捩れて落ちているビニールの袋のようなものを、立って見ていた。それは皺の寄ったメロディーだった。それは文字らしいものを変形させて露出と隠蔽のリズムを奏でていた。また、それは凹凸によって構築された光の明度の差異を外形として造営された小さなカテドラルだった。祈りなさい。空気が移動するとそれはまた簡単に転覆し、大手食品会社が製造する菓子パンの袋に戻っていった。戻りながら四つの座標軸に指定された特定の位置から遠ざかろうとするように思えた。だが、違う。メロディは時間と空間の軸をずらして鳴り続け、何かの、完成した楽曲の総体から解体され続けている。だから僕はほぼ十年が過ぎた今、それを思いだし怯えている。聖歌。神は確かにいるが、その座は空白であり、形の失われたカテドラルにはやがて蝿がとまり脚を摺り合わせたであろう。僕はその場面を見ていない。もしそれが実際に起こった事実だとしたら、「ほぼ十年」と語られる時間経過の中の微細な皺の中に、もう埋もれてしまっている。埋もれてしまっているはずだ。奇跡は微細な時間の襞に潜って、僕の視線の追求をかわし続けている。商工会議所として建てられ商工会議所として使われているその建物の正面の空間に、門塀に囲繞されたアスファルト舗装の駐車スペースがあり、おそらくそれは十年くらい前の八月下旬あたりにそこに転がっていた。だが、その事実は僕の視界を塞ぐだけであり、信仰に関することどもについて、明晰なるものは何一つ示されない。僕は怯えている。
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選出作品
作品 - 20130629_293_6934p
- [優] 怯え - 右肩 (2013-06)
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