空からぶらさがる朝。眠りの残る背のかたさを気にしつつ、やや大きめの欠伸をすると、海面から降り注ぐ陽の光の眩しさに、おもわず、海藻に絡めた長い尾に力が入ってしまうのを、海馬は少々疎ましく感じながら、ふくらむお腹を見る。
海馬のお腹がふくれているのは、妻との交尾によってできた、多くの卵を入れているためであり、孵るまで海馬が守り続けている。妻はその間に海底へと向かい、険しい岩石や泥地に付着するベントス、付近を漂うネクトンを補食し続ける。
妻は普段、ベントスやプランクトンを求め、穴に潜むものや、隙間に隠れたままでいるものをも補食するため、海馬は心配になるが、背鰭や胸鰭を震わせ静観している。この頃の妻は特に激しく交尾を迫るため、海馬にとり辛い時期となる。
妻との交尾や、重くなるお腹に落ち着かなくなると、岩礁近くの大きな藻場へと、海馬は小刻みに体を震わせ、生暖かい海をのんびり出掛けることにしている。藻場では互いのお腹を見せあう者達で溢れ、褒めたり貶したり賑やかに過ごす。
藻場での一時を楽しんだ海馬は、月の光が射しこむ帰り道をゆらゆらと進む途中、お腹に熱が帯びるのを感じ始めると、その蠢く熱にうながされるように家路を急ぎつつ、生まれてくる子らを妻とともに祝福する姿を、ひとり、静かに想う。
・海馬‐タツノオトシゴ(seahorse)
・ベントス‐水底の岩 砂 泥に棲むもの 底性生物の一種
・ネクトン‐岩や砂の表面から離れて暮らすもの
・プランクトン‐浮遊生物 水中を漂って生活する 小型甲殻類 魚類の幼生など
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選出作品
作品 - 20130102_632_6595p
- [優] 海馬 - 鳥 (2013-01)
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