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作品 - 20130601_988_6901p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


俺の静謐な列車

  黒髪

俺はつらいつらいとつぶやいた
衝動に駆られて玄関のドアをガチャリと開け
合成皮革の靴を履き駆けだした
あたりでは草いきれの波がさざめく
汗や涙が流れて落ちる
俺は想い出す
子供の頃にさえ青空を見上げたことも
星空を眺めたこともなかった
まるで地面を這いまわる一匹のトカゲのように、眠たげな目を持っていたのだが
いまは、走っていると周りを飛び去っていく緑の中のまるで異物のように、反逆者だ
要するに人間とは誰も反逆者だ
連帯することはなく孤独な、頭の中に閉じこもった一人だ
どんな小さな微笑みも影を作らずにはいない
同じようにどんな小さな思考も裏の副作用を持たずにはいない
影の固まりが、不安を締め上げる
誰がストーリーを知っているのか
一本のスジの通ったヒストリーは
めちゃくちゃに裁断されてピースも失われている
もう一生混乱の泡立ちの中でもがくことを決められているのか、この世は地獄じゃないのに
どうしたら分かるっていうのか俺の頭のなかを
俺の夢遊病のような有様
別人格を与えられたクローン
だから先回りをして俺を押しとどめようとしても無駄だ
俺は計画をやり遂げるのだ、たとえ時間軸が撹乱されたテーブルであっても
その拘泥だけは立派に持っているのだ
だれだってそれにしがみつく
積雪のように崩れやすい記憶
明日のようにかぼそく儚い記憶
俺は忘れっぽいぜ
そう一本の川は海へと続いている
そして一途な想いは夢の中へ忍び込むことになると知っている
知らなかったのはこの日がどこへ消えて行くかということだ
初めて眺めるような雲に行方を聞くことも
空が切れる場所を覗き見ることもできない
それらの物語はみんな「自由」という文字の中に収納される
収納容器の自由というお笑いぐさ
その空虚さに耐えられる人などいやしない
だから多くの赤色が筋を作る
この夕日を見つめたくて
開放の時の声を聞くだろう
つらい思いを誰かに打ち明けるだろう
靴に空いた穴も気にしないで
心に空いた穴も気にしないで
風が吹く
風が
あの時の青い夏の日の残照を想い出す
みかんの果実が思い出の中から浮かび上がってくる
沈黙が思い出と調和して
何かの形を作り上げる
昨日とは何か
明日がくるときをいつまで待てばいいのか
人気のない駅で列車を見つめてる
静謐な車輪の、鉄さびに、今がわかった
その時構内アナウンスが流れた

文学極道

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