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作品 - 20130615_156_6921p

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たまごがけごはん

  北◆Ui8SfUmIUc

この町には、昔から変わった習慣がある。おじいちゃんの、そのおじいちゃんの代より、もっと前からあるらしい。

この町では、週に1度どこかのおうちで、夕飯を「およばれ」するのだ。当然、「およばれ」するくらいだから、週に1度、どこかの家族を「おもてなし」するときだってある。

この町の家々には、それぞれ「お家料理」というものがあって、この「お家料理」は、先祖代々受け継がれてきたものらしい。だからどこの家も、このお家料理を表札と一緒に掲げている。電話帳にだって載せてある。

町を歩けば、トンカツからすき焼き、スシにカレーやお浸しまで、例えるならこの町が、ひとつの大きなレストランで、家々は、それぞれがひとつのメニューになっているのだ。

ちなみに、僕の家の「お家料理」は、たまごがけごはんだ。

僕の家では、このたまごがけごはんを、ずっと受け継いできている。時代の流れの中で、お家料理をハンバーガーなんかに変えてしまった家もあるけど、とりあえず僕んちの戸籍謄本に×の印はない。

昔は、たまごがけごはんを求めて、たくさん人が来たんじゃよ。家の外まで行列ができたもんじゃ。おじいちゃんは目を細めて言うけれども、最近は、そんなハンバーガーとか、洋食なんかに押されて、僕の家で「おもてなし」をすることは少なくなった。

だからというわけではないのだけど、僕たち家族が「およばれ」するときも、どこか質素なお家料理を選ぶようになってきている。お父さんは「長生きの秘訣だ!」なんて言ってるけど、湯豆腐が5回も続いたときは、本当にうんざりした。

ある日、学校から家に帰ってくると、家族全員が目を皿にして、電話帳を眺めていた。そしてお母さんは、お父さんを目で殺したあと、電話をかけはじめた。

もしもし、エビフライの山田さんでらっしゃいますか?あ、お世話になります、たまごがけごはんの田中です。はい、来週の3日に、山田さんのエビフライを、およばれしたいのですが?あ、よろしいですか!ではお伺いしますので、よろしくお願いします。

エビフライは僕の大好物だ!そして来週の3日といえば、僕の誕生日だ。お母さんは、にっこり笑って受話器を置いた。お父さんは口笛を吹いた。

文学極道

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