ティッシュが激しく降り
出した。じゃじゃ降りのティッシュのなか、道に溜まったティッシュを一つまたいだ。
街中がティッシュに濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる
ティッシュ。道を埋め尽くすティッシュ。街中、ティッシュに満ちて。





ぽつぽつ、と、それが降ってきた。と思う間もなく、それが激しく降り出した。じゃ
じゃ降りのそれのなか、道に溜まったそれを一つまたいだ。街中がそれに濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるそれ。道を埋め尽くすそれ。街
中、それに満ちて。





ぽつぽつ、と、蜜蜂が降ってきた。と思う間もなく、蜜蜂が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの蜜蜂のなか、道に溜まった蜜蜂を一つまたいだ。街中が蜜蜂に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる蜜蜂。道を埋め尽くす蜜蜂。街
中、蜜蜂に満ちて。





ぽつぽつ、と、蜂蜜が降ってきた。と思う間もなく、蜂蜜が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの蜂蜜のなか、道に溜まった蜂蜜を一つまたいだ。街中が蜂蜜に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる蜂蜜。道を埋め尽くす蜂蜜。街
中、蜂蜜に満ちて。





ぽつぽつ、と、悟りが降ってきた。と思う間もなく、悟りが激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの悟りのなか、道に溜まった悟りを一つまたいだ。街中が悟りに濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる悟り。道を埋め尽くす悟り。街
中、悟りに満ちて。





ぽつぽつ、と、スズメが降ってきた。と思う間もなく、スズメが激しく降り出した。
じゃじゃ降りのスズメのなか、道に溜まったスズメを一つまたいだ。街中がスズメに
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるスズメ。道を埋め尽
くすスズメ。街中、スズメに満ちて。





ぽつぽつ、と、注射器が降ってきた。と思う間もなく、注射器が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの注射器のなか、道に溜まった注射器を一つまたいだ。街中が注射器に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる注射器。道を埋め尽
くす注射器。街中、注射器に満ちて。





ぽつぽつ、と、鶏の卵が降ってきた。と思う間もなく、鶏の卵が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの鶏の卵のなか、道に溜まった鶏の卵を一つまたいだ。街中が鶏の卵に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる鶏の卵。道を埋め尽
くす鶏の卵。街中、鶏の卵に満ちて。





ぽつぽつ、と、コップが降ってきた。と思う間もなく、コップが激しく降り出した。
じゃじゃ降りのコップのなか、道に溜まったコップを一つまたいだ。街中がコップに
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるコップ。道を埋め尽
くすコップ。街中、コップに満ちて。





ぽつぽつ、と、飛行船が降ってきた。と思う間もなく、飛行船が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの飛行船のなか、道に溜まった飛行船を一つまたいだ。街中が飛行船に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる飛行船。道を埋め尽
くす飛行船。街中、飛行船に満ちて。





ぽつぽつ、と、乗客が降ってきた。と思う間もなく、乗客が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの乗客のなか、道に溜まった乗客を一つまたいだ。街中が乗客に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる乗客。道を埋め尽くす乗客。街
中、乗客に満ちて。





ぽつぽつ、と、一日が降ってきた。と思う間もなく、一日が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの一日のなか、道に溜まった一日を一つまたいだ。街中が一日に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる一日。道を埋め尽くす一日。街
中、一日に満ちて。





ぽつぽつ、と、鮎が降ってきた。と思う間もなく、鮎が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの鮎のなか、道に溜まった鮎を一つまたいだ。街中が鮎に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる鮎。道を埋め尽くす鮎。街中、鮎に満ちて。





ぽつぽつ、と、鉄板が降ってきた。と思う間もなく、鉄板が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの鉄板のなか、道に溜まった鉄板を一つまたいだ。街中が鉄板に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる鉄板。道を埋め尽くす鉄板。街
中、鉄板に満ちて。





ぽつぽつ、と、鰻丼が降ってきた。と思う間もなく、鰻丼が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの鰻丼のなか、道に溜まった鰻丼を一つまたいだ。街中が鰻丼に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる鰻丼。道を埋め尽くす鰻丼。街
中、鰻丼に満ちて。





ぽつぽつ、と、光が降ってきた。と思う間もなく、光が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの光のなか、道に溜まった光を一つまたいだ。街中が光に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる光。道を埋め尽くす光。街中、光に満ちて。





ぽつぽつ、と、影が降ってきた。と思う間もなく、影が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの影のなか、道に溜まった影を一つまたいだ。街中が影に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる影。道を埋め尽くす影。街中、影に満ちて。





ぽつぽつ、と、牛が降ってきた。と思う間もなく、牛が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの牛のなか、道に溜まった牛を一つまたいだ。街中が牛に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる牛。道を埋め尽くす牛。街中、牛に満ちて。





ぽつぽつ、と、国文学者が降ってきた。と思う間もなく、国文学者が激しく降り出し
た。じゃじゃ降りの国文学者のなか、道に溜まった国文学者を一つまたいだ。街中が
国文学者に濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる国文学者。
道を埋め尽くす国文学者。街中、国文学者に満ちて。





ぽつぽつ、と、傷痕が降ってきた。と思う間もなく、傷痕が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの傷痕のなか、道に溜まった傷痕を一つまたいだ。街中が傷痕に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる傷痕。道を埋め尽くす傷痕。街
中、傷痕に満ちて。





ぽつぽつ、と、老人が降ってきた。と思う間もなく、老人が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの老人のなか、道に溜まった老人を一つまたいだ。街中が老人に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる老人。道を埋め尽くす老人。街
中、老人に満ちて。





ぽつぽつ、と、蒙古斑が降ってきた。と思う間もなく、蒙古斑が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの蒙古斑のなか、道に溜まった蒙古斑を一つまたいだ。街中が蒙古斑に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる蒙古斑。道を埋め尽
くす蒙古斑。街中、蒙古斑に満ちて。





ぽつぽつ、と、両親が降ってきた。と思う間もなく、両親が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの両親のなか、道に溜まった両親を一つまたいだ。街中が両親に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる両親。道を埋め尽くす両親。街
中、両親に満ちて。





ぽつぽつ、と、良心が降ってきた。と思う間もなく、良心が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの良心のなか、道に溜まった良心を一つまたいだ。街中が良心に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる良心。道を埋め尽くす良心。街
中、良心に満ちて。





ぽつぽつ、と、確実が降ってきた。と思う間もなく、確実が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの確実のなか、道に溜まった確実を一つまたいだ。街中が確実に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる確実。道を埋め尽くす確実。街
中、確実に満ちて。





ぽつぽつ、と、読者が降ってきた。と思う間もなく、読者が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの読者のなか、道に溜まった読者を一つまたいだ。街中が読者に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる読者。道を埋め尽くす読者。街
中、読者に満ちて。





ぽつぽつ、と、海鼠が降ってきた。と思う間もなく、海鼠が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの海鼠のなか、道に溜まった海鼠を一つまたいだ。街中が海鼠に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる海鼠。道を埋め尽くす海鼠。街
中、海鼠に満ちて。





ぽつぽつ、と、金色が降ってきた。と思う間もなく、金色が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの金色のなか、道に溜まった金色を一つまたいだ。街中が金色に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる金色。道を埋め尽くす金色。街
中、金色に満ちて。





ぽつぽつ、と、マカロンが降ってきた。と思う間もなく、マカロンが激しく降り出し
た。じゃじゃ降りのマカロンのなか、道に溜まったマカロンを一つまたいだ。街中が
マカロンに濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるマカロン。
道を埋め尽くすマカロン。街中、マカロンに満ちて。





ぽつぽつ、と、歌人が降ってきた。と思う間もなく、歌人が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの歌人のなか、道に溜まった歌人を一つまたいだ。街中が歌人に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる歌人。道を埋め尽くす歌人。街
中、歌人に満ちて。





ぽつぽつ、と、まな板が降ってきた。と思う間もなく、まな板が激しく降り出した。
じゃじゃ降りのまな板のなか、道に溜まったまな板を一つまたいだ。街中がまな板に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるまな板。道を埋め尽
くすまな板。街中、まな板に満ちて。





ぽつぽつ、と、曖昧が降ってきた。と思う間もなく、曖昧が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの曖昧のなか、道に溜まった曖昧を一つまたいだ。街中が曖昧に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる曖昧。道を埋め尽くす曖昧。街
中、曖昧に満ちて。





ぽつぽつ、と、柴犬が降ってきた。と思う間もなく、柴犬が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの柴犬のなか、道に溜まった柴犬を一つまたいだ。街中が柴犬に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる柴犬。道を埋め尽くす柴犬。街
中、柴犬に満ちて。





ぽつぽつ、と、過去が降ってきた。と思う間もなく、過去が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの過去のなか、道に溜まった過去を一つまたいだ。街中が過去に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる過去。道を埋め尽くす過去。街
中、過去に満ちて。





ぽつぽつ、と、不可避が降ってきた。と思う間もなく、不可避が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの不可避のなか、道に溜まった不可避を一つまたいだ。街中が不可避に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる不可避。道を埋め尽
くす不可避。街中、不可避に満ちて。





ぽつぽつ、と、吉田くんが降ってきた。と思う間もなく、吉田くんが激しく降り出し
た。じゃじゃ降りの吉田くんのなか、道に溜まった吉田くんを一つまたいだ。街中が
吉田くんに濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる吉田くん。
道を埋め尽くす吉田くん。街中、吉田くんに満ちて。





ぽつぽつ、と、伏線が降ってきた。と思う間もなく、伏線が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの伏線のなか、道に溜まった伏線を一つまたいだ。街中が伏線に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる伏線。道を埋め尽くす伏線。街
中、伏線に満ちて。





ぽつぽつ、と、暇が降ってきた。と思う間もなく、暇が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの暇のなか、道に溜まった暇を一つまたいだ。街中が暇に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる暇。道を埋め尽くす暇。街中、暇に満ちて。





ぽつぽつ、と、海胆が降ってきた。と思う間もなく、海胆が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの海胆のなか、道に溜まった海胆を一つまたいだ。街中が海胆に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる海胆。道を埋め尽くす海胆。街
中、海胆に満ちて。





ぽつぽつ、と、靴下が降ってきた。と思う間もなく、靴下が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの靴下のなか、道に溜まった靴下を一つまたいだ。街中が靴下に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる靴下。道を埋め尽くす靴下。街
中、靴下に満ちて。





ぽつぽつ、と、イエスが降ってきた。と思う間もなく、イエスが激しく降り出した。
じゃじゃ降りのイエスのなか、道に溜まったイエスを一つまたいだ。街中がイエスに
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるイエス。道を埋め尽
くすイエス。街中、イエスに満ちて。





ぽつぽつ、と、不愉快が降ってきた。と思う間もなく、不愉快が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの不愉快のなか、道に溜まった不愉快を一つまたいだ。街中が不愉快に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる不愉快。道を埋め尽
くす不愉快。街中、不愉快に満ちて。





ぽつぽつ、と、焼きそばが降ってきた。と思う間もなく、焼きそばが激しく降り出し
た。じゃじゃ降りの焼きそばのなか、道に溜まった焼きそばを一つまたいだ。街中、
焼きそばに濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる焼きそば。
道を埋め尽くす焼きそば。街中、焼きそばに満ちて。





ぽつぽつ、と、織田信長が降ってきた。と思う間もなく、織田信長が激しく降り出し
た。じゃじゃ降りの織田信長のなか、道に溜まった織田信長を一つまたいだ。街中が
織田信長に濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる織田信長。
道を埋め尽くす織田信長。街中、織田信長に満ちて。





ぽつぽつ、と、ダリが降ってきた。と思う間もなく、ダリが激しく降り出した。じゃ
じゃ降りのダリのなか、道に溜まったダリを一つまたいだ。街中がダリに濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるダリ。道を埋め尽くすダリ。街
中、ダリに満ちて。





ぽつぽつ、と、嫉妬が降ってきた。と思う間もなく、嫉妬が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの嫉妬のなか、道に溜まった嫉妬を一つまたいだ。街中が嫉妬に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる嫉妬。道を埋め尽くす嫉妬。街
中、嫉妬に満ちて。





ぽつぽつ、と、空が降ってきた。と思う間もなく、空が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの空のなか、道に溜まった空を一つまたいだ。街中が空に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる空。道を埋め尽くす空。街中、空に満ちて。





ぽつぽつ、と、電話が降ってきた。と思う間もなく、電話が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの電話のなか、道に溜まった電話を一つまたいだ。街中が電話に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる電話。道を埋め尽くす電話。街
中、電話に満ちて。





ぽつぽつ、と、記憶が降ってきた。と思う間もなく、記憶が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの記憶のなか、道に溜まった記憶を一つまたいだ。街中が記憶に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる記憶。道を埋め尽くす記憶。街
中、記憶に満ちて。





ぽつぽつ、と、無駄が降ってきた。と思う間もなく、無駄が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの無駄のなか、道に溜まった無駄を一つまたいだ。街中が無駄に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる無駄。道を埋め尽くす無駄。街
中、無駄に満ちて。





ぽつぽつ、と、無理が降ってきた。と思う間もなく、無理が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの無理のなか、道に溜まった無理を一つまたいだ。街中が無理に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる無理。道を埋め尽くす無理。街
中、無理に満ちて。





ぽつぽつ、と、まさかが降ってきた。と思う間もなく、まさかが激しく降り出した。
じゃじゃ降りのまさかのなか、道に溜まったまさかを一つまたいだ。街中がまさかに
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるまさか。道を埋め尽く
すまさか。街中、まさかに満ちて。





ぽつぽつ、と、洞窟が降ってきた。と思う間もなく、洞窟が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの洞窟のなか、道に溜まった洞窟を一つまたいだ。街中が洞窟に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる洞窟。道を埋め尽くす洞窟。街
中、洞窟に満ちて。





ぽつぽつ、と、現実が降ってきた。と思う間もなく、現実が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの現実のなか、道に溜まった現実を一つまたいだ。街中が現実に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる現実。道を埋め尽くす現実。街
中、現実に満ちて。





ぽつぽつ、と、可能性が降ってきた。と思う間もなく、可能性が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの可能性のなか、道に溜まった可能性を一つまたいだ。街中が可能性に
濡れて、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる可能性。道を埋め尽
くす可能性。街中、可能性に満ちて。





ぽつぽつ、と、余白が降ってきた。と思う間もなく、余白が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの余白のなか、道に溜まった余白を一つまたいだ。街中が余白に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる余白。道を埋め尽くす余白。街
中、余白に満ちて。





ぽつぽつ、と、改行が降ってきた。と思う間もなく、改行が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの改行のなか、道に溜まった大きな改行を一つまたいだ。街中が改行に濡れ
て、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる改行。道を埋め尽くす改
行。街中、改行に満ちて。





ぽつぽつ、と、空白が降ってきた。と思う間もなく、空白が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの空白のなか、道に溜まった大きな空白を一つまたいだ。街中が空白に濡れ
て、びしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる空白。道を埋め尽くす空
白。街中、空白に満ちて。





ぽつぽつ、と、名詞が降ってきた。と思う間もなく、名詞が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの名詞のなか、道に溜まった名詞を一つまたいだ。街中が名詞に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる名詞。道を埋め尽くす名詞。街
中、名詞に満ちて。





ぽつぽつ、と、動詞が降ってきた。と思う間もなく、動詞が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの動詞のなか、道に溜まった動詞を一つまたいだ。街中が動詞に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる動詞。道を埋め尽くす動詞。街
中、動詞に満ちて。





ぽつぽつ、と、理由が降ってきた。と思う間もなく、理由が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの理由のなか、道に溜まった理由を一つまたいだ。街中が理由に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる理由。道を埋め尽くす理由。街
中、理由に満ちて。





ぽつぽつ、と、缶詰が降ってきた。と思う間もなく、缶詰が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの缶詰のなか、道に溜まった缶詰を一つまたいだ。街中が缶詰に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる缶詰。道を埋め尽くす缶詰。街
中、缶詰に満ちて。





ぽつぽつ、と、大統領が降ってきた。と思う間もなく、大統領が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの大統領のなか、道に溜まった大統領を一つまたいだ。街中が大統領に
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる大統領。道を埋め尽く
す大統領。街中、大統領に満ちて。





ぽつぽつ、と、不規則が降ってきた。と思う間もなく、不規則が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの不規則のなか、道に溜まった不規則を一つまたいだ。街中が不規則に
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる不規則。道を埋め尽く
す不規則。街中、不規則に満ちて。





ぽつぽつ、と、母さんが降ってきた。と思う間もなく、母さんが激しく降り出した。
じゃじゃ降りの母さんのなか、道に溜まった母さんを一つまたいだ。街中が母さんに
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる母さん。道を埋め尽く
す母さん。街中、母さんに満ちて。





ぽつぽつ、と、傘が降ってきた。と思う間もなく、傘が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの傘のなか、道に溜まった傘を一つまたいだ。街中が傘に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる傘。道を埋め尽くす傘。街中、傘に満ちて。





ぽつぽつ、と、人間が降ってきた。と思う間もなく、人間が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの人間のなか、道に溜まった人間を一つまたいだ。街中が人間に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる人間。道を埋め尽くす人間。街
中、人間に満ちて。





ぽつぽつ、と、火山が降ってきた。と思う間もなく、火山が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの火山のなか、道に溜まった火山を一つまたいだ。街中が火山に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる火山。道を埋め尽くす火山。街
中、火山に満ちて。





ぽつぽつ、と、瞬間が降ってきた。と思う間もなく、瞬間が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの瞬間のなか、道に溜まった瞬間を一つまたいだ。街中が瞬間に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる瞬間。道を埋め尽くす瞬間。街
中、瞬間に満ちて。




ぽつぽつ、と、結果が降ってきた。と思う間もなく、結果が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの結果のなか、道に溜まった結果を一つまたいだ。街中が結果に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる結果。道を埋め尽くす結果。街
中、結果に満ちて。





ぽつぽつ、と、出来事が降ってきた。と思う間もなく、出来事が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの出来事のなか、道に溜まった出来事を一つまたいだ。街中が出来事に
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる出来事。道を埋め尽く
す出来事。街中、出来事に満ちて。





ぽつぽつ、と、檸檬が降ってきた。と思う間もなく、檸檬が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの檸檬のなか、道に溜まった檸檬を一つまたいだ。街中が檸檬に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる檸檬。道を埋め尽くす檸檬。街
中、檸檬に満ちて。





ぽつぽつ、と、花屋が降ってきた。と思う間もなく、花屋が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの花屋のなか、道に溜まった花屋を一つまたいだ。街中が花屋に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる花屋。道を埋め尽くす花屋。街
中、花屋に満ちて。





ぽつぽつ、と、頭部が降ってきた。と思う間もなく、頭部が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの頭部のなか、道に溜まった頭部を一つまたいだ。街中が頭部に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる頭部。道を埋め尽くす頭部。街
中、頭部に満ちて。





ぽつぽつ、と、顔面が降ってきた。と思う間もなく、顔面が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの顔面のなか、道に溜まった顔面を一つまたいだ。街中が顔面に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる顔面。道を埋め尽くす顔面。街
中、顔面に満ちて。





ぽつぽつ、と、腎臓が降ってきた。と思う間もなく、腎臓が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの腎臓のなか、道に溜まった腎臓を一つまたいだ。街中が腎臓に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる腎臓。道を埋め尽くす腎臓。街
中、腎臓に満ちて。





ぽつぽつ、と、鼓動が降ってきた。と思う間もなく、鼓動が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの鼓動のなか、道に溜まった鼓動を一つまたいだ。街中が鼓動に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる鼓動。道を埋め尽くす鼓動。街
中、鼓動に満ちて。





ぽつぽつ、と、電柱が降ってきた。と思う間もなく、電柱が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの電柱のなか、道に溜まった電柱を一つまたいだ。街中が電柱に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる電柱。道を埋め尽くす電柱。街
中、電柱に満ちて。





ぽつぽつ、と、仕事が降ってきた。と思う間もなく、仕事が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの仕事のなか、道に溜まった仕事を一つまたいだ。街中が仕事に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる仕事。道を埋め尽くす仕事。街
中、仕事に満ちて。





ぽつぽつ、と、幻覚が降ってきた。と思う間もなく、幻覚が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの幻覚のなか、道に溜まった幻覚を一つまたいだ。街中が幻覚に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる幻覚。道を埋め尽くす幻覚。街
中、幻覚に満ちて。





ぽつぽつ、と、溜息が降ってきた。と思う間もなく、溜息が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの溜息のなか、道に溜まった溜息を一つまたいだ。街中が溜息に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる溜息。道を埋め尽くす溜息。街
中、溜息に満ちて。





ぽつぽつ、と、幸せが降ってきた。と思う間もなく、幸せが激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの幸せのなか、道に溜まった幸せを一つまたいだ。街中が幸せに濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる幸せ。道を埋め尽くす幸せ。街
中、幸せに満ちて。





ぽつぽつ、と、幻聴が降ってきた。と思う間もなく、幻聴が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの幻聴のなか、道に溜まった幻聴を一つまたいだ。街中が幻聴に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる幻聴。道を埋め尽くす幻聴。街
中、幻聴に満ちて。





ぽつぽつ、と、褌が降ってきた。と思う間もなく、褌が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの褌のなか、道に溜まった褌を一つまたいだ。街中が褌に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる褌。道を埋め尽くす褌。街中、褌に満ちて。





ぽつぽつ、と、眩暈が降ってきた。と思う間もなく、眩暈が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの眩暈のなか、道に溜まった眩暈を一つまたいだ。街中が眩暈に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる眩暈。道を埋め尽くす眩暈。街
中、眩暈に満ちて。





ぽつぽつ、と、嘔吐が降ってきた。と思う間もなく、嘔吐が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの嘔吐のなか、道に溜まった嘔吐を一つまたいだ。街中が嘔吐に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる嘔吐。道を埋め尽くす嘔吐。街
中、嘔吐に満ちて。





ぽつぽつ、と、世界が降ってきた。と思う間もなく、世界が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの世界のなか、道に溜まった世界を一つまたいだ。街中が世界に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる世界。道を埋め尽くす世界。街
中、世界に満ちて。





ぽつぽつ、と、胴体が降ってきた。と思う間もなく、胴体が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの胴体のなか、道に溜まった胴体を一つまたいだ。街中が胴体に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる胴体。道を埋め尽くす胴体。街
中、胴体に満ちて。





ぽつぽつ、と、血管が降ってきた。と思う間もなく、血管が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの血管のなか、道に溜まった血管を一つまたいだ。街中が血管に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる血管。道を埋め尽くす血管。街
中、血管に満ちて。





ぽつぽつ、と、神経が降ってきた。と思う間もなく、神経が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの神経のなか、道に溜まった神経を一つまたいだ。街中が神経に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる神経。道を埋め尽くす神経。街
中、神経に満ちて。





ぽつぽつ、と、本物が降ってきた。と思う間もなく、本物が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの本物のなか、道に溜まった本物を一つまたいだ。街中が本物に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる本物。道を埋め尽くす本物。街
中、本物に満ちて。





ぽつぽつ、と、パンツが降ってきた。と思う間もなく、パンツが激しく降り出した。
じゃじゃ降りのパンツのなか、道に溜まったパンツを一つまたいだ。街中がパンツに
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちるパンツ。道を埋め尽く
すパンツ。街中、パンツに満ちて。





ぽつぽつ、と、友だちが降ってきた。と思う間もなく、友だちが激しく降り出した。
じゃじゃ降りの友だちのなか、道に溜まった友だちを一つまたいだ。街中が友だちに
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる友だち。道を埋め尽く
す友だち。街中、友だちに満ちて。





ぽつぽつ、と、潜水艦が降ってきた。と思う間もなく、潜水艦が激しく降り出した。
じゃじゃ降りの潜水艦のなか、道に溜まった潜水艦を一つまたいだ。街中が潜水艦に
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる潜水艦。道を埋め尽く
す潜水艦。街中、潜水艦に満ちて。





ぽつぽつ、と、点が降ってきた。と思う間もなく、点が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの点のなか、道に溜まった点を一つまたいだ。街中が点に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる点。道を埋め尽くす点。街中、点に満ちて。





ぽつぽつ、と、逆説が降ってきた。と思う間もなく、逆説が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの逆説のなか、道に溜まった逆説を一つまたいだ。街中が逆説に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる逆説。道を埋め尽くす逆説。街
中、逆説に満ちて。





ぽつぽつ、と、読点が降ってきた。と思う間もなく、読点が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの読点のなか、道に溜まった読点を一つまたいだ。街中が読点に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる読点。道を埋め尽くす読点。街
中、読点に満ちて。





ぽつぽつ、と、句点が降ってきた。と思う間もなく、句点が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの句点のなか、道に溜まった句点を一つまたいだ。街中が句点に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる句点。道を埋め尽くす句点。街
中、句点に満ちて。





ぽつぽつ、と、濁点が降ってきた。と思う間もなく、濁点が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの濁点のなか、道に溜まった濁点を一つまたいだ。街中が濁点に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる濁点。道を埋め尽くす濁点。街
中、濁点に満ちて。





ぽつぽつ、と、間違いが降ってきた。と思う間もなく、間違いが激しく降り出した。
じゃじゃ降りの間違いのなか、道に溜まった間違いを一つまたいだ。街中が間違いに
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる間違い。道を埋め尽く
す間違い。街中、間違いに満ちて。





ぽつぽつ、と、勘違いが降ってきた。と思う間もなく、勘違いが激しく降り出した。
じゃじゃ降りの勘違いのなか、道に溜まった勘違いを一つまたいだ。街中が勘違いに
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる勘違い。道を埋め尽く
す勘違い。街中、勘違いに満ちて。





ぽつぽつ、と、二人が降ってきた。と思う間もなく、二人が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの二人のなか、道に溜まった二人を一つまたいだ。街中が二人に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる二人。道を埋め尽くす二人。街
中、二人に満ちて。





ぽつぽつ、と、時々が降ってきた。と思う間もなく、時々が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの時々のなか、道に溜まった時々を一つまたいだ。街中が時々に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる時々。道を埋め尽くす時々。街
中、時々に満ちて。





ぽつぽつ、と、時たまが降ってきた。と思う間もなく、時たまが激しく降り出した。
じゃじゃ降りの時たまのなか、道に溜まった時たまを一つまたいだ。街中が時たまに
濡れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる時たま。道を埋め尽く
す時たま。街中、時たまに満ちて。





ぽつぽつ、と、今更が降ってきた。と思う間もなく、今更が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの今更のなか、道に溜まった今更を一つまたいだ。街中が今更に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる今更。道を埋め尽くす今更。街
中、今更に満ちて。





ぽつぽつ、と、昨日が降ってきた。と思う間もなく、昨日が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの昨日のなか、道に溜まった昨日を一つまたいだ。街中が昨日に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる昨日。道を埋め尽くす昨日。街
中、昨日に満ちて。





ぽつぽつ、と、意味が降ってきた。と思う間もなく、意味が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの意味のなか、道に溜まった意味を一つまたいだ。街中が意味に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる意味。道を埋め尽くす意味。街
中、意味に満ちて。





ぽつぽつ、と、誤解が降ってきた。と思う間もなく、誤解が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの誤解のなか、道に溜まった誤解を一つまたいだ。街中が誤解に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる誤解。道を埋め尽くす誤解。街
中、誤解に満ちて。





ぽつぽつ、と、五階が降ってきた。と思う間もなく、五階が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの五階のなか、道に溜まった五階を一つまたいだ。街中が五階に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる五階。道を埋め尽くす五階。街
中、五階に満ちて。





ぽつぽつ、と、解釈が降ってきた。と思う間もなく、解釈が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの解釈のなか、道に溜まった解釈を一つまたいだ。街中が解釈に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる解釈。道を埋め尽くす解釈。街
中、解釈に満ちて。





ぽつぽつ、と、妹が降ってきた。と思う間もなく、妹が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの妹のなか、道に溜まった妹を一つまたいだ。街中が妹に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる妹。道を埋め尽くす妹。街中、妹に満ちて。





ぽつぽつ、と、?が降ってきた。と思う間もなく、?が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの?のなか、道に溜まった?を一つまたいだ。街中が?に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる?。道を埋め尽くす?。街中、?に満ちて。





ぽつぽつ、と、!が降ってきた。と思う間もなく、!が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの!のなか、道に溜まった!を一つまたいだ。街中が!に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる!。道を埋め尽くす!。街中、!に満ちて。





ぽつぽつ、と、=が降ってきた。と思う間もなく、=が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの=のなか、道に溜まった=を一つまたいだ。街中が=に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる=。道を埋め尽くす=。街中、=に満ちて。





ぽつぽつ、と、≠ が降ってきた。と思う間もなく、≠ が激しく降り出した。じゃじ
ゃ降りの ≠ のなか、道に溜まった ≠ を一つまたいだ。街中が ≠ に濡れて、びし
ょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる ≠ 。道を埋め尽くす ≠ 。街中、
≠ に満ちて。





ぽつぽつ、と、↓が降ってきた。と思う間もなく、↓が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの↓のなか、道に溜まった↓を一つまたいだ。街中が↓に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる↓。道を埋め尽くす↓。街中、↓に満ちて。





ぽつぽつ、と、直線が降ってきた。と思う間もなく、直線が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの直線のなか、道に溜まった直線を一つまたいだ。街中が直線に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる直線。道を埋め尽くす直線。街
中、直線に満ちて。





ぽつぽつ、と、細部が降ってきた。と思う間もなく、細部が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの細部のなか、道に溜まった細部を一つまたいだ。街中が細部に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる細部。道を埋め尽くす細部。街
中、細部に満ちて。





ぽつぽつ、と、最初が降ってきた。と思う間もなく、最初が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの最初のなか、道に溜まった最初を一つまたいだ。街中が最初に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる最初。道を埋め尽くす最初。街
中、最初に満ちて。





ぽつぽつ、と、最後が降ってきた。と思う間もなく、最後が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの最後のなか、道に溜まった最後を一つまたいだ。街中が最後に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる最後。道を埋め尽くす最後。街
中、最後に満ちて。





ぽつぽつ、と、突然が降ってきた。と思う間もなく、突然が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの突然のなか、道に溜まった突然を一つまたいだ。街中が突然に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる突然。道を埋め尽くす突然。街
中、突然に満ちて。





ぽつぽつと、象さんが降ってきた。と思う間もなく、象さんが激しく降り出した。じ
ゃじゃ降りの象さんのなか、道に溜まった象さんを一つまたいだ。街中が象さんに濡
れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる象さん。道を埋め尽くす
象さん。街中、象さんに満ちて。





ぽつぽつと、平仮名が降ってきた。と思う間もなく、平仮名が激しく降り出した。じ
ゃじゃ降りの平仮名のなか、道に溜まった平仮名を一つまたいだ。街中が平仮名に濡
れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる平仮名。道を埋め尽くす
平仮名。街中、平仮名に満ちて。





ぽつぽつと、先ほどが降ってきた。と思う間もなく、先ほどが激しく降り出した。じ
ゃじゃ降りの先ほどのなか、道に溜まった先ほどを一つまたいだ。街中が先ほどに濡
れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる先ほど。道を埋め尽くす
先ほど。街中、先ほどに満ちて。





ぽつぽつと、嫁さんが降ってきた。と思う間もなく、嫁さんが激しく降り出した。じ
ゃじゃ降りの嫁さんのなか、道に溜まった嫁さんを一つまたいだ。街中が嫁さんに濡
れてびしょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる嫁さん。道を埋め尽くす
嫁さん。街中、嫁さんに満ちて。





ぽつぽつ、と、永遠が降ってきた。と思う間もなく、永遠が激しく降り出した。じゃ
じゃ降りの永遠のなか、道に溜まった永遠を一つまたいだ。街中が永遠に濡れて、び
しょびしょだった。流れ落ちるようにして降り落ちる永遠。道を埋め尽くす永遠。街
中、永遠に満ちて。





ぽつぽつ、と、息が降ってきた。と思う間もなく、息が激しく降り出した。じゃじゃ
降りの息のなか、道に溜まった息を一つまたいだ。街中が息に濡れて、びしょびしょ
だった。流れ落ちるようにして降り落ちる息。道を埋め尽くす息。街中、息に満ちて。





氷だらけの海のなかに飛び込んだ白クマに襲われたペンギンたちが、冷たい海から氷
の上にピョコンピョコンと、つぎつぎ飛び出てくるように、ママさんたちは、ドアの
なかから出てきた。





彼って、まるで目に顔がついてるってふうに、目が自己主張してない? 目ばかりの
顔って言ってもいいくらいに。





ぽつぽつと、時間が降ってきた。昨日や明日や今日が、激しく降りはじめた。たくさ
んの日付が降りだして、ぼくはさまざまな日付のなかを、傘をさして飛び出した。





コンビニの入り口のラックに彼女が並んでいた。毎日彼女、朝日彼女、経済彼女、ス
ポーツ彼女などなど。ぼくは毎日彼女をラックから引き抜いて、レジのところに持っ
て行った。





ヤフオクで、ウルトラQの怪獣の指人形を7体、310円で落札した。指人形まで集
めるとは思わなかったけど、その出来のよさにびっくりして買った。M1号が、いち
ばんかわいい。あと、ナメゴン。ゴメス。ペギラ。ガラモン。ケムール人。カネゴン。
どれもかわいい。本棚のまえにでも置いて飾ろうっと。





子どものとき、将来、自分がなりたいなあと思ったものの一つに、画家というものが
あるということを、以前にも書いたと思う。小学校に行くまでの幼児のころには、畳
のうえにまで渦巻き模様を書いていたらしいし、覚えているかぎり、ボールペンを手
から離さない子どもだったらしいのだ。





直接のきっかけは、小学校四年生のときに、動物園での写生会で、ぼくの描いた絵が、
京都市主催の絵画コンクールで入賞したことであった。豹の絵を描いたのであった。
動物園の飼育係のひとが檻のなかを水を撒いて掃除したあとの、コンクリートの床の
中央のくぼみに溜まった水に映った豹の顔を描いたのであった。





小学校高学年のときには、一つの色の絵具で、絵を描いていた。白い絵具で、海と空
と雲を描いた。重ねた白い色には違いがあって、ぼくが小学校のときには、白い絵具
だけで描いた絵を、絵として先生も認めてくれていた。中学でも、その手法で絵を描
いていて、中学の美術の先生も、絵として





認めてくれていた。高校に入ると、ぼくの絵の世界も変化して、何色もの色の絵具を
使ったものになった。ただし、色と色を混ぜることは、けしてしなかった。絵具の色
そのものが、ぼくには美しかったのだ。絵具を混ぜないというぼくの主張を、高校の
美術教師は認めなかった。





美術の成績が下がって、ぼくも受験勉強に傾注するようになり、やがて、絵は好きだ
けど、描かないひとになっていった。海。ぼくの詩も、海が頻出するけれど、ぼくが
はじめて書いた作文も、舞台は海だった。小学四年生だった。終わらない作文を書い
たのだった。海のうえで、盥に乗った





ぼくは、まるい盥のなかで、櫓をかいて、海の水をかいて、くるくる、くるくる回転
していたのであった。波のおだやかな海のうえを、くるくる、くるくる回転していた
ぼくの様子を描いた作文だった。回転を止めるために、反対に櫓をかいて、でもまた、
けっきょくは反対向きにくるくる、くるくる回転して





しまう様子を書いていたのであった。時間がきて、書くのをやめるように言われるま
で、えんえんとその繰り返しを書いていたのであった。これが、ぼくの覚えている、
はじめての作文で、いま思い起こしても、同じようなものを書いているのだなと思う。
この話も、以前に書いたことがある





だろうか。はじめてかもしれない。ぼくが記憶しているぼくの作文は、これ一つだけ
で、ぼくの人生さいしょの作文が、自分でもあまりにも印象的で、いままで書いた自
分の作品の中で、最高傑作ではないかと、ひそかに思っているのであった。もちろん、
そんなことはないとも思うのだが。





ものごとは、順番通りに起こるとは限らない。結果がさきに、原因があとに、という
こともあるのだ。答えがさきに、質問があとに、ということがあるように。





漏斗のなかに落とされると、濾紙を濾しながら、ぼくは、純粋なぼくになっていくよ
うな気がした。ぼくになりそこねたぼくや、ぼくでなかったぼくが、純粋なぼくから
分離されて、いらないぼくが、ぼくから抜けていくような気がした。現実という漏斗。
愛するきみ、きみという濾紙。





「ここには家が出るんです。」幽霊たちが顔を見合わせた。





聖霊もときには間違うらしい。世界中の人々の前に同時に顕われて、あなたは神の子
を身ごもったと言ったのだった。赤ん坊も、少年も、少女も、男も、女も、老人も、
老女もみな身ごもって、イエス・キリストを生んだのだった。何十億人ものイエス・
キリストが生まれたのであった。





本の種を埋めて水をやった。この本はゴシック・ホラーだった。こまめに手をかけて
やらなければならない。





母親が鳴って、電話が飛び上がった。





鳥のように電話機が来て、手の上にとまった。





はじめに携帯電話があった。携帯電話は、「ひとあれ」と言った。すると、ひとがあっ
た。





傷口は縫い合わされるのを待っていた。





手にとると すつかり泡となる 蟹の子ら





手にとると すつかり水となる 亀の子ら





手でふれると たちまち消える ウニの子ら





雨の日の散歩は楽しい。街で見かけるものの色がはっきりする。河川敷に降りて行こ
うものなら、靴が泥だらけになって、帰ってから洗ってやることができる。そして、
何よりも、子どもたちが水溜りを思い切り踏んづける楽しそうな声が聞けるのだ。





雨もまた雨に濡れている。





奇跡が起こると、きょうは信じられない。奇跡が起こると、きょうを信じられない。
ぼくは夢のなかを生きている。夢がぼくのなかで生きている。信じられないきょうを
生きた。あした、きょうが夢だったと告げるあしたがくるかもしれない。こないかも
しれない。信じてもいい。信じなさい。信じてもいい。





帰ってから短篇SFを書くつもりだったけれど、書く時間がなかった。きょうは奇跡
のような一日だった。きょう一日は、文学よりも、現実のほうが大切だった。数年ぶ
りに、こころから神さまに感謝した。愛こそはすべて。10CCの曲が流れていた。
でも、そろそろ奇跡のようなきょうにさようならしなければならない。





手にふれると すつかり雨となる カタツムリ 





よい夢を。28歳のときにノブユキと出会って、ぼくは有頂天でした。ぼくのような
ブサイクな人間が愛されるとは思っていなかったからでした。そのつぎに出会った恋
人は、ぼくの考え方を変えてくれるほどすばらしい恋人でした。きょうは奇跡が起こ
りました。神さまに感謝して寝ます。@sechanco





きのうは寝られなかった。奇跡の日だったから。あんまり幸せすぐる。ぜったい不幸
が待ち受けてるような気がすぐる。





FBの見方をよく知らずに、メッセージがたくさんあって、きのう、はじめて気がつ
いた、同級生がいて、昨年の5月にメッセージくれていて、きのうつながったけど、
機械音痴だから、ますます時代に取り残されていく気がする。いいけどね。これから
お風呂に、それから「きみや」さんに飲みに行く。





いま「きみや」さんから帰ってきた。きみやさんの隣で、きみやさんのお客のひとり
だったまことちゃんが立ち飲み屋さんの「HOPE」っていうのを、きょう開店した
というので、ぼくも行ってきた。まあ、「きみや」さんの隣だから行ってきたというの
もオーバーだな。自分の好きなひとが、いっぱいで、楽しかった。よっぱ〜。





コインの力は、ちゃう、恋の力はすごい。ぼくのような怠惰な人間を勤勉にする。





鯉の力はすごい。





恋の力はすごくて、部屋の掃除をぼくにさせる。てか、それどころか、ぼくみたいな
怠惰な人間を、きれい好きにしてしまったのだ。





ぼくもジンときた。@fortunate_whale 僕はあなたに本を出してもらいたいと言われて、
涙を我慢するなう。





田中宏輔(たなかあつすけ)に生まれてきてよかった。ハラハラ、ドキドキ、いっつ
もギリギリの、めちゃくちゃすぐる、おもしろい人生をおくれて。





蟻だと思います。





台風なのに。





なにが、ぼくを土地狂わせたのか。





嵐のような雨だった。きのうのように激しい雨はひさしぶりだった。台風が去ったあ
とのように、きょうは雲ひとつない天気になった。土曜日だというのに、妻は仕事に
出た。お得意さんのクライアントの都合らしい。二人の子どもたちは、ボーイスカウ
トのキャンプに出かけた。家にいる





わたしひとりだ。庭に出て、料理用鉄板に火をつけた。軒先に、ひょこりとリスが顔
をのぞかせた。料理用鉄板がじっくりと温まっていた。全身にオリーブオイルを塗っ
て、ペパーソルトとバジルをふりかけた。空には雲ひとつない。さっき顔をのぞかせ
たリスも、どこかに行ってしまった





のだろうか、姿が見えない。十分に温まっただろうか。料理用鉄板にオリーブオイル
をふりかけた。十分に温まったようだ。オリーブオイルの弾ける音がして、焼ける匂
いがして、たちまち湯気のように蒸発していった。わたしは、鉄板のうえに立って、
さっと身を横たえた。ジューという





音がした。全身に、その音がしみ渡る。音が小さくなり、十分に焼けたと思われたこ
ろに、身体の反対側を鉄板にあてた。ふたたび、ジューという音が全身にしみ渡った。
音がしだいに小さくなっていく。空には雲ひとつなかった。わたしは、料理用鉄板か
ら降りて、庭椅子に腰かけた。





リスの姿もなかった。わたしは、自分の右腕にかぶりついて、自分のやけた肉を食べ
た。肉は、なかなか噛み切れなかったけれど、思い切り力を入れて噛みとって、口に
入れた。腕からしたたり落ちる肉汁をなめとり、新しい部分にかぶりついた。わたし
の遺伝子をつかった、わたしに





そっくりの食用人間を食べてみたのだが、記述が混乱したようだ。しばしば、わたし
の記述は混乱しているようだ。庭を片付けると、食用人間たちのいる部屋に行った。
たくさんのわたしが、テーブルについていた。自分の遺伝子を持つ食用人間と同居し
ている人間は、このごろでは、そう






珍しいことではなくなったようだ。さいきんでは、自分の遺伝子だけではなく、自分
の娘や息子の遺伝子や、自分の親の遺伝子をつかった食用人間と同居しているひとた
ちもいる。妻が仕事から帰ってきたら、わたしを食べることができるように、残った
わたしの肉を調理しておこう。





この記述が混乱しているのには、二つの理由がある。一つは、これが神のお告げであ
ったことからくるもので、おまえ自身を火にくべて食べよ、という神の声が、わたし
に書かせたものであるという理由によるものである。神の声は、しばしば、わたしを
混乱させてきた。もう一つの理由は、





父の秘密の日記を、わたしが、きのう父の遺品のなかから見つけたことによるもので
あった。父は、40人ほどの人間を、ほどのというのは、精確な人数がいまだに確定
されていないからであるが、殺害して食べたという人物で、その罪によって死刑にな
るまで、膨大な量の口述日記を





書籍にして出版させていたからである。秘密などなかった。つまり、わたしが見つけ
た父の日記は、犯罪が発覚するまえのもので、ひとに話して聞かせた自伝とはまった
く別の存在であったということである。父の日記は、楽園ではじめて目がさめたとき
の記述からはじまっていた。





父は目をさますと、さいしょに神の顔を見たらしい。つぎに目をさますと、のちに妻
となるイヴの顔を見たという。妻となったイヴと、二人で、さまざまな動物たちに名
前をつけていったという。名前をつけるまでの動物たちと、名前をつけたあとの動物
たちとでは、まったく別の生き物か





というくらいに違いがあったらしい。動物たちだけではなくて、鳥たちや魚たちや、
木や花たちも、名前をつけられると大喜びして、二人に礼を言ったという。名づけら
れると、すべての生き物たちが生き生きとした表情を持ったものになったと書いてあ
った。そういうものかもしれない。





妻が帰ってきたようだ。玄関のドアが開く音がした。父の日記を引き出しにしまうと、
わたしは両腕を真横にのばして、手首のところで、はげしく手をはばたかせて、パタ
パタと空中に浮揚すると、階段のうえに自分の身体を浮かせながら、二階から一階へ
と、ゆっくりと下降していった。





自分の遺伝子を家畜に、というアイデアは、おもしろいと思った。たぶん、未来の食
卓では、自分の遺伝子をもったレタスやトマトやキュウリなどのサラダが食べられる
と思う。自分の自我にまみれた詩が、自分にとっておもしろいものなのだから、自分
の遺伝子をもったサラダもおいしいはずである。





食べたい。





記憶障害を30代のときに起こしたことがある。大学なんか、とっくに卒業している
のに、自分のことを一回生だと思って、朝に目が覚めると、大学に行く準備をはじめ
た。大学院を出てすぐに家を出たので、見慣れない部屋にいると思って、ようやく、
自分が学生ではなかったことに気がついたのである。





自分の年齢もおかしくなって、高校に通わなくては、と思って、自分が通っていた堀
川高校のときの同級生の顔を思い浮かべたのだが、また混乱して、亡くなった同級生
のことを思い出して、ふと、もう何年もまえのことだったことに気がついたのであっ
た。40代になって、記憶障害がなくなった。





しかし、記憶が障害になっているのではなくて、記憶が混乱していただけなのかもし
れない。現実の自分の記憶とはちがう記憶、おそらく読んだ本や見た映画などによる
潜在自我への働きかけが、偽の記憶を混入させようとしていたのだと思う。





精神的な危機を、30代で味わったが、そういう混乱がなくなって、40代になって、
作品は逆に混乱したものになった。「マールボロ。」のころであるが、現実をコラージ
ュするだけで、非現実になることに気がついたのであった。





また自分自身の現実だけでも、コラージュすると詩になっていったのだが、そこに、
友だちなどの現実をコラージュすると、たちまち詩になっていったのであった。その
一連の作品は、詩集「みんな、きみのことが好きだった。」に入れてあるが、その事情
は、The Wasteless Land.II に





詩論詩、というかたちで、まとめて書いておいた。50代はじめのいま、40代から
の状況がつづいていて、自分の現実や、友だちの現実をコラージュしまくっている。
純粋な創作は稀になっている。SFっぽい設定のものを除いて、の話であるが。そう
だ、あしたは、薔薇窗に送る短篇小説を仕上げよう。





遠慮なう。





義理なう。





とかっていうツイットができる。





ツイッターは、ストレスレスにしてくれる装置のような気がする。





コンビニに、ビールとタバコを買いに。きょうの一日の後半の幸せすぐるぼく自身に
お祝いをするため。夢を見ているのか。そうだ。あらゆることが夢、幻なのだ。





ぼくは自分がゲイであることが大好き。ふつうなんて、いらないもの。@VOICEofLGBT
@hosotaka セクマイであることは別に恥ずかしいことじゃないし、隠さないで堂々と
すればいいのはわかってる、でも頭ではわかってるけど心がついていかないのよね〜
(´ω`)





まあ、バカな生き方だと自分でも思うけど、詩を書くなんて大いにバカなことをやっ
てるんだから、バカであたりまえである。それにバカじゃない芸術家を、ぼく自身、
見たいとも思わないし。かしこく生きるなんて、まったく興味がない。簡単に恋に溺
れるし、溺れて何度も死ぬのである。すばらしい人生だ。





涙を通してしか見えないものがあると、ズヴェーヴォか、ブロッホが書いていました。
@yamakeiyone @sakurihu2





泣きたいくらい、幸せな一日だった。





若いときは幸せがこわくて、自分のほうから幸せを壊してた。なんという愚かなぼく
だったのだろうと、齢をとって思う。幸せは、ほっておいても壊れるものなのだ。ど
れだけ壊さずにおいておけるのかが技術なのだと、いまのぼくは思う。そうだ、幸せ
は技術なのだ。いつからでもはじめられる技術なのだ。





手話ができるようになるまで、どれくらいかかるのだろうか。手話で詩を伝えること
は可能だろうか。ふと思いついただけだけど、将来、手話通訳をしたいと語る青年の
話を聞いて。こころにとめておこう。





新しい花の種を買ってきた。大きめの鉢に植えると、数日で、手足が土の間にのびて
いくらしい。たしかに、ジリ、ジリという音が昼間、聞こえた気がした。その音がし
て二日後に目が出てきて、耳が出てきて、花がのびて、唇が開いた。やがて、顔が現
われ、手足も現われた。自分を傷つけながら、さらに





成長していった。そこらじゅうに傷口がのぞかれたが、焼けただれた喉が、もっとも
美しかった。「傷口の花」か、なかなか見ごたえのある傷口だった。こんどは「癌の花」
を買ってこよう。





「真っ赤に焼けた鉄の棒を腕や胸や顔に押し付けられた男の悲鳴」という種を買って
きた。鉢に植えて育つのを待った。さいしょの数日は、単なる息をする音しか聞こえ
なかったのだけれど、三日目の夜中に突然、絶叫する声がして飛び起きた。たしかに
真っ赤に焼けた鉄の棒を押し付けられて叫んだ男の声の





ようだった。レコーダーをチェックした。ちゃんと録音できていた。男の悲鳴は断続
的にだが、数時間つづいた。絶命したころには、ぼくも汗だくになっていた。すごい
緊張感だった。スリリングで戦慄するべき迫力のある声だった。このシリーズは、ほ
んとにいい。真に迫っていた。シャワーを浴びるために





服を脱いで、浴室に向かった。





新しい吉田くんが販売されたので買ってきた。何人かの古い吉田くんが、すでにいら
なくなっていたので、売りに行った。あんまり古いボロボロの吉田くんは、買い取れ
ないと言われた。「こちらで処分しましょうか?」と言われたのだけど、以前、そう言
っておいて、その古いボロボロの吉田くんを売っていた





ことを知っていたので、「処分して」もらわないで、そのまま古い吉田くんを連れて帰
った。部屋にはいちばん古い吉田くんから、いちばん新しい吉田くんまで、20人以
上の吉田くんがいる。みんな、少しずつ違った年齢の吉田くんたちだ。





わぉ。はじめての差し入れ。元彼もよくしてくれたな。がんばってルーズリーフ作業
するぞ。





ときには、泣きたいほどの幸せというものも、つづくことがある。





詩人になりたいと思ったのは、言葉の魔術師になりたかったからだ。ルーズリーフ作
業は、その修行の一つ。言葉で、どこまで、いろいろなことができるか。だから、ぼ
くがフォルマリストであるのも当然のことなのだ。フォルムは魔術の根幹にあるもの
で、ぼくが発明したフォルムは、ぼく独自の魔術である。





しかし、フォルムは使用されるたびに強度がますものであるが、乱用されると、その
効果が薄れるものでもある。恋と同じだ。恋もまた魔術の一つなのだ。そこにはフォ
ルムもある。恋も、魔術も、詩も、才能が必要だが、やはり弛まぬ努力が必要なのだ。





というか、フォルム自体がほとんど魔術そのもので、フォルムだけで魔術の大方の準
備が終わっているのだと思う。フォルムに当てはめる言葉の意味と音は、単にフォル
ムを強固にする形象と音にしか過ぎないと思う。フォルムによって、ぼくは、ぼくに
めぐり会う。フォルムによって、きみは、きみにめぐり合う。





そうして、ぼくがぼくにめぐり合うことによって、ようやくぼくがぼくとなり、きみ
がきみとめぐり合うことによって、ようやくきみがきみとなるわけだ。ぼくがぼくで
あるときに、かつ、きみがきみであるときにだけ、ぼくときみは抱擁し合うことがで
きる。一つの永遠の中で、あるいは、複数の永遠の中で。





そもそも、形式は存在の入れ物であって、存在は形式がなければたちまち蒸発して消
滅してしまうのだ。魂というものが、人間という入れ物がなければたちまち蒸発して
消滅してしまうように。形象や色彩や感覚といったものが、事物や事象といった入れ
物がなければ、たちまち蒸発して消滅してしまうように。





二人がはじまりだったのか、恋がはじまりだったのか。恋があって、二人がその形式
にあてはまってしまったのか。恋という形式が二人の存在を必要としたのか。あるい
は、同時生起。それとも、恋が存在で、二人が形式だったのか。あるいは、二人がじ
つは恋で、恋が二人だったのか。考えるまでもなかった。





幸せと辛いって、似てるんや。





うゎ。ほんとですね。なんだか〜。@kayabonbon 若いと苦いも。 RT @atsusuketanaka:
幸せと辛いって、似てるんや。





言えてます。そして、一度でもいいから、幸せが辛くなるほど経験してみたいですね。
@fortunate_whale 辛いけど幸せや。





若さ。苦しさ。ううん。@pakiene 若いという字は苦しいという字に似てるという歌が
ありましたね。 QT @atsusuketanaka うゎ。ほんとですね。なんだか〜。@kayabonbon
若いと苦いも。 RT @atsusuketanaka: 幸せと辛いって、似てるんや。





だけど、もしも、この世に、二人きりだったら、ぼくたちは幸せなのだろうか、と考
えてしまった。





朝早く起きたし、専用のクリーム塗って、かかとの角質とって、頭を刈って、頬ひげ
とあごひげを剃ってた。頬ひげは、キスのときにほっぺにあたって痛いと言うので、
笑。さあ、お風呂に入って、仕事に出よう。





きょうもルーズリーフ作業。もう、一生、勉強なのね。





自分の言葉をコラージュして驚いたことの一つに、順番を変えるだけで、自分が考え
たこともないことが、思いついたこともないことが書くことができたということがあ
る。たしかに、パスカルがパンセに書いていたように、思考というもの自体、考える
順番を変えるだけで違ったものになるのだから当然か。





しかし、コラージュは、そのことが如実にわかる構造をしている。わたしは、わたし
が考えたこともないことを、思いついたこともないことが書くことができて、ほんと
うにうれしい。ツイット・コラージュ詩は、全行引用詩、サンドイッチ詩、引用詩、
●詩と同様に、わたしの強力な魔術の一つとなるだろう。





パスカルは言葉の配置を変えるだけで異なる思考になると書いていた。コラージュ。
たしかに言葉の順番を変えて配置したために、とても奇妙な思考の流れとなって、ぼ
くではないぼくが、いや、ぼくではあったが、顕在したことのないぼくが現出した感
じがしたのであった。無限を表現する有限の手法の一つ。





塾の帰りに、ホーガンの「星を継ぐ者」を105円で買った。これで、7冊目か、8
冊目。ひとにあげているからだけど、これは自分ようにとっておくことに。論理、論
理、論理で、さいごの2ページばかり、抒情という、大どんでん返しの構造に、ぼく
はほんとにびっくりした。高校生のころかな。





落ち着いた恋などしたことがない。天国と地獄の間を行ったり来たり。神さまは、ぼ
くの人生をそういうものにしてくれている。それでいいのだとも思う。プライム・タ
イム。どんな状況にあっても、ぼくはいつも、ぼくの人生最良の日を生きているよう
だ。詩人とはかくも不幸にして幸福な人間なのであろう。





数秒後に、なんて言ってほしかったのか悟る。電話が切れたあとで。恋をしていなく
てもバカだけど、恋をしているとよけいにバカなぼくだ。だから、詩など書いている
のだろう。恋をじょうずにできるひとは、詩人になんてならないんだろうな。これは、
バカな自分に対する、ちょっとした慰めの言葉、笑。





そして、その言葉を電話では伝えることができなくて、メールに書いて送ったけれど、
返事がないという状態。こんなことの繰り返しばかりしてる。愛することは学ぶこと
ができると思っていたけれど、ぼくには、とてもむずかしい。恋とは技術であるなど
と偉そうに書いていた自分を、つくづくバカだと思う。





きょうも、ルーズリーフ作業。ロバート・ネイサンの「ジェニーの肖像」から。





芸術家小説の系譜でしょうか。トーマス・マンのトニオ・クレーゲルのような。付箋
だらけです。書き写す作業がたいへんですが、書き写すことで、こころに刻みつけら
れます。@junju_usako





恋の力はすごい。10年間してこなかったことを、ぼくにさせた。以前、アメリカ人
の女性としゃべっていて、恋って、なにってきいたら「Change.」って言ってた。わた
しを変えるもの。わたしが変わるもの、あるいは、わたしのものの見方を変えるもの
って意味だろうと思った。そのとおりだ。





52才にもなって、恋をするなんて、思ってもいなかった。正直、詩を書くことのほ
かは、なにできない、汚らしい、ハゲ・デブ・ブサイクなオジンやと思っていたのだ。
しかも唯一、自分にできる詩を書くことだって、世間的に見れば、変人以外のなにも
のでもないのだし。でも生きててよかった。





死んでしまいたいと本気で思ったことも何度もあったし、しょうもない、ろくでもな
い人間だったし、いやらしい、せこい人間だったのだけれど、恋は、そういう自分を
すこしでも変えてくれる力があるのだった。ぼくは詩や小説が大好きだけれど、それ
は人間が大好きだったからだと、あらためて思った。





きのう、日知庵のつぎに、立ち飲み屋さんの HOPE さんに行ったら、きみやさん
のまるちゃんがいて、いっしょに来てた女性も魅力的で、ぼくの好きなひとばっかり
だった。飲みまくって、ベロンベロンになって、部屋に帰ったら爆睡していて、いま
好きな子のメールも見れなくって、大バカものだった。





そうですよね。このあいだ、「あしたもがんばれる。」と、好きな子にメールしたら、
「お酒の力でやろ。」と書かれるぐらいののんべえですけれど、もう若いときのように、
お酒で失敗はしないように気をつけます、笑。@tkc_nyc 恋っていくつになってもいい
ことと思います!応援してます(^^)





そのとおりですよね。でも、言葉がしばしば詰まるような恋も、味があって、おもし
ろいですよ。まあ、おもしろいと思えるのは、恋愛が終わってからかもしれませんが。
若いときのつまずきは、しばしば、甘美な思い出となります。@LalalalaRush 言葉に
詰まるようじゃ恋はおわりね





たゆまぬ変化こそ、永遠なのでしょうね。いや、たゆまぬ変化への意志でしょうか。
なんべんくじけても、やる気が出るのは、人間は変化することができると、信じてい
るからかもしれません。Change しましょう。@tkc_nyc ぼくもChangeしなくてわー!





芸術家の役目の一つに、愚かさをさらすというのがあると思っている。愚鈍な生きざ
まを世間にさらして、ひとの気持ちを生き生きとしたものにさせること。ぼくみたい
なジジイが恋をしてるってことで、それがまたへたくそな恋愛をしてるってことで、
いくらかのひとに影響を与えることもあるのだと思う。





Changes。デビッド・ボウイの曲を思い出した。きょうは、これから、耽美文藝誌『薔
薇窗』に連載している小説「陽の埋葬」を仕上げよう。そうだ。BGMはボウイのア
ルバムをかけまくろう。





むかし林檎のような香りの息をする子がいた。どれだけすてきなんやろか、この子は、
と思ったことがある。このあとは書かないほうがいいかな。@cap184946 部屋がいい香
りしてる。#アップルティー飲んでます





彼ら彼女ら自身がすでに地獄そのものなのでしょうね。@kiyoekawazu 以前も書いたが、
人を差別する歓びは、死の欲望に似ている。フロイトがそのあらわれの例として、痛
い虫歯に何度もさわってしまう行為をあげたように、みずからの汚い感情にふれ、増
幅することに歓びを感じるのだから。





でも、なにが強力かって、恋愛の魔術ほど強力なものはない。魔術をかけられた人間
だけではなくて、その周りにいる人間たちも巻き込まれて魔術の影響を受けてしまう
のだから。しかし、真の魔術は魔力がなくなったときにはじまるのかもしれない。知
らないうちにまったくの別人になっているのだ。





世界文学の最良のものばかり読んでいると、自分の文章のつたなさが、ほんとうにつ
らい。自分の小説の「陽の埋葬」の続篇を手直ししていて、そう思った。詩のほうが、
はるかにおもしろい。向きと不向きがあるんだな。小説を書いていたぼくに、詩を書
けと言ってくれた、むかしの恋人に感謝するべきだな。





掃除好きじゃないのに、目についた埃とかもすぐにふき取ってる自分がいる。やっぱ
り変わったんだな。びっくり。





恋愛は若いものの幸福な特権であり、老人の恥辱である。(シルス)

ときには恥もまたいいものだよ。(あつすけ)





きょう、これから何十年ぶりかで、パチンコをすることに。これもまた恋の力。はて
さて、どうなることでしょう。





数十年ぶりのパチンコ、負けた。やっぱり、才能がないみたい。帰りに、カラオケし
た。ビートルズ、ジョン、ポールのソロ、ひさしぶり。思い切り、熱唱。





そのうちに行こうね。高音、熱唱系だよね。@cap184946 カラオケいきたいです!





雪を圧し潰して、ぎゅっとかたまった雪のうえに太郎たちが眠っている。雪を圧し潰
して、ぎゅっとかたまった雪のうえに次郎たちが眠っている。(達治せんせ、ごめりん
こ)





きょうは、これからお風呂に入って、それから四条木屋町の「きみや」さんと、その
隣の「HOPE」さんへ飲みに行くよん。らららん。





電話でツイットのことを言うと、電話中の友だちが、「超イケメンも行くよ」と書き加
えろとリクエスト。どあつかましい。きょうは、ゲイ、二人で騒ぐのね。





で、きょうもカラオケに行くことに。きょうは友だちと。きのうは・・・。ぶひっ。





きょうは友だちと。洋楽しか歌わないぼくたち。@cap184946





サンちゅ!@cap184946 オシャレおやじ!





いま帰った。ヨッパで、飲み屋で飲んでいて、好きな子から電話があったのに、マナ
ーモードで、気がつかなかった。思い切り、あやまった。こんなに人にあやまったの
は、これまでになかったくらい。しかし、ゆるしてもらえてよかった。ゆるしてもら
ったのかな。どだろうか。あした以降にわかることだな。





翻訳の手直しをしてた。20カ所くらいいじったので、またブログにアップした翻訳を、
これから訂正していく予定。これをさいごに、あしたの朝、アメリカ人の編集者に原
稿を送って序文の催促をして、ぼくが後書きを書き終われば、あとは思潮社に送るだ
け。後書きにはハウスマンの詩の翻訳を載せる予定。





まずい日本語だと思う個所がなくなった。難解な日本語だと思う個所は数か所あるけ
ど、原文がそうなっているのだから仕方がない。でも、ベストを尽くしたつもりだ。
いつも、自分の限界ぎりぎりまで才能を絞り出して作品をつくるけれど、こんかいの
翻訳は、ぎりぎりのぎりぎりって感じだった。





姓名判断だと、ぼくの運命は最悪らしい。最悪で、これだったら、ぼくは十分に満足
だけどね。すばらしい詩と、すばらしい小説に出合ってきたし、なによりも、すばら
しい友だちや恋人と出合ってきたのだと思うと、それ以外のことは、まあ、ほぼ、ど
うでもよい。恋は終わりもすれば、はじまりもするのだ。





きょうはケビン・シモンズさんに翻訳を添付してメールで序文の催促したら、あとは、
ルーズリーフ作業のつづきと、アン・ビーティの短篇集を読みのつづきを塾のある夕
方までする予定。きのうは、好きな子と4時間いっしょにいれたのだけど、きょうは
たぶん会えないから、さびしい気持ちを味わうと思う。





そのさびしさも、人生の味で、じっくりと味わおうとしている自分がいる。なんちゅ
う生き物なんやろか、人間って。





ケビン・シモンズさんにメールを送った。序文がいただけたら、すぐに出版社に送る
と書き添えて。ぼくも後書きを書かなくては。後書きを書くのは、十年ぶりくらい。
なぜぼくがLGBTIQの詩人たちの英詩を翻訳したか理由を書かなくては、と思う
気持ちが、後書きを書かせるのだけれど、緊張するなあ。





まあ、だいたいの構想は、すでに頭にあるので、それを書けばいいだけだけど。これ
からマクドナルドに行って、モーニングを。あるいは、西院のパン屋に行くか。愛あ
る生活。恋している状態はひさしぶりなので、ちょっと嘔吐感に近いものを感じてい
る。おそらく口のところまで幸福でいっぱいなのだろう。





十年ぶりに携帯をもつことにした。しじゅう、好きな子と電話とメール。そら、みん
な、携帯もつわなあ、と思った。お昼ご飯をいっしょに、とのこと。夜は、ぼくが塾
で会えないから。お昼ご飯をいっしょだけでも、じゅうぶん幸せ。というか、なに、
こんなに幸せで、いいのか、って状態。死ぬぞ、きっと。





ツイット・コラージュ詩の編集をしている。自分の生活の振り返りでもある。まず、
採り上げるものと捨てるものとの選別をして、それから順番を換える。ほとんど、ス
ロットのようなもの。(スロットという言葉、このあいだ、数十年ぶりにパチンコとス
ロットをして、つい、使ってしまった。恋人のおかげ)





しかし、やはり、さいしょの直観は正しかったのかな。はじめて会った日の帰りに、
バスのなかで、きゅうに、10CCの「愛こそはすべて The Things We Do For Love」
の曲が流れだしたのだ。





家の環境もそうでしたが、ぼく自身、ほぼ西洋文化一辺倒です。文学では、日本文学
を含めての世界文学にしか興味がないので、ナショナリストの気持ちがよくわからな
いでいます。頭が悪いひとたちとも思いませんが@kiyoekawazu ナショナリズムは情動
を正当化する最大の装置である気がする。





悪そうな気はします。まあ、頭は悪くてもべつにいいとは思いますが、レイシストな
んかは、頭が悪いうえに、ひとに愛されたこともないかわいそうなひとたちで、また
教養の足りないひとたちなのだと思っています。@kiyoekawazu ナショナリズムは情動
を正当化する最大の装置である気がする。





朝からラブラブメールで、自分がきっしょい、52才、ハゲ・デブ・ジジイのゲイの
詩人かと思うと、なんだか、コミカル。





恋と詩と小説と。ほとんど映画の主人公の気分。52才、ハゲ・デブ・ブサイクさを
のぞけば、笑。あ〜、生きててよかった。きょうもお昼ご飯いっしょだなんて幸せす
ぐる。神さま、ありがと。きょうのお昼まで、ぼくを生かしておいてくだされ。





ありがとうございます。じつはいまもちょっといっしょでした。いま見送って、部屋
に戻りました。あと数時間で、またお昼ご飯をいっしょにします。お仕事ガンバです! 
@kayabonbon あー、いいないいなー!と羨ましい気持ちいっぱいでお仕事してます笑
しあわせな時間になりますように〜。





MADONNA の Ray of Light を聴きながら、ルーズリーフ作業してる。めっちゃはかど
る。音楽のせいかな。恋のせいかな。両方のおかげかな。





吉田くんが読んでる本めがけて、言語爆弾を発射してやった。見事に命中したみたい
で、吉田くんが読んでた本のページの言葉がばらばらになって、ぜんぜん違った文章
になってたり、文章にもなってなかったりして、怒った吉田くんが本をぼくに投げつ
けた。本のページから文字がこぼれて、顔にくっついた。





詩人は、言葉が生み出したものも愛しているが、生み出された言葉そのものも愛して
いるものである。





詩人は、言葉を生み出したものも愛しているが、言葉が生み出したものも愛している
し、また、言葉そのものをも愛しているものなのである。





詩人は、言葉を生み出したものも愛しているし、言葉が生み出したものも愛している
のだが、じつのところは、言葉そのものを愛しているのであった。





そして、至福の一時間があっという間に過ぎ、詩人は、ふたたびルーズリーフ作業に
戻るのであった。





田中宏輔の第一印象
「清楚系」
「リア充」
「オタク」

田中宏輔の今の印象
「ホモ」
「ご主人」
「RT魔」
http://shindanmaker.com/360789





ホモは差別語だぞ、笑。





詩とは、新しい形の創造であり、新しい音の創造であり、新しい意味の創造である。
少なくとも、そのうちの一つでも創造しなかったものは、詩とは呼ばれる資格がない
ように思われる。





その文章のなかには、意味が不明な言葉がいくつかあった。しかし、知っている多く
の言葉から、その未知なる意味の言葉の輪郭がしだいにはっきりしてきた。何度か読
み返すうちに、とつぜん、その未知なる言葉の意味が了解された。ぼくがLGBTI
Qの詩人たちの英詩を翻訳していて、よくあることだ。





一瞬のあいだに多くのことを学ぶこともできれば、一生のあいだに何も学ばないこと
もできる。それは、単なる意志の問題ではあるが、偶然という神による恩寵の問題で
もある。





いまルーズリーフ作業は、ナンシー・クレスの「プロバビリティ・ムーン」。BGMは、
ノヴァーリスの「BRANDUNG」 B面の組曲が、なんといってもよい。やっぱり、ぼく
はプログレが好きだ。だから、ぼくの詩もプログレっぽいのだろう。あれ、じゃあ、
ほかの詩人は、ふだん何を聴いているのか?





恋をして、やはりいちばんスリリングなのは、自分がどんどん変わっていくことだと
思う。若いときは、自分に才能があると思っていて、作品をつくる才能以外でひとを
見なかった。いまは、才能なんて、みんな持っていて、ただ作品をつくっていないだ
けだとわかっていて、そのひと自体を作品として見てる。





実現された自分の作品のまずしさも、ようやくわかるようになってきた。実現された
作品、すなわち、ぼく自身のことであるが、人間というものは、自分を作品として永
遠につくり直しつづける芸術家なのだと思う。





理想のタイプで、ぼく自身がびっくりしています。ぼくだったら、こんなハゲ・デブ・
ジジイは嫌だから。彼の目からぼくを見れないのが残念ですけれど、見れなくてよい
のかもとか思ってみたり。ひさびさに、一瞬一瞬が生き生きとしています。
@m_shinkirou 恋してからの宏輔さん、キてる。





http://www.youtube.com/watch?v=HNPNaLTxl0… チューブでのぼくの朗読ですが、た
しかに、頭ひかりまくってます。えいちゃんに撮ってもらったのですが、ひかってる、
ひかってると笑われまくりました、笑。@kuroikenban恋をしていらっしゃるから、さ
らに後光がさしているようですw





最大限の努力で、最小限の効果を発揮します。違った、違います、違いました。最大
限の努力で、最善の翻訳にしたいと思っています。応援くださり、ありがとうござい
ます。@m_shinkirou (…)翻訳詩集、楽しみにしております。





いまニコニコキングオブコメディ見てる。2週間おきの至福。





ぼくも3時30分に目が覚めました。脳が覚醒しているみたいです。脳は、とても敏
感で繊細な器官なのですね。恋にはよろこびも大きいですけれど、そのよろこびの大
きさの分、不安も大きいようです。@kayabonbon てか何で目が覚めるんだよこんな時
間に。夢見も悪いし、もう一日寝ていたい。





ぼくも祈っています。恋をすると、神さまに祈るようにもなるのですね。もちろん最
大限の努力をしてのちの祈りですが。といいますか、だからこそ神にも祈ることがで
きるのだと思います。最大限の努力をしたうえでの偶然という神の恩寵をしか、もう
期待するしかありませんもの。@kayabonbon





ぼくの引用詩や全行引用詩も、まったく同じことを言われました。「なぜ 自身の言葉
で あなたの詩を書かないのだろうか」20年以上も前です。進歩がありませんね。
教養がある人間は、もうそんな見方をしていません。自分の言葉があると思い込んで
いる稚拙な脳の持ち主たちですね。@kohimon





朝からルーズリーフ作業、体調すこぶるよし。





オリバー・ストーンと大林宣彦さんの対談を思い出します。原爆の光球を遠くからな
がめたひとが美しいと思うことはあると大林さんが述べたとき、ストーンは激怒しま
した。より芸術家としての感性にすぐれた(ストーンは政治性が強い)大林さんの意
見のほうがぼくには胸に落ちました。@kohimon





きょうブックオフで買った本、巨匠とマルガリータ、上下、各105円、アポリネー
ルの短篇、ツァラの近似的人間、ブルトンのナジャ、アラゴンの文体論、エリュアー
ルの詩集が入った講談社の世界文学全集の一巻、これも105円。ナジャをひとにあ
げたので買った。ナジャ、チラ読みして詩を思いついた。





詩や小説のなかには、ほかの場所では生き生きとしていた言葉がまるっきり死んでし
まっているものがある。詩や小説によっては、ほかの場所では死んでしまっていたよ
うな言葉が新しく生まれ変わったように生き生きとしているものがある。詩や小説に
おいて、問題とは何か? 言葉の生き死にの問題である。





書店の本棚をつぎのように分類してみてはどうか。たとえば、小説なら、「超難解な小
説」「難解な小説」「大半のひとにとって難解な小説」「多くのひとにとって難解な小説」
「少数のひとにとって難解な小説」「ごく少数のひとにとって難解な小説」「難解だと
思われたことのない難解さをもつ難解な小説」





自分の書いたものが新しいものか、そうでないものか、いままで書かれてきたものと
同じようなものか、そうでないものか、その判断力さえあれば、詩や小説を書いても
いいような気がする。その判断が正しかったのか、正しくなかったのか、それは、自
分で検討しなくともよい。時間がしてくれるだろうから。





いい夢、見れたらいいなあ。恋か。たぶん、ぼくはバカなんだろうな。底抜けのばか。
おやすみ、グッジョブ!





不安、めっちゃいっぱいです。泣きたいほど幸せですけど、泣きたいほど不安です。
いま合計、4軒の居酒屋さんで飲んで帰って、ヨッパです。寝てるうちに死んでたら、
もしかしたら最高の幸せかもです。アホですね。@you_ki_yu_ki おやすみなさい、田
中さん。素敵な夢を、優しい明日を。





は〜い。クスリのんで寝ます。好きな子と飲んでいて、ヨッパらってしまって、カッ
コよく飲めない自分がいて、なんて、カッコ悪いのやろと思って、でも、ヨッパらっ
てしまうしかなくって、とっとと死んでしまいたいと思いました。ほんとにカッコ悪
いです。寝ます。泣きながら。@azur_9171





いまケリー・リンクの「マジック・フォー・ビギナーズ」のルーズリーフ作業をして
たんだけど、友だちからカラオケのお誘いがあって「おごり?」と訊くと「かまへん
よ、このビッチ!」とのことで、カラオケに。





恋は饒舌にさせる。愛は寡黙にさせる。





不幸が才能であるように、幸福もまた才能である。





ひとつの映画が、ひとつのTV番組が、世界の見方を変えることがある。ひとつの詩
の形式が世界の見方を変えることもあるだろう。いや、つくり変えることもあるのだ
と思う。





出来のよくない詩人は、自分に関する話題にしか興味がない。





事実は詩人に喜びを与える。じっさいにあった出来事というだけで、詩人には、それ
がとても貴重なものに思えるのだ。詩人は事実に最高の価値を見出す。大事なのは、
その事実を取り巻く状況であり、その事実の理解であり、解釈であるというのに。





ツイットで過去を留める。作品をつくって過去を留める。人間は、そうして過去に生
きる。ラスコーの岩壁に絵を描いた原始人たちも、その描いた絵の過去に生きただろ
う。その絵を描いたときはもちろん、その絵を見るたびに、その絵が描かれた時間と
場所と出来事のなかに飛び込んでいったことだろう。われ





われが詩や小説や映画という他人の経験のなかで、それが架空のものであるときにさ
え、自分の過去を思い起こし、自分の過去をふたたび生きるように、岩壁に描かれた
絵を見て、その絵の描かれた場面に遭遇しなかった原始人たちもまた、その絵が描か
れた時間や場所や出来事のなかでふたたび生きただろう。





この詩人は、自分の作品のなかでは、なに一つ、ほんとうのことを書いていなかった。
いや、ほんとうのことを書いても、すべて嘘になってしまうのであった。





詩人は自分が一冊の本であることに気がついた。自分をペラペラとめくってみた。そ
こには、よく自分が覚えていなかったことや、自分が思いつきもしなかったことが出
てきた。まだはじめのところで、自分が死んでることになっていた。残りのページは、
生きているときのことを思い出して書いたものだった。





真実、愛した記憶がある者なら、だれもが知っている。すべての幸福の元型(オリジ
ナル)がそれで、ほかのあらゆる幸福がその複製(レプリカ)でしかありえないこと
を。たとえその幸福が持続したものではなく、つかの間のものではあっても。たとえ
その幸福が、当時はまったく幸福ではなかったとしても。





アン・ビーティの「あなたが私を見つける所」読了。繊細な描写は、いつもの通り。
新しい手法の発見とかはないけれど、読んでいて、すべての登場人物がちゃんと呼吸
をしていることがわかる。いまからアン・ビーティの「ウィルの肖像」を読む。アン・
ビーティ、あと2冊で完読。終わったらV・ウルフを読む予定。





まだ28ページだけど、悲劇の予感がする。280ページほどの本文の10分の1。
どうなるかわからないけど、まあ、ぼくもね。ぼくたちもと言いたいけれど。どだろ。





雨のなか、濡れて帰ってきた。お風呂に入って寝る。





読みたい本が本棚ひとつぶん以上ある。しかもそれは翻訳ものだけの話だ。原文のも
のも本棚ひとつぶんある。もう本を買うのはやめなければと思うのだが買ってしまう。
恋にも夢中だが、本にも夢中だ。52才。超貧乏な詩人。恥ずかしい。とっとと、は
やく死んでしまいたい。できれば睡眠中に。あかんか。





クスリが効いてきた。PC切って寝ます。





友だちって、どういう存在か、わからへんけど、いてくれて、ぼくの人生が生き生き
としてることだけは、たしかや。そして、ぼくの2番目に大事な詩とはなにか、これ
また、ぼくにはわからへんけど、詩しか、すがりつけるものがないのも、たしかや。
詩は遊びやけど、遊びがなかったら、生き生きできひん。





そのため社会に向けて働きかけるべきだと思います。ぼくも戦闘的な平和主義者です。
カミングアウトと拙い詩作と翻訳とでですが。@hosotaka LGBTが住みやすい環境は、
すべての人が住みやすい。 だから、LGBTだけでなく、すべての人と手を組み、寛容
な社会にしていく必要があるんだ。





カミングアウト歴30年です。いろいろありました。いろいろあって、いま、この世
に生きてます。みんな、いろいろあったほうが、人生、学べるよと言いたい。すべて
のイスラム圏ではないかもしれませんが、厳しいイスラムの国では、いまでもゲイや
レズビアンってわかったら死刑です。@hosotaka





もうそろそろクスリが効いてきたんで寝るけど、アン・ビーティの「ウィルの肖像」、
描写が繊細、極まりない。彼女の小説をもっとむかしに読んでたら、と思わずにはい
られない。彼女の本、出てるの全部合わせても、アマゾンで1000円ほど。いまで
も信じられない。1冊1円できれいなの何冊か買った。





いま帰った。きみやさんで、まさひこちゃんの誕生日をみんなが祝ってて、ぼくも参
加させていただいた。いっぱいいろんなことがあって、人生って、おもしろいなって、
つくづく思った。迷惑かけたひと、ごめんね。おやすみ。グッジョブ!





きのうは日知庵と、きみやさんの梯子。四条河原町から、歩いて帰った。好きな子の
家に近いところで別れて、自分の部屋に戻ったから、遠回りで歩いた。一時間以上は
確実に歩いた。





言葉と態度でいろんなことがわかるけど、ほんとうの気持ちが、言葉と行動にぜんぶ
出てるとは限らないし、むずかしいな。それに、ほんとうの気持ちなんてものも、す
ぐに、ころころと変わるものかもしれないし。数学の定理みたいなもんじゃないもの
ね。





見てるところ、注意を払ってるところが、二人ともぜんぜん違うし。そうだな。いま、
トーマス・マンの言葉が、ふと思い出された。トニオ・クレーゲルかな。「より多く愛
するものは敗者でなければならない。」さいしょ変換したとき、歯医者になった。廃車
でも、おもしろいな。おもしろがるぼくは変だな。





「好きだよ。」と言われて、「ぼくも好きの最上級やで。」と返事すると、「なんや、そ
れ。」と言われた。二週間まえのこと。きのうは「好きだよ。」と言われて、「えっ、な
に?」と聞き直したら、「もう、ええわ。」と言われた。きのうは、ベージュのポロシ
ャツ着てたんやけど、胸元に、チリソースこぼした。


蒼い思考

  前田ふむふむ

       
     1
                   
凍りつくような寒い夜である
沈んでいく 冬の街灯のひかり
ライトの下 くすんだ羽毛ふとんに覆われた あどけなさの残る 
少女のような女が ビルの脇で横たわっていた 透けるほど白い頬
 凍るかぜがふとんを叩いた 女は冷たい息を弱く吐いて うすく
開いた眼は 遠く来歴をみているようだった 路上で寝る女を見る
のは はじめてだった 未知の感覚を 母に話したら 不幸を呼び
こむから やめなさいと諭された 拒否した母の声から 少女のよ
うな女が流れている 柔らかな乳液のように

     2

雨が降ってきた
冬空がざわついている
こんなとき わたしの安閑を
破って それはやってくる
わたしはいつから薄光に揺れる塔を
意識しはじめたのだろうか
場所は全くわからないのだ
それは存在として
高くいつまでもあった
あの塔について考えることが 
わたしの命題として
いつも手の汗のなかに 狭い眼窩のなかに
あって その感触を忘れないことが
わたしの役割でもあるようだった
その塔のうえには 
無謬性のひかりの場所があって
一本のハクモクレンが
咲いているのだ
わたしは夢中になって
そのことを父に話したが
父は黙って壁のように立っていた
     3

父は家族が買いそろえた
白い羽毛ふとんのなかで
夏を待たずに死んだ
大きなあじさいの絵がかかった部屋には
羽毛ふとんがない以外に
何も変わっていない
たびたび その部屋にある
漆塗りの仏壇に線香をあげると
父がすぐうしろに座っている感覚が
からだ一面にひろがり
ほそい芯で灯っている胸に
父の視線が突き刺さってくる
夕暮れのような視線
心拍が激しく血液を流れて
わたしのからだは 殻におおわれた

     4

雨はやんだらしい
あれから梅雨のまんなかで
泣くのをやめたのだ
夜は静かになり
新しい羽毛ふとんをしいている

仏壇の鈴を鳴らすと
眼の前の
ロウソクが揺れている
そうだ
なぜ飛んでいるのか
わからなかったが
今思えば
あの塔を守るように
あたりを監視する飛ぶ鳥の群れを
もうずいぶんとみていない
毎日 飛んでいた空を 
燃やしているような 
ロウソクが 
やがて消えると
あたりは暗くなり
わたしは 座ったまま
白い羽毛ふとんに包まれて 
眠っていった

     5

背中のほうから 湿った呻き声が聞こえた ベンチで まどろんで
いたわたしは 寒さですくんだ手を口にほおばった 街灯のあかり
が ゆらゆらと眼のなか一面に泳いでくる ビル風がうずを巻いて
くる 禁煙 と書かれた看板が 無機的に貼られた公園で たむろ
している男の浮浪者たちが 鶏のようにたどたどしく動いている 
女が子を産んだらしい 透けるほど白い 少女のような女がタオル
を添えて 赤子を抱えているのだ 柔らかいいのちが 夜の冷気に
ひたり ふるえている なぜだろう 赤子の泣き声が聞えない 耳
のなかで砂あらしが吹いているようだ ひとりの浮浪者が壊れかけ
た電話ボックスで しきりに懇願をしている 他の浮浪者たちはあ
わてふためいている ぐったりと 地面に横たわりはじめた女の湿
った太股が あかりに浮かんでいる 傍らに 脈打つやわらかい白
磁のような赤子 鶏のような浮浪者が見守っている
公園に横づける 無音の救急車

    6

わたしはベンチから立ち 公園の門をくぐった
煌々と昼の顔をしたビルの電灯が いっせいに消えた わたしは大
通りにでて コートの襟を立てた ひとは歩いていなかった 塔の
ようなビルが断崖のように並んでいる でも あのむこうに いく
必要はないのだ それだけは わかるようになった いつからか 
そう思うようになった 少女のような女と赤子が吸う おなじ 空
気がとけて わたしのからだを流れている

耳のおくで ひとつ水滴が落ちた
わたしは寝返りをうった

 白い羽毛ふとんのなかで


WISH YOU WERE HERE。

  田中宏輔



●それでは●明日のあっくんの「意味予報」をお送りいたします●明日は●午前中ずっと意味が明瞭ですが●昼ごろから晦渋となり●午後から夕方にかけて●ときどき意味不明となるでしょう●夜は●明後日の未明まで●何を言っているのかまったく不明なだけではなく●それが言葉であるのかそうでないのかすらわからないことになるでしょう●なお●明後日から一週間は●原因不明の昏睡状態がつづくものと予想されますが●ときどきは意味のある言葉を口にすることもあるかもしれません●よく注意して耳を傾ければ●言及される箇所によっては●意味の通じるところもあるでしょう●それでは●ひきつづき●来週のあっくんの「意味予報」を放送いたします●ウピウプウピピ●ピリピュラリィー●ウリウリウリリリ●ウリトゥララ●ププププププ●チュリチュララ●チュリ●チュリ●チュリリ●プピ●プペ●プぺペー●プピ●プペペペー●ペッ●ペエエエエエー●ペッ●えっ●ミツバチがスズメバチに襲われている●やっつけられている●ミツバチがスズメバチに襲われている●詩人は漆黒の牛が青い花をくわえながら微笑んでいる●詩人は死んだ赤いエイのちいさな唇でプツプツと泡を吹く●ミツバチがスズメバチに襲われている●縁飾りではなくて●花綱●じゅんちゃん●ぼくの手を離すな●大山のふもとでは●高校生のじゅんちゃんと●ぼくが●鉄棒のそばで休んでる●樹の影に●ぼくはしゃがんで●じゅんちゃんは立っていた●ぼくたちは向かい合って●漆黒の牛は青い花をくわえて微笑んでいた●黄色い鶏が大空を飛んでいた●巨大な脚を●オイチニ●オイチニ●詩人は死んだ赤いエイのちいさな唇でプツプツと泡を吹く●オイチニ●オイチニ●ぼくたちは向かい合って●漆黒の牛は青い花をくわえて微笑んでいた●オイチニ●オイチニ●おまえの母ちゃんに言ってやろ●ふだん●あたちは●こんな下品な言葉づかいはしませんけど●笑●おまえの母ちゃんに言ってやろ●若メガネデブだった●鳥取には●ぼくも一度だけ行ったことがあるよ●学生時代にね●二十年以上も前のこと●大きい山って書いて●だいせんって読むんだよね●言うんだよ●かな●笑●まだ二十歳前だっていうのに●おまえは髪が薄かった●笑●すぐに二十歳になったけど●笑●きっと神さまへのお祈りがヘタだったんだろ●おまえの母ちゃんに言ってやろ●もうおまえはバカだし●ハゲだし●どうしようもないデブだったね●でも●それって遺伝かもね●いや●きっと遺伝だよ●おまえの母ちゃんも●ぜったいバカで●デブだったんだよねえ●まあ●おいらは●バカでデブのおまえが好きだったんだけど●笑●漆黒の牛が青い花をくわえて微笑んでいた●緑のきれいな大山のふもと●若メガネデブのおまえが通っていた高校の教室に●おいらもいっしょに坐っていたかった●痛かったのは●二十歳のおいらの肖像●おまえとめぐり合った●ハッチのおいらの映像●爆泣●笑●おまえの母ちゃんに言ってやろ●過ちは一度だけだったって●おまえとは●笑●漆黒の牛は青い花をくわえて微笑んでいた●ぼくは間違っていた●交換する●それは同化ではない●交換することは同化することではない●ぼくは間違っていた●青い花の縁飾り●白い皿の上●漆黒の牛は微笑んでいた●ぼくは間違っていた●青い花をくわえた漆黒の牛が微笑んでいる●交換する●それは同化ではない●しかし●いかなる存在も●他の存在といささかも同化することなしに存在することはできない●ぼくは二十歳だった●だれよりもかわいい●ぼくは二十歳だった●漆黒の牛がむしゃむしゃ●漆黒の牛をむしゃむしゃ●ぼくの喉を通る漆黒の牛の微笑み●青い花をくわえて●むしゃむしゃ●二十歳のぼくは●青い花をくわえてむしゃむしゃ●憶えてる●憶えた●憶えてる●憶えた●漆黒の牛は青い花をくわえて微笑んでいた●時間の指を●ぼくの目のなかでぐるぐる●交換する●それは同化ではない●どんぞ●そこんとこ●よろしく●笑●去勢された漆黒の牛が青い花をくわえて微笑んでいる●去勢された漆黒の牛が青い花をくわえて微笑んでいた●もっと●ぼくと愛し合おう●去勢された漆黒の牛は●あの夏の晩に青い花をくわえて微笑んでいた●ぼくときみが信じ合ったあの二十歳の夏の晩をむしゃむしゃ●ぼくじゃなきゃいやだ●あの二十歳の夏の晩じゃなきゃいやだ●青い花をむしゃむしゃ●ぼくときみをむしゃむしゃ●二十歳の夏のぼくたち●青い花がむしゃむしゃ●笑ってたあの夏の晩に●ぼくときみが信じ合ったあの二十歳の夏の晩に●一頭の若い牛が青い花をくわえて●ぼくたちを微笑んでいた●あの二十歳の夏の晩に●青い花がむしゃむしゃ●青い花はむにゃむにゃ●OK●知恵ちゃんは●牛乳瓶のふただった●紙でできた●真んまるい●目と目を交換する●意味ないじゃん●ほんとに●漣●むつかしい漢字だな●さざ波●きれいだよね●こっちのほうが●りっぷる・まーく●知恵ちゃんは●牛乳瓶の紙でできたふただった●そだよねええ●ふふん●ぼくのなかに知恵ちゃんがいて●怪獣のなかにぼくがいる●別の怪獣のなかに●その怪獣がいて●また別の怪獣のなかに●ぼくのいる怪獣がいて●またまた別の怪獣のなかにぼくのいる怪獣のいる怪獣がいて●そんなことが●毎日毎日繰り返し●ぼくの帰り道にあって●帰り道に●お風呂屋さんがあって●そのお風呂屋さんちの娘が同級生だったのだけれど●知恵遅れだった●名前が知恵ちゃんだったから●知恵遅れだったのかもしれない●同級生たちは●その子のことを●よく●バカ●と言ってからかっていた●牛のように太った身体の大きい知恵ちゃんは●でも●ふつうの人間のように見えることもあった●しゃべると知恵ちゃんは知恵ちゃんだったけど●だまって●ぼーっとしていると●ふつうの●だまってぼーっとしている同級生と変わらなかった●怪獣のなかにぼくがいて●その怪獣は別の怪獣のなかにいて●その怪獣はまたまた別の怪獣のなかにいて●ぼくは中心で●怪獣を操縦している●眺めはきれい●見下ろしてみると●知恵ちゃんは●ずっと小さい●指でつまんで●放り投げた●ぼくのようなものの見方をしたかったら●ぼくの目の缶詰を開けて食べればいいんだよ●ぼくのような言葉の音の出し方をしたかったら●ぼくの耳の缶詰を開けて食べればいいんだよ●ぼくのようにかわいらしいしゃべり方をしたかったら●ぼくの口の缶詰を開けて食べればいいんだよ●プンプン●うちゃ●くちゃ●うちゃ●くちゃ●どうも●どうも●びびび●ビン詰め●ナポレオン●ビンのなかでは●ナポレオンも腐っちゃってますぅ●あまりにながい年月でね●腐っちゃってるのは●ぼくのパパの缶詰もそうかもしんない●パパの缶詰を開けようと思って●パパの缶詰を手にとって●賞味期限を見たら●切れてたの●ブフッ●パパの缶詰に賞味期限があるなんて●知らなかったわ●でも●決定的に間違っていたのは●パパの缶詰を開けるためには●パパの缶詰を開ける缶切りの缶詰を開けなきゃならなかったの●ブフッ●歯で開けようとして●血まみれになっちゃったわ●見守ってね●うっ●はっ●とろ〜り●とけてる●パパの缶詰●傾ければ●腐ったパパがゆっくり流れ出す●見守ってね●うっ●はっ●ぼくの舌の上で●ハエが翅を擦り合わせる●風は涼しい●目も●でも●ブフッ●腐ったパパが扉をノックする●きらきらときらめく●死んだハエの目の輝きだ●ぼくはときおり●自分の顔や手の甲に雨粒が落ちてくるのを感じることがあった●雨などちっとも降ってはいなかったのだけれど●ぴったしの大きさのパズルだった●ぴったしの大きさだったからこそ●さいごのピースが●はまらなかった●自分の日記を読み返してみると思わず吹き出しちゃって●80年代ポップスってやっぱりいいな●鏡に映った自分の顔は好きじゃないけど●雨ざらしの軒先に落ちてる封筒のなかに入った自分の魂を覗き込むのは好きでさ●で●んで●で●んで●んで・でえ・え・おお●ウィガダ・メカ・ラ●タラララララー●チッ●イエィ●イズ・イットゥ・ヨオ・カラー●先日は●あなたがお亡くなりになられまして●まことにありがとうございました●生前は●なにかと●ひとさまの悪口ばかり口にされまして●ほんとうに迷惑な方でした●とくに弱者に対してはそうでありましたし●ご自分にさからえない者に対しては●めっぽう強い態度に出てらして●ねちねちねちねちと意地悪をなさいましたね●わたくしは●こころ善良な者でしたから●あなたさまのご意向とご行為が●はじめのうち●まったくわかりませんでした●まあ●それは●わたくしだけではなく●善良でもない●あなたの周りにいる方たちも●おそらく●そう思ってらっしゃったことでしょう●つきましては●あなたの生前の仕打ちに対して●わたしの知り合いに●つぎのような提案をいたしますので●ご了承ください●あなたが生前に他人に送りつけたあなたのすべての詩集を●ゴミ箱に入れて●ゴミの日にゴミ出しに出すということを●あなたの生前に●あなたに面と向かって●直接●あなたの作品などゴミだと言った者はいませんでしたが●はっきり言って●ゴミでした●先日は●お亡くなりになられて●ほんとうにありがとうございました●こころから感謝いたします●ばればれ●自我の拡大●群衆心理も個人の自我の重ね合わせと考えれば合理的だい●いえぃ●おつむの悪い連中が●何人かいっしょにいてむにゃむにゃしてたら●賢い気になってるのも●そりゃそうだ●自我が拡大してるんだから●そりゃ気が大きくなるわな●バカのくせにね●いや●バカだからかな●ブフッ●警官や刑務官といった連中のこと●笑えないよねえ●そりゃ●おまえもバカだしぃ●おいらもバカだしぃ●ハー●コリャコリャ●ビジーな羊は●真っ赤なハートマーク●群衆心理もエンヤコラ●ビジーな羊は●真っ赤なハートマーク●きゃっ●場の共有理論で●自我の拡大を群衆心理にまで適用して考察することができる●おまえもバカだしぃ●おいらもバカだしぃ●笑●イエィ●ぼくのビジーな羊にご挨拶●ぼくのビジーな羊は●真っ赤なハートマーク●二つに割れた真っ赤なハートマーク●繕うことなんかできやしないさ●二つに割れた真っ赤なハートマーク●そいつが●おまえを傷つけた男かい●知んねい●笑●おまえもバカだしぃ●おいらもバカだしぃ●笑●ブフッ●自分の日記を読み直してみると●思わず吹き出しちゃって●80年代ポップスってやっぱりいいな●鏡に映った自分の顔は好きじゃないけど●雨ざらしの軒先に落ちてる封筒のなかに入った自分の魂を覗き込むのは好きでさ●いつまでも●よじれた綱のような雰囲気で佇んでいた●親父のおじやって書いて●気持ち悪くなって●ゲラゲラ●おじやの親父って書いて●ゲラゲラ●作ってるのが親父なんかじゃなくって●材料が親父なんだよね●こんなこと書けるのも飯島さんのおかげだから●少しは感謝することにする●飯島耕一●このひとの翻訳本●ひとつ持ってるけど●詩はぜんぜんつまんないのねえ●でもって●このひと●他人の詩はおじやだって言うのねえ●おじやって●おいしいのにねえ●面白くないって意味で●おじやだって言ってるのねえ●自分が書いてるものはぜんぜん面白くないのにねえ●まあ●ちらっと覗いただけだけど●面白くないわねえ●それに●このひと●ゲイを軽蔑してるようなこと●どこかに書いてたように思うけど●まあ●オジンだから許してあげるけど●ほんとふるいよねえ●感覚が●フルルルルー●でも●親父のおじやは面白い●劇オモ●モ●ぐつぐつぐつぐつ●ゲッ●食えるか●こんなもん●食っちゃうのよ●ゲリグソちびっちゃうだろうけど●笑●ゲゲゲ●ゲリグソちびっちゃうだろうけど●ゲゲゲ●ゲリグソちびっちゃえ!


霧の町の断片

  飯沼ふるい



正確な円い輪郭を、灰色に淀んだ空にくっきりと浮き上がらせる
午後の弛んだ日射しも少しばかり傾き始める
根深い霧がこの港町から抜けることはなく
ここでの昼とはほんの少し明るい夜のことを言う



赤茶のレンガで積まれた製氷場の倉庫の向こうで
海猫が気ぜわしく鳴いている
波止場に打ちつけられる波飛沫は
異邦人たちが流す汗と同じ匂いがする

製鉄所のバースを発とうとするタンカーが汽笛を鳴らす
重くて暗い音がいつまでも響く
誰も聴く人などいないのかもしれない
バラスト水を吐き終えても
いつまでもタンカーは進まない



港から少し離れた公園にも
潮風と魚の腐ったような匂いは
鼻を突く濃さを保ったまま運ばれてくる
伸びるに任せっきりの生け垣の向こうでは
年端もいかない男女が、肌に染みつくような腐臭と霧とに混じって
身体を重ね合わせている

夜にはまだ遠いはずの時間
少年の真剣な眼差しが
この町の唯一の灯火のように
ちろちろと燃えている

喉仏もまだ柔らかい少年は上擦った声で呻く
身体の内も外も無くなって
静かなこの町が彼の中に収斂されていく

足元に落ちていた青魚の鱗と
濁った精液が渇いていく様とを眺める彼の目からは
既に灯りが消えていて
少女は口を結んで涙を流し続ける

星のない夜であるはずの時間
二人は灯りのない小道を歩く



この町唯一の駅の待合室には蜘蛛が住み着き、
単線路のホームに旅客列車も貨物列車も訪ねてくる気配は無い
疲弊した無宿の人がやってきて
埃の絡んだ蜘蛛の巣を揺らすまで
ここは無人のままにある

駅前の交差点の信号機はいつも点滅している
すれ違う人々は造花の花束を抱え
急ぎ足でそれぞれの行くべき場所を探す

革靴で歩く足音がくすんだコンクリートに反響して
霧を包んだレジ袋が消火栓にぶつかる

そこかしこにため息が隠されているこの界隈で
そこはかとなく漂うのは
精液の匂いか、港の匂いか



みんなが寝静まる頃
思い出したかのようにタンカーの汽笛が鳴る
霧の声のように響く、音にもならないようなその震えを感じながら
湿ったベッドの中で少年は
あの時の自分の片割れのように涙を流す

霧が深みを増して夜を蹂躙する


沈みゆく船の中で

  Osa



私は沈みゆく船の中で目が覚めた。嗚呼、海は怖いと口にしながら、私は湿った風の中で鼻歌を押殺し、静かに水面に足を近づけてみると、深い緑色の海が鉛色に変わっていった。滑らかな鏡の様な揺れを、一つ一つ目で追うごとに、私は悲鳴をあげた。この産まれたという合図に、ぞろぞろ、ぞろぞろと、水面から顔を出したのは女や男たちで、それは知らない人の顔ではあったが、祝福をされているのが私にでも分かった。そのとき、私の両足は足の裏だけが水面を撫でているという、そこだけが鉛色をしているという不思議なものだった。その時、大きな波が来て私の身体を濡らしていった。その手は母親だと言うように私を撫でたが、産まれたばかりの私にはそれが恐ろしかった。

母は何度も私を抱こうとしたが、船がそれを許さなかった。私は羊水から出たばかりの赤ん坊の様に何度も呼吸をすることに必死になった。甲板の上で鼠の一族たちが右往左往しているのを見て、それから黒く足の多い虫たちが動き回る姿を見ても、ぞっとする事は無かった。私はその中の一匹を摘まんで、それが腕へ這い上がってくるのを微笑ましく眺めた。手を高く上げ、指先を一つにまとめると、一番高い所から、虫は飛んで行ってしまった。沈みゆく船の中で目覚める前のことを思い出すと、鼻歌を歌っていた理由が段々と分かってくる気がした。

死ぬ前には分からなかった虫たちの名前が、少しだけ分かってくる。死ぬ前には握りつぶしていた虫や見向きもしなかった花や獣が、生まれ変わりのように思えて、今はこんなにも愛しい。水面から顔を出している男や女が、祝福してくれているのが分かる、今日は誰にとっての祝福すべき日なのだろう。滑らかな鏡の様に私も揺れると、そこには私が映っていた。たった一匹の虫が、死ぬ前には握りつぶしていた虫が、生まれ変わりのように思えて私はそのまま海へ生まれ落ちた。


commercial

  村田麻衣子

食べる≠吐くであると、それは賑やかな孤独から見つけ出す ややくすんだ光のようで
郊外のコンビニから漏れ出している 駐車場に宛てられているコマーシャル的なネオン
ライトは 消費される欲望から消費する欲望へと変換されるたびに書き殴られた文字ら
しくにじんで アスファルトの上に散らばった個包装たち。運命を弄びすれ違う人たち
がこんな時間まで起きている事に 安堵し 巡る運命または転がり続け その人たちと
目が合い逸らされるたびに周期的に涙を流す日はそう遠くないのだと予感している。並
べられた雑誌のページには死んだ虫が 潰れたままうごめいていて悲しかった 時計を
眺めてみたが、目がかすんでよく見えなかった。
運転席から見た雨と写真を見比べて、いつか会った彼と彼女を蘇らせ。その影響につい
て、感じながら運転席で膝を抱えてみた 誰かを思う隙はなかった聴衆的には美しいも
のを、「美しい。」そう叫びそれを匿名化してまで 聴衆でいたかったのはどうしてだ
ろう。

わたしはそれを食べる=吐くであると それをソロプロジェクトだと費やしたものは、
時間と身体的消耗。ファッション誌には書かれていない 残響室の騒音で温もりある胎
児の大動脈を身体測定して それを嘔吐する商業的な行為。単純に退屈がやってくる
もしくは、目の前の景色を過剰に感じて酸味の強い柑橘の果実を半分切って からだに
流し込み そのはんぶんをルーズリーフの書きかけの記事に乗っけたまま 仕事に出か
けた。冷蔵庫は、きらいだった あるいは好きだった 
そしてわたしはそのマイナスへ振り切れたエアコンディションを 
半強制的な行動すべてを
からだを流れ出す冷たい水滴を
常温での過呼吸は常軌を逸している。誰のゼリーかわからないまま溶けだしたその果実
を見て。その強迫のスピードを感傷的に言うと、愛していた。

多目的トイレに駆け込んで吐こうとしたら雨の雑踏から 男女がそのビルの1階の一角
に駆け込み、男が女の手を引くようにして入って行った。入ったことがあるトイレの個
室はやたら、広かった記憶が蘇る でも一人でこんなところに立たされている 気分っ
たらなくて わたしはその扉を思いっきり蹴った。
センター街の路上では、店内BGMが漏れ出して、イントロダクションからそれはもう聴
けたもんじゃないのに 2つの店舗から融合してダブルイントロとなり あんたたちの
主題歌みたいだって。沸々としていたからか、肌蹴たウィンドブレーカーの下にはなに
も着ていなくて
首にかけてたヘッドホンから深夜 周波数を合わせないで録音した ノイズが流れっぱ
なしだと気づいてはっとする 目の前の景色はわたしが経験した夜の浅ましい記憶より
もずっと現実的で優しかった

明け方は、闇を争いながらかき消すそのグランジの始動みたいに 扉から出てきた彼女
はサンローランのクリエイティブディレクターに就任したばかりのエディスリマンの20
12秋冬コレクションを身につけ その清楚な顔立ちを狂わせながらワンピースは肌蹴す
ぎていて 男の子に借りたかのような クラブ帰りのシャツを身につけて わたしの顔
見て顔を赤らめ走って どこかに帰ったのだろう。

彼とわたしは残されて、タイル張りの多目的トイレはやたら寒々しく冷気を放ち、ギタ
ーケースを担いだ彼は薄着でシンプルな白シャツにディオールのパンツらしきものを身
つけて 色白の笑顔が不潔だと思っていたら、漂白剤がまかれた室内で彼は眠りだした
。わたしもそこに横たわっていたら、ケースから腐食したフローズンバナナを取り出し
てわたしにくれた。数字的に期限切れなわたしたちの接点は 感傷に無神経だった頃の
わたしと時間軸をあわせ そう 融合させる=いとおしい とはさらに違っていると理
解するまでかなしかった 気分的に不潔なのでわたしは服を着たまま この部屋のベビ
ーベッドと一緒で セックスはわたしたちにとって対象外だった

これらの鮮度がたまらなくいとおしいのは中指にも親指にも耐えられなかったから。嫌
いではなかったけれど彼は、はんぶんの約束でわたしにくれた。はんぶんはとっておく
ようにわたしにただ渡した
プールの外に溢れているオーバーフロートに紛れた双生児みたいに触媒は穏やかな空気
に接しながら溺れている

「こんな場所で迷子になったらいけないよ。腕も、首も、太腿の内側もこんなにうつく
しいのだから。」
「うん。わたしは、帰ってこれを冷蔵庫にしまうの。だから、さよなら。」
「ママに食べられないようにね。」
「そうね。」

ソウダネ
わたしが呟いたのは添い寝から経過した3日間。蝉はうつぶせで死にかけ新たなニュー
スソースとなる。それをモデルにしたチョコレートが発売されたという斬新で美しい事
実を耳にする。北欧では希少らしい彼らの騒々しさは あの時のわたしのかなめになっ
て夏日をたちのぼらせ 今日からの始動らしきテーマソングとなりうる スピーカーの
前で眠った記憶 それは、紛れもなく彼の影響だった 気候に左右され 気が振れてい
く神経を静める高らかに そうして静寂へと帰って行った。


香水瓶に触れるフィラメント

  榎本櫻湖

「熟達しているのか、その腫瘍は、いますぐナイフに鋼の瞳孔を植えつけ、象の蹠にへばりついた珪藻類に敬礼し給え」そのような犯行を前に噴出する傷痕を舐っている、花崗岩に覆われたさまざまな色を放つ製本所をアルゴンにすり替えてみる、作業は発熱する卑猥なマンゴスチンを装い、円筒形の、あるいは魚雷型の吸血蛭は沸きたつお湯でさんざめく金塊! 〈あなたは投函された地下鉄の匂いたつ亀裂が歌います〉、を宣言する姦通者としての心得と擂り鉢への返納を、ああ、まさに魚介と朝靄の婚姻の筋肉質な繃帯、生命のがらくたから何羽もの孔雀が経帷子への依存を捨てきれずに躙りよってくるのを拒否できない、抗いはつまり電卓の拷問、そして我が儘、扁平な猿轡に誑かされて屏風がみるみる緊縛される、さて、果汁が染みをつくり、星屑を模倣する伝統的な疾病に渋柿の卵巣を傍受せよ、貧乏です、鯣のへりに藻、腹腔鏡に黴、針葉樹の森が終わる辺りから雑草の繁る斜面が広がり、幾本もの陰茎が生えていて、その合間で交接している男たちの褌の芳しいであろう部分に鼻をあてていると、いや、衛星は紺碧ではない、どちらかというと鈍色である、水脈からカシス酒がヘドロのように流れだし、弓型の呪術は南国産の蛾を伴って祠から煙のようにたなびき、喇叭水仙のびらびらを帆立貝の紐の感じと見紛うとは! 夕方、岩海苔に屈辱的な仕打ちをする聖職者のノートよ、祈りはぬめり、粘ついた液体に泡だつ生クリームの幽霊が会釈しているではないか、と押されてみた、膨張するレズビアニズムの防波堤に塞きとめられた惑星の甲状腺はみるみる肥大し、内包している花火から月光の大気の熱量が硝子に似た運動を伴って浮き沈みをくりかえし、そうした植物の茎のなかをうつろう前立腺液とバルトリン氏腺液の輝かしい間歇泉を、海底から伝播する心拍に翻ってあらゆる瓦解を濃縮させていた、隊列を組む昆虫の複眼に這わせる蔦の蒼さにそれぞれ石灰質の倦怠を残尿感に準えることによって分光するための三角柱を弄ぶこと、甚だし、丁寧でありながら荒廃していく顎の骨のうえの舞台は、まるでどこぞの遺産のように太々しく、不遜な悪態に自らめりこんでしまうことをはたして望んでいたのだったか、近隣を仄めく柔な礫、曰く梨を髣髴とさせる巨大な触手にいらだちと焦りの虚妄をして融解するのをひたすら叫んでいたのか、しかし松葉杖と乳母車、そして車椅子の懇ろな間柄に太腿をひき絞られて滴る黄褐色の汚泥、潮の渦巻く過程に解放された高純度の希少金属のあり方、疚しく疾駆する平坦な空間での睦みごとにプラスティック製の陰茎が牙を磨いている、喉笛の昂揚しゆく情景に寒波は紐状に訪れるのであり、毛糸玉を恒久的に支配し得る井戸と釣瓶が閑散としはじめ、または水瓶の底から滲みだす暗澹の血を、崇拝するに足るだけの都市に誘惑されつつ、醸す賑わいに幾許か垂らすこと、澪、べりべりと剥がれてきたマシンガンの困窮、またしても雁字搦めの菫色から煙が壺のほうへ、水道管のすぐ下を通う星座の爆発音と急激な降下、内部破裂により滲出する睡蓮のある意味クリティカルな放射は、危うい蹄に刺さる霜柱を暖かく結晶化させ、循環する蛍光塗料の精神に輸送されたナフタレンの恋慕を硫黄のただなかへ! 水錆の転寝は感嘆符の充血するあわいへ催される古細菌群のあらたな昇華、卒倒すること、陥落するはなびら、植樹する俳優を強姦する艶かしい陰核生物よ、俄に座礁するための喫水線にオーロラの網膜が絡みついて離れない、失われた印刷機の凸面に筋繊維の蔓延っているのが目視できる、排水溝から液化したヴィオラ、いや、それともチェロかもしれないが、洩れでているような気がして、寛ぐ吸盤に飾り釦が縫いつけられて、誰そ彼の斑に隠れている、蜥蜴の脚のような機械、さながらの物質、腹這いの姿勢から遠景を望むグンタイアリのことを、愛しています、そんな、(ハバナ)、跨線橋にさしかかると、夕まぐれに筋力の衰えとアルミ箔の蝶が規律を虞れて五角形の白骨屍体にくちづけを、そんな、(バハマ)、糾弾する船縁に虫、陰部の窓枠に鰓を想起させる赤い襞、ああ、高い山だ、そんな、(パナマ)、パイナップルジュースの海は始終唇の端がちくちくする感覚を充満させた風船のなかの機関銃だ、絶叫、快感っ、舞踏の捲れあがった辺りに拷問の盃と非情の首が埋没させられて中指、怨念に潜めた過去の牛乳、あるいはその膜、愉悦式ポンプはそのたびに星座へ変身(返信)します、たとえば「辣韮の神々に告ぐ、即刻天秤の皿に泡立て器の針金を各々の末端神経と交換せよ」、「すみません、それでは生クリームはいつまでたっても腑抜けのままです、原文には忠実に従い、また再現せよ、と書かれてあります、この場合、泡の膨らみ方は無視されるべき対象として棄却されるのでしょうか、もしくは粉末状の白熱電球に髄液をたらし、傲岸さの幾分弾みのある段階において狐に憑かれた綿毛を色盲と断定する些かの乱暴なあり方に異議あり、とだけ申し伝えておきますか、お返事、ご足労おかけします(まさか)」、「唐草模様に憤る砂丘にあっては人魂の炭化した欠片が散乱しているとのこと、尋常ではありません、ドッペルゲンガー計数管の(硝子の)針の振幅の大きさには数多の村落が潰えたと聞き及ぶこの頃、枯木の傍らで寝そべる虎の剥製に介助させるだけのエネルギーを担保し得ますか」、「バルト海沿岸では僧侶のような琥珀がよく採掘されると聞き及びましたが、まさに人参畑での光景が眼に浮かぶようなので、どこか盲のふりをしていなければならないというような強迫観念が蛹のように丸まっていくのです」、「栄螺か法螺貝か、難破した旅客船が、白いマントヒヒ(つまりアルビノ?)を飼いならしている、いや、狸囃子が雲を貫くように大きな肘となって突ったっている、なんとも阿呆な様子」、「線虫がうようよ心拍数に媚び諂って嫌になる、いい加減、潮汐力などといわれても、なんのことだか、理解しなければならないわけですか?」、「黒子が永遠に黒子のままで(この場合、ぜひほくろと読んでください/サクラコ註)拒否することも叶わず無花果にこき使われて、大抵可哀想だとか思ったら、屑」、「へっぴり腰の人が虐待されていた」、落涙よりもエンペラー、そんな時代はどのような百科事典にも記されてはいないし、化石のことが気になって、連なる嶺に挨拶する砂漠の畝を、弛緩している、砂漠の駱駝は、堕落している、衛星探査の用ですね、あまりに神妙な面持ちだったので、硝子が硝子であることを放棄して琺瑯かなにかを装っているのかと、抗い難い流線型の逃避行が、まずもって夜間に霜や霧の降りるさまを模倣している段階だった、とすれば、誰何すべきは裸婦か寡婦、それとも郵便配達夫、の何れかであるのだろうか、走ってはならない、イリジウムはどちらかというと虹よりの発想だそうで、テルルだとかセレンだとか、よくもまあ、投げやりな命名ですね、記載する際に手を洗う鉢植えが斑模様の紺碧だった、それくらいのものだろうか、コバルト、遅いね、マフィンがバナナへ遡行している、可逆的な世界に逸物を四百本程度ぶらさげておけば、八割方の地底湖は満足するのだろうか、それとも破水してしまったアクアマリンが角膜を傷つけていてとても厄介、更新されないスパイスの容器には叢る蜘蛛が颯爽と葡萄酒、葡萄酒……、葡萄酒は初潮をむかえたうら若き醜女の血液を凝縮させたものです、嘔吐してはいけない、眼鏡が曇ったものだと思い直して飲み干すべきであって、噴火する寸前の卵巣にはもはやどのような攻撃も沈黙への糸口にしか、なり得ない、とは、永遠の課題、もしくは、相転移をくりかえす酷薄な空間での、恒常的かつ普遍的な現象、衝突と融合を内包した錠剤に会釈、蓼の繁る路には冷たい蚕蛾が翼を捥がれて散らばっているので、毒を帯びた触角や、剪定された柘植のある庭で休憩することをおすすめします、欲求不満と茶話会、金木犀の囁きが粒だって、躄るものどもの避雷針に黙祷、鱗粉に噎せる薄氷のうえでのできごと、尻を叩かれて、割れた空き壜の欠片で動脈を断たれる、丑の刻参り、和蝋燭ですら熱い、薬缶には煎じた漢方薬が、だらだらだらだら、螢が見える、


星屑に願いを

  お化け

去年はあなたのことを考えていなかった。来年になればみんなひとつ歳が増えているのは神様の分配の正義だろうか。歳の差ってどちらかが死ななければずっと距離が縮まらいよね。こういうふうにずっと縮まらないことってたくさんあるんだろうな。膨張していく宇宙の星と星との距離みたいに時間が経てばいつも離れていくこととかもあるかもしれない。自分が自分でなくなって自分が自分から遠ざかる場合もあるだろうし。自分が自分にいちばん近いかってことも不確かで変わっていく。自分より近い他人っているのかな。こっちに向かって歩いて来ているすごく好みのタイプって人との距離がだんだん縮まって重なるようになって。全然知らない人だからすれ違ってまた離れていくんだけど。近づいたり離れたり動き続けている。焦点がぼやけたりハッキリしたり。自分より別の人の方が私の目的地に近い位置にいるように見えて嫉妬することもある。欲望や目的を持たなければそれを見なくてもいいんだけど。ハッキリしないままだとあらゆるものが曖昧だから「現実」世界が遠ざかって見える。安心できる住処を求めているんだろうか。いいや違って生きていれば旅人であるしかなく止まることは許されないのはないのだろうか。死んでも止まれないのか。歳上の私が先に死んだらだんだん歳の差が縮まってあなたはいつか私と同じ歳になって。そこからは今度はあなたが歳上になって歳の差が離れはじめる。あなたがずっと生きていたら私はだんだん忘れられて。そんなあなたを軽蔑するときには「実はあなたが私より先に死んだ」って想像してみたり。そしたらはじめから離れていた歳の差がもっと広がっていって。私があなたを軽蔑しはじめるよりあなたが私を軽蔑しはじめる方が早いんじゃないかって。きっと誰かと離れれば誰かと近づくことになってしまうこともある。誰かと近づけば誰かと離れることもあるね。0時00分から一番遠い時間が6時00分というときに6:00のところにいたらはどちらに動いても離れられないか。0時00分から一番遠いのが12時00分となれば2倍遠くなる。365日の暦の円環となればもっと遠いんだ。ぐるぐる回って去年の同じ日に近づく運命があって。いろんな周期の歯車が噛み合って一致して「カチリ」盲目の時計職人がつくった腕時計の針を進めている。やがて金星人が炭素14の半減期を利用して私の化石の年代を測定していく。含まれる同位体が1/2になり1/4になり1/8になり1/16になりこれをy軸にしてグラフにプロット。分母が大きくなるにつれて腕時計の中で回っている歯車の真ん中が空っぽになって広がっていく。色んな大きさの歯車たちはx軸に並行な線を適当な大きさにぶつ切りにした線の両端をくっつけて作るリングみたいな時間となる。腕時計の内部のリングは他のどの時間とも噛み合わなくなっている。閉じて他の時間と関わらなくなった憂鬱な時間たちは次々と自らを切断してリングが解ける。それが「染色体」ぐらいに柔らかくなって動かない腕時計の中にゴニョゴニョ詰められていたの。詰め物の指令で腕時計は時計であることをやめて単細胞生物になりました。時間が分からないまま時が過ぎました。その中の暮らしに飽き飽きした詰め物たちは協力し脱出を試みた。「一緒になろう」って全部くっついて一本の細長い糸となり針の穴を通っていく。「プスッ」と腕時計型単細胞生物の膜をすり抜け出ていくと糸は一本の線虫になりました。線は1/nをプロットしているグラフのnと一緒に進む。nが限りなく大きくなり時間軸xに限りなく近いところで並行になりながらプラスの無限の彼方にある中枢神経へ進む。私とあなたが死んだ日は遠い昔の話。私とあなたが手をつないだ日はそれよりも昔のことになるね。生活していたときの色んな周期や何度も見た映画や永遠回帰のことなんて忘れてしまって時間はもう戻ってこない。線虫の時間はただひとつの方向に伸びて私たちが生きていた時代は遠くなってくだけ。すべてが平等な星屑の世界に帰っていくだけ。私とあなたの存在はずっと昔に忘れられた。遠い未来と私たちの間には「時間の防音壁」が建設されていくから私たちのプライバシーは完全に守られているの。壁は一回性の出来事の「生々しさ」を守っている。秘め事にしている。ひとつの奇跡として。言葉では表現できない気持ち。未来人には私たちの「悲しみ喜び」何も聞こえていない。その未来人が消えたのも遠い遠い昔の話で。遠い遠い未来には誰もどこにもいませんでした。寂しいね。誰か私のために何か話して下さい。お話を聞かせて。「昔々あるところには誰もいませんでした」と笑みを浮かべたおばあちゃんが孫に写真の奥行の中の世界で話している。祖母のお気に入りの小説はスローターハウス5。「ただ一人の読者を喜ばせるように書くこと。つまり、窓を開け放って世界を愛したりすれば、あなたの物語は肺炎に罹ってしまう」はヴォネガット「創作講座初級篇」の7番目の原則。私もおばあちゃんもカート・ヴォネガットが好きだった。彼女は若い頃に「あの人が死んで生きていけないわ」と思った女性だったけど長生きして今はもうシワシワのおばあちゃん。何も考えられなくなり介護されている。弱くなった人たちが世界を愛して死んでいく。誰ひとりどこにもいない世界がやってくるまで「誰かが誰かのことを想って」というのが続いていく。誰かが誰かのことを忘れていく。少女と少年は「あなたのことは絶対忘れない」って誓って星に願いを。今日はいつの間にか七夕。天の川を渡って会うことが許された日。会いたい。離ればなれの男女はこの日を待っていた。月日がぞっと過ぎていき年老いていきますね。みんな幸せになった方がいいけれど「みんながみんなのことを平等にいちばん大切にするわけではないから」世界平和は不可能だと思いました。私の願いは「去年の今頃のまだ私と知り合っていないあなたのだけことを考えている」のが「去年の私であった」ってことで。記憶の中にいる過去の自分にテレパシーを送りました。去年の私は異次元空間へ通じる切れ目から中に入って電話の受話器を取った。話し終えると「来年の今頃もあなたのことを想っていたい」と去年の私も今の私も星屑に願いを。来年から見た今日は去年で。今年も去年も今頃は七夕で。こういう時間的関係性をややこしくこねくりまわして。オーブンで焼いて心だけをちゃんといい具合に恋焦がして。七夕でない日を全部焼いちゃって。「毎日が七夕」ってすることに出来たらいいなって。去年の今頃は何をしていましたか?



















★ヴォネガットの言葉は「バゴンボの嗅ぎタバコ入れ」という短編集の序文から引用。
創作講座初級篇は8つの項目があって、気になる人がいるかもしれないから以下に引用しておく。

1.赤の他人に時間を使わせた上で、その時間は無駄でなかったと思わせること。
2.男女いずれの読者も応援できるキャラクターを、少なくとも一人は登場させること。
3.例えコップ一杯の水でもいいから、どのキャラクターにも何かを欲しがらせること。
4.どのセンテンスにも二つの役目のどちらかをさせること…登場人物を説明するか、アクションを前に進めるか。
5.なるべく結末近くから話を始めること。
6.サディストになること。どれほど自作の主人公が善良な人物であっても、その身の上に恐ろしい出来事を降り掛からせる――自分が何からできているかを読者に悟らせる為に。
7.ただ一人の読者を喜ばせるように書くこと。つまり、窓を開け放って世界を愛したりすれば、あなたの物語は肺炎に罹ってしまう。
8.なるべく早く、なるべく多くの情報を読者に与えること。サスペンスなぞくそくらえ。何が起きているか、なぜ、どこで起きているかについて、読者が完全に理解を持つ必要がある。たとえゴキブリに最後の何ページかをかじられてしまっても、自分でその物語を締めくくれるように。


ある朝

  

寒すぎるサーバー室で眠った彼は
真冬に新月で小指を切る夢を見た
次の朝になって彼が目覚めると
世界の半分が失われていた

空腹の彼はコードで繋がったまま
駅前まで歩いて喫茶店に入った
注文した熱いコーヒーが運ばれると
彼は陶器の砂糖入れに入っている
小さなアンモナイトの化石たちを
一つ、二つとカップの中に入れた

世界が再生するまでの時間は
夜明け前の永遠の次に長いから
彼は寝ぼけ顔のウエイトレスに
避雷針を注文して粘ることにした
窓の外ではポツリポツリと
戦争が降りはじめていた

彼はコーヒーをすすりながら
半分の世界と共に失われた人々が
再生を果たした時に必要となる
新しい名前を考え続けていた
それはとても楽しい作業だった
小指の微かな痛みを忘れるほどに
彼はコーヒーのお代りを頼むために
ウエイトレスに向かって中指を立てた


おいしいお葬式

  深街ゆか


ひろげられた七月十五日
朝刊のおくやみ欄
黒い枠で囲まれた死因のところ
これがわたしのおばあの名前
そう言って指でなぞる
活字から逸れた先の
回転する風車は止まらない
このあたりは絶えず
線香のかおりが漂っている
自然が作り出した
奇妙な多角形を潰せば
そのかおりは
内から外へ、そして街に、都市へ
「喪服が似合う女になったね」と
青白い歯をむき出して微笑んだ叔父さんは
喪服が似合ってなくてかわいそう
喪服が似合うのは生者だけ

 そうでしょ?

深みで雨音を聞きながら
ひかりから遠ざかるおくやみ欄は
読みかけの詩集にはさんで
虫に食われて点滅する
これくらいの意識
ガラスケースに陳列して
値札をつける作業
ループする連想ゲームのように
おばあから、おかあ、そしてわたしへ
紫色の夜に営まれる通夜
ぱちぱちん、と精巧な音をたてて
酒が飲めないわたしのコップに
ソーダ水がなみなみと注がれ

 爆ぜるのはいつも

地球の大きさを基準に営まれている
生物たちの日常メートル
基準に照らし合わせば形を失う
溶けて、液体、黄色いソーダ水みたいな
わたしの肉体、わたしの椎骨
しゅあしゅあ、と消えてゆくところで
あきらめて手をつなぐ
秩序の中を裸足で駆ける
きいろとしろの

 花から花を踏む

たなびくお経のなかで
死装束をまとった女の人
夢で会う人によく似てる
いつもここで菊の花を渡す
新しい機械を埋め込んでも、と
繰り返しつぶやく女の人は
ハセガワトキ子という名前

 わたしあなたの母を産んで

黄色いソーダ水に
浮かべて飲み干した
七月十五日
朝刊のおくやみ欄
やわらかな舌のうえで感じた
透き通るような
甘いと酸っぱい
そのはざまに落下した
夏の独白


ハセガワトキ子の骨が飲みたくて
わたし、メートルを砕く


鎌倉 縁切り寺

  大ちゃん

紫陽花が長い雨を腐敗させていた
6月の暗い休日
僕は母と鎌倉を歩いていた
有名な縁切り寺を目指して

放蕩を重ねた父のせいで
僕たち家族は離散していたのだが
未だに借金でだけは繋がっていた
ねじれた腐れ縁を断ち切るために
そぼ降る雨の中をうつむいて
二人ざくざくと歩いていた

老境ながら住み込み家政婦をして
つらい生計を立てていた母
そんな彼女に楽してもらう努力もせず
あの頃の僕は会社の独身寮に入り
部屋と工場の往復だけの
無為な日々を過ごしていた

僕は人生を頑張らなくても良かった
だって父の借金を返していたのだから
体たらくであっても良い理由
自分の将来と向き合わない理由
あの部屋は格好の隠れ蓑だった

母と違い保証人ではなかった僕
法律的には返済の義務を負わなかったけど
他に建設的な何かを行なう元気もなく
毎月きっちりと借金を返す事だけが
生きている証しみたいな気がしていた

母は腑抜けた僕の態度に
なんとなく気付いたのか
「縁切り寺に行こう。」
出し抜けに電話をしてきて
「あの幸福破壊魔との悪縁を切ってしまおう。」
かなり息巻いていた

こんな経緯で無様な二人は
本当に久しぶりに会って
雨の中を黙ってその寺を目指していた

ようやく目的地に到達した僕達
寺門を潜ると大きな壷があり
灰に刺さった線香からの煙が
雨に当たり空気に溶け込んでいた
そこはどこの観光地にもあるような
代わり映えのしない普通の寺だった

迷うことなく賽銭を掴み
箱に投げ入れようとした僕に
母は「待って。」
ものすごい顔でこちらを見た
母はそれきり何も言わなかったが
ずっと幼子のように唇を突き出していた

母の仕草などにはもう
何も感じていなかった僕は
ワンコインを惜しみなく投げ
縄を揺らし鈴を鳴らした
そしておざなりに
「縁を切ってください。」
心を込めずにお祈りした

その後の流れでホイと
母にも賽銭を渡してやったが
彼女はもじもじしていて
なかなか投げようとしなかった
何を躊躇しているんだろう
自分で言い出したことなのに

まあ今に始まった事ではない
母はいつもこんな感じだ
肝心な局面ではドMになる
赤鬼みたいな父とは
食う者と食われる者の関係
ホント良いコンビだったね
どうでもいいのだけど
父に恫喝されていた
母はとても醜かった

そしてそんな時はいつも
傍らで泣いてばかりいた僕も
他人から見ればやはり
さぞ醜かったのだろう

目的を果たし寺を背にすると
僕は来た道を駅へと向かった
母も後を歩いていたようだった
花の無い雨の小道でさえも
紫陽花の匂いがしていたから

紫陽花は母の化粧の匂い
いつも嫌な香りで
僕を滅入らせてしまう

その後横浜で中華を食べたのだが
丸いテーブルに母がいたのかどうか
今となっては良く思い出せない

最近ふと考える
あの日から縁が切れてしまったのは
そう
父とではないんじゃないかと


透明な統計表

  前田ふむふむ

東日本大震災・死者・行方不明者数
            二〇十二年三月十日(警察庁資料)
 

死者 15854名
 宮城県 9512名 岩手県 4671名 福島県 1605名
 茨城県   24名 千葉県   20名 東京都    7名
 栃木県    4名 神奈川県   4名 青森県    3名
 山形県    2名 群馬県    1名 北海道    1名
行方不明者 3155名


      1

わたしは この数字を知ることはできない
むろん 死者にふれることもできない
さらにいえば 
死者の名前を呼ぶこともできないのだ

世界がどんよりとした空をはぎとり
彼らの出自を たんねんに訪ねると
彼らは すこしずつ色合いを際立たせるが
そうすることによって
彼らは ますます
かたく甲羅のなかに隠れるだろう

そして
記憶が老いて 地平線の底に沈むまで
限りなく
彼らの視線の高さで
一度も避けることなく
血のように
わたしをみているのだ

    2
    
そこにいる
眠れる数字を
アサガオと言おう
もし
それがアサガオでなければ
きみは誰だ

でも
アサガオにしては
蔓がない
葉もない
だから それを
なんと名づけるのか

アサガオだ
アサガオをアサガオと言おう
ほら
みずみずしく
赤い花を咲かせている
その花の名を


  3

これは数ではない
いかにも数を装っているが
実は肉体だ
そしていまも呼吸している
生きている肉体だ
その豊かな来歴は
真夏の森のようだ
仮に
それを数と捉えるならば
永遠に 
肉体をもつ
自分に会うことはできない


「 わたしの
眼のなかで
輝いている
一組の家族である
稲を刈る人たち

そのふむ土に
青く塗された
草は
セイヨウタンポポ
一面
夕日にむかって
繁茂している 」       

「 耳の中で沸騰している
熱気をあげて
海の
魚を待つ人たち

その市場を
通った
冷たい風が
だれもいない
街の
剥がれかけた
バス停の
時刻表を
ゆらしている 」

「 木棺のなかの
きみたちは
いつも
熱狂的だった
あたたかい血は
雨に
すこしずつ
冷やされて

小学校の
体育館で
片づけそこなった
椅子が
山積みにして
置いてある 」


「 それは切望の声だっただろうか
かつて
希望と安住の地であった  
川面に
身体を休めている
老いた水鳥の群れ

やがて
空に一羽ずつ
飛散する
皮膚を斬るような
声をあげて
世界の冬に
翼を
むけている

いくべき場所には
数字を
ひとつひとつ
背負っているだろう 」

   4
   

これは記録に過ぎない
ここに真実などほんとうにあるのだろうか
敢えていえば
ここに書いていないすべてが
確かなことだ
だから
わたしは
彼らに監視されているように
見られているのだ

それは
痛々しい数字に隠れている
空と海と大地と
その間にある
昼と夜のひかりと影だ


私とあなたが死んだ日は遠い昔の話 (この題名は自分が書いた「星屑に願いを」から引用)

  お化け

何処にも向かっていないように見える僕たち。何処かに向かっているようにも見える僕たち。僕は球形をした船の表面に張り付いて旅行中。太陽の周りを一年かけて周る旅を生きている間ずっと繰り返す。夜空は丸い船を取り囲む黒い海。想像できないくらい広い宇宙の中で同じ船に乗っているんだよ。僕たちは船上で出会いました。僕たちは共有している。同じ空気を吸うことがやめられない酸素中毒患者。ゼイゼイしながら生きている。死んでいった患者は歴史をつくって歴史の先端を少し伸ばしていて僕たちも同じことをする。僕が船の先端と思った場所とあなたが先端と思っていた場所がタイミングよく交差しましたね。僕たちは同じ勘違いをしていたおかげで出会えました。それはちっぽけだけども歴史的できごと。あっちでもこっこでも素敵な出会いが起きている。もちろん別れもある。別れ道で友達に「またね」って手を振って夕飯の匂いがする家に帰っていく小学生がいる。その子は将来歴史に名を残す人間になるんだけど僕はその人のことを全然知らない。僕がいま知っていることなんて真っ白な無知です。目が覚める外は銀世界になったときみたいに知らない人たちが歴史を積もらしていく。自意識が存在する以前のことを思い浮かべて「いつの間にか」という言葉。きっと僕の意識はこのことにもっと驚愕しなければならない。意識が生じたら一瞬のうちに一瞬ではないことが過去として在ることになっていた。一瞬のうちに膨大な過去の因果が出現してくる実感と言えばいいのだろうか。在るというだけで無条件で受け入れなければならない様々なことや気持ち。過去があるという公理と未来があるという前提。意識を意識することは進化論的な歴史や不特定多数の人間がつくってきた歴史性を受け入れるということだろうか。僕が受け入れることには積極的に受け入れたいこともあると思う。人を愛する気持は未来が在るということを受け入れる気持ちのことじゃないの。大切だと思える人にたいして。そんなことを考えながら僕たちは言葉が積もった落ち葉のふかふかのところを歩いている。いい話が落ちていないかと下を見て歩く。開けたところで顔を上げたら遠くに霞んだ山が見えた。何処かに死体が埋められているはず。そこに殺人が在ったから殺人をしてみた。そういう人を想像してみた。それが過去だったら僕はそれを受け入れなければならないきっと。それが未来だったら僕はそれを受け入れちゃいけないきっと。何処か正しいところを目指さなければならないきっと。何処が正しい場所なのかを見つけなければいけない。僕たちは同じ船に乗って同じところをぐるぐる回っている。船の表面で生き物たちがくっついたり離れたり食べたり食べられたりギザギザに動いている。みんな何かをしているように見える。多分正しくないことばかり。「何か」だ何か。何かをしよう何か。僕はあの山の頂上で景色をみたいと思った。登って疲れた僕はそれを味合う余裕があるだろうか。いまと同じ気持でそれを見たいと思うだろうか。結局僕が観察するのは辛いことに挑んでいく自分の状態なのではないか。僕がみたいのは景色ではなく自分の心か。何かを精一杯になってやると自分の心に帰っていく。心を映すために他の心を鏡として使わなければならないのならば僕は一生懸命にあなたの心に帰っていく。疲れた僕はベットの上で目を瞑っていた。あなたも何処かで目を瞑っている。眠っているように見える。何もしていないようにも見える。目を瞑って何かを考えているようにも見える。何かを考えているように見えるように見せかけているようにも見える。何かを考えることができるとしたら何にもしていないようにも見えても「何かをしている」かもしれないことになる。心が豊かなほど見た目だけでは「何をしているか」わからないことが増えていく。何か考えているとき心はこの世界の「不思議」を発明している。あなたの心は何を考えているの。何処にも向かっていないように見える僕たち。何処かに向かっているようにも見える僕たち。


1990年のライアン

  

1990年の独立記念日の少し前から
あのお祭り騒ぎが嫌いな僕とライアンは
ずっと彼のアパートに閉じこもって過ごした
冷蔵庫にはバドワイザーと冷凍ピザ
籠城の準備は万端だった
部屋は古かったがエアコンは最新式
外界を遮断するために閉じたブラインドの
わずかな隙間から差し込む光を受けて
ライアンの逞しい腕の金色の産毛が
人工的な闇の中に薄っすらと浮かび上がる
それ自体が独立した美しい生き物のように

あの頃のライアンは東洋かぶれで
チャイナタウンで買ってきたという
パッケージからして怪しげな香を
朝から晩まで焚き続けていた
僕は渡米の目的であったはずの学校へ
ほとんど行かなくなっていたから
あまり好きではない香の匂いが
すっかり体に染みついてしまった

ライアンは国を愛していなかった
国が彼を愛さなかったからだ
彼は父親からも愛されていなかったが
父親のことは愛していたようだ
そして父親と同じくらいに
彼は神を愛していた
神が彼を愛していたのかは
いまだに分からないが
少なくとも神の周囲にいる連中は
ライアンを愛してはいなかった

 あいつらはロクなもんじゃない
 神様の名前を使って
 悪事を働くならず者たちだ
 十字軍なんて強盗と変わらないだろ?
 俺だっていつかヒュパティアのように
 生きたまま肉を削がれるかも知れないよ

ライアンは酔うたびに同じことを言った
彼の引き締まった脇腹には
ケロイド状の傷があった
それは彼がまだ幼い頃に
父親によってつけられたものだが
ライアンはその傷をネタにして
自分をイエス・キリストになぞらえた
下手なジョークを言うのが好きだった

ライアンは暴力を憎んでいたが
暴力は彼につき纏い続けた
彼だけでなく僕や仲間たちも
常に暴力と隣合わせだった
黒人やヒスパニックや先住民
障碍者や母子家庭や貧困層の人々
聖書からはみ出した者たちは
みんな正義の暴力に苦しめられた
数が少ないということが
それだけで罪であるかのように

僕も普通に街を歩いているだけで
JapとかNipと罵られることがあった
通りすがりの名前も知らない連中が
憎悪と侮蔑の表情でそう言うのだ
ひどい時には殴られることもあった
あの負の感情はどこから来るのだろう
心にポッカリと開いた穴からだろうか
ライアンほど忍耐強くない僕は
安物のリボルバーを手に入れて
それを持ち歩くようになった
幸か不幸か射撃練習場以外で
そいつを撃つことはなかったが

独立記念日の夜
僕たちは互いのために乾杯した
そして未来のために夢想したのだ
殺すことも殺されることもない世界を
神に仕えているつもりのあの連中が
神と同じように僕たちを無視する世界を

「もうすぐ帰ろうと思ってる」

僕がそう言うとライアンは小さく頷いた
彼も何となく分かっていたのだろう
楽しい時間には必ず終わりがある
当たり前のことを僕たちは受け入れた
その夜のライアンは特に優しかった
終わると神の役割について語り合った
最初から答えが出ないと分かっている
そんな話を夜明けまで続けた

今でもたまにライアンのことを思い出す
例えば人混みの中を歩いている時に
彼が焚いていたあの香の匂いが
どこからともなく流れてくるのだ
そうすると必ずその時のパートナーと
上手く行かなくなって別れることになる
あれは何かを後悔している僕自身の
無意識の仕業なのかも知れない

8月も近い最後の夜
僕たちは聖体礼儀の真似事をした
ダイエット・クッキーとライ・ウイスキーで
罰当たりな儀式を執り行ったのだ

 俺は神様を侮辱してるんじゃない
 取り巻き連中をからかっているだけだ

すでに泥酔していたライアンはそう言うと
ベッドにひっくり返って鼾をかきはじめた
残された僕はウイスキーのボトルを持って
テレビの前に移動してMTVを観た
しばらくして流れてきたPhil Collinsの
「Another Day In Paradise」を聴いて
僕は赤ん坊のように丸まって泣いた
ライアンが焚いた香に包まれて泣いた


静物

  深尾貞一郎

すりガラスの
丸い花瓶に
今朝 摘んできた
紫陽花はある

葉は
爬虫類の皮膚のように
懐かしく
ひそやかな息をする

艶のない
和紙の花びら
青く憂いの滴が染めた

花に
蜘蛛の銀糸が
絡んでいる


四月三十日

  NORANEKO

『この世をば
 わが世とぞ想う
 望月の
 欠けたることも
 なしとおもえば』*1

 下手な歌を諳んじる、坂の上で湿る夜。遠くに茂る緑の並木。靄みたいに立ち込める精液の匂い。老婆の浮腫んだ尻肉のような黄桃が空の穴に嵌まってる。
 こんな夜に生まれたのだと思うと、気持ち悪い。
鳥肌が頬まで上る早さよりも遅く、坂を登る。やがて、彼方の道の奥に、あなたの待つ集合住宅がみえる。

***

 記念日の白い卓子に載る、お菓子の家を切り分けるあなた。
 ハッピーバースデーの歌が裏返り、弾ける林檎酒の笑い。
扉の金箔の花を、君と、半分こ。
蝋燭の灯る部屋の暗がりに垂れる、屋根にとける雪は甘くて、薔薇の香りがする。

『太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。』*2

むかしの、君の歌のように。切り分けられ、食べられた家の、つぐむ糸のらせん、二重。その、ふたつの時制を思うとき。あなたの谷間に光る、冷たい聖ペテロ十字が、緋色に染まって見えた。
あなたの背中に咲く、ホオベニエニシダの色うつりだろうか。

***

君の家は雪の上に建っていたんだ。朽ちて、その旧い家が雪に埋まるころ、僕らの家は、きっと、建つだろう。

***

僕らが口に運ぶ、骨まで柔らかい仔牛のシチューの油分で会話は滑らかにすすむ。それは卓子の隅に転がる茹で海老とか、床に落ちてる梟の羽根や、ひっくり返った蜘蛛のこととか。部屋のなかにあるものについてばかりだけど、時折あなたが脚を組んで見せる黒いハイソックスとか、悪戯にちらつく舌の先とかのおかげで、あまり飽きなかった。

***

蝋燭の火を吹き消して、その先は、語らなくていいだろう。青ざめた果物を鑿で割ったり、起伏の稜線に爪を立てたり。幾重にも襞をなす、青白い死者の乳が寄せては返す岸辺で、白く泡立つ裾の歯列につま先からあまく噛まれて、僕らは波紋になったり、螺旋になったり。そんな比喩のほか、語るべきこともない。歴史のいっさいは波のごときものだという、ただ、それ以外には。

◆◇◆◇

*1 藤原道長『望月の歌』。全文引用。
*2 三好達治『雪』。全文引用。

文学極道

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