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作品 - 20121205_112_6526p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


音の城

  sample

子どもは揺りかごのなか、ぐっすり。と水になる。
笹船のように耳だけをうかべて、聴いているのは、さざ波の音。
僕は、耳を手のひらで掬いあげ、扉を押し、ひらく。
足下には砂、埋もれた階段、月明かり、が部屋の隅々にまでながれ
子どもの背中で水浴びをはじめる、鳥。

上空、なにもいない。砂丘に囲まれた立方体。その動かない影。
砂に足をつけ、指が、沈んで、離すと爪先から肌色の砂がこぼれ落ちる。
砂丘へとあるく。掬いあげた子どもの耳には
極小の水たまりができていて、そこへ映るのは、見下ろす顔。ふたつの目。
砂が吹きつけて、閉じる左目。見下ろす月。

砂丘の斜面には様々な管楽器が、小さいものから徐々に大きいものへと
円を描くように並べられている。僕はその中心で立ちどまる。
あしあとをたどる、小さな、人影。揺りかごの中、水であった子ども。
何かをさがすような足どりで、こちらへと、あるいてくる。
まだ、眠たいのだろうか。目を擦りながら僕の手から耳を拾い上げる。
あたまをそっと傾けて、耳に、重ねる。

少し目が覚めたような表情で、そのまま片足を折り曲げ、四回、跳ねる。
いち、に、さん、し。耳から数滴、水が落ちる。
子どもがとてもおどろいた顔をしたので、空を見上げる。
飛び立つ群鳥のようだった。この砂丘をつくる、砂とおなじ数だけ
色と形が、楽器から、あふれはじめていた。

文学極道

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