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作品 - 20121207_188_6534p

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ラベンダー色の少女

  深街ゆか

ラベンダー色の時代、わたしは一匹の子豚を抱きながら夜をまっていた。開け放った窓から見える白い月、これでは駄目、体内にはまだ朝の余白がつまっていて、胸はパックリと口を開けているからどこまでもイヤらしくて満たされないままだった。結局のところ、掴んだとしてもわざとらしく離すことに美しさをおぼえて、酔しれる、浴槽に浮かぶアヒルみたいに愛らしく救いようのない、こんな色の時代だから。くしゃみをしたら地球の裏側で外国人が三人死んだけど、何も無かったみたいにレースのカーテンは静かに風に揺れて、わたしの弟が生まれた。産毛を生やしたピンク色の弟は子豚という名前が与えられ、こんな時でもお母さんは、きょう地球の裏側で死んだ外国人たちを想いなさい毎日想いなさいとわたしを叱った。行為で示すことに抵抗を感じたお母さんの眼球は、ソーダ水に浮かぶ氷よりも透き通っていて素直で、なによりも自分を信じていた。そんな女に用は無い、わたしは、はだかの子豚を自分の部屋につれだし、こうして夜をまっている。ラベンダー色の夜はいつだって、穴ぼこだらけのペテン師だけど、酒臭い男と女の朗らかな笑い声は、鼻孔をやさしくくすぐるから、酒樽の中で互いを噛みあう人たちのことを許さずにはいられない。曖昧さが口の中で溶けたとき、わたしたちは母なる大地にキスをして、ひとつの時代がついた嘘さえも許してしまう。月明かりが窓から入り込んで、夜のはじまりを知らせた、何かを悟って顔をぐずぐずにして泣き出した子豚の湿った鼻に、頬をすりよせわたしは目を閉じた。じきにこの時代も終わるだろう、そしたらお母さんの行為への抵抗も薄れるかもしれない、わたしと子豚がいなくなっていることに気づいてくれるだろうか、警察はわたしたちの足跡を見つけることができるだろうか、新聞紙はわたしたちを徹底的に調理するだろう「新たな時代の幕開けとともに消えた少女と子豚、残る謎!!」だけど誰にもわたしたちを見つけることはできない、わたしは夜の穴ぼこで、ラベンダー色の時代が産み落とした子豚という名前の弟を、責任をもって丸飲みにしたら新しい時代に毒を盛る。覚悟して待ってろ。

文学極道

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