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作品 - 20121130_992_6511p

  • [佳]  無題 - zero  (2012-11)

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無題

  zero

僕には心がないのです、この充実ですか、これは何か砂糖菓子のような余分なものでしかないのです、ただ甘いだけでそこで閉じてしまいます、あなたはそんなに死にたいのですか、死にたいと言いたくて、死にたいと口にするたびに生きたくなるようでもあり、何かの滝でしょうか、なだれ落ちていく、その後の空白しかあなたを生かすことができない、空と草、洞窟と海、このような類義でも対義でもない斜な関係ばかりですね、首を吊るよりも山で凍死した方がいい、そんな二者択一よりももっとたくさんの選択肢があるではないですか、大体僕がこんなことを書いているのも無数の死を指し示すために過ぎません、言葉の機械性、経験の二重性、世界の孤立、あらゆるところに既にひびが入っていて、ひびどころではない死が、語ることも経験することも存在することもできないものとして、例えば国家試験や近所の結婚、火事騒ぎ、そんなものそれ自体として梳き込まれているのです、僕の心は重なれば重なるほど薄くなっていきます、生きるとは心を重ねて薄くしてしまいには消し去ってしまうことです、あなたは頭の中で他人の声が聞こえるのですか、すごく冷静な声で「親父を殺してしまえ」とあなたに告げて、あなたはその声がとても嫌なのですか、それがあなたの現実というひとつの直角ならば、僕はその直角をまるめていくつもの紐をつくるでしょう、御覧なさい、僕の優しさがこんなに雨に濡れています、光っています、重く冷たく、雨と雨でないものとの隙間に入り込もうとして、アクセル、ブレーキ、速度計、たくさんの都市があなたを取り囲んでいます、僕はそのたくさんの都市を、さらにたくさんの風音で包んでいきましょう、人格というのはひとつの季節に過ぎません、ひとつの人格が移ろえば、景色も温度も変わります、違った花が咲きます、人格の抜け殻からいくつもの国家が立ち昇りました、国家とは夢の物質です、暴力とは菫の媚態です、人々は政治を何度も書き直して、推敲して、権力という書物に溢れるばかりの署名をしたのです、政治は技術の一塊であり、人々から政治から国家から政治から人々へと技術の桂冠が潮を更新しながら、あなたは国家の内燃機関へ手紙を出したのですか、旧交を温めるため、内燃機関の顔面へと文字の没落していくもろもろの要因を噴射したのですか、国家を生きるために自然を生きる必要があると僕は思います、国家の規範と自然の規範の両方に指を捧げながら、今日もマクドナルドは憂鬱なのでしょう、制服を纏った店員の抑え気味な化粧の下でよく動く筋肉の果てから、フライドポテトを揚げるネットの手さばき、大きな看板、簡素なテーブルと椅子、僕とあなたは列に並んで苛立ちを会話でごまかしながら、しばらくしてカウンターに置かれたカードを見ながら注文、飲み物をもってテーブルへ移動し、食べ物がしばらくしてやってくる、何かが突き刺さっていましたね突き通していましたね、僕とあなたとマクドナルドと国家と、その何かにはまた何かがくるまっていて、その何かの上にさらに何かが経過したでしょう、0.932467年以上前のことです、僕は昔、体中に力を入れて歯を食いしばることがとても気持ちよかったのです、祖父母の過干渉のストレスがあったのでしょう、何か排泄するかのような気持ちよさでした、それからいくつの雲が僕の頭上を通り過ぎたでしょう、何匹の蜘蛛が僕の家の庭で鳥に食われたでしょう、年齢は罪です、年を重ねるのは恥ずかしいことです、大きな陥落がテレビで流される度に僕はそこに自らの慙愧を重ね合わせました、少女との恋がありました、何度も目が合いました、目が合うたびに体中が狂おしく甘くなったのです、でも僕は恋を禁止していました、だが禁止していたのは相手の少女であり社会であり政治でありそれらの共謀と延々と過去を無の箱へと落としていく作業、その箱を僕は今部屋の隅の棚の上に置いているのです、オルゴールが時間を切り裂きその快楽に逆に切り裂かれるそういう箱です、箱を彩る輪郭に刷り込まれているのは、僕の欲情が垂らす一滴の汗、箱が懐かしいのは箱との距離を勘違いしているから、告白します、僕のすべての断定は勘違いでした、僕のすべての理解は13度くらい傾いていたのです、あなたは自分が生きていることを確かめたくて腕を切ったのですか、血が出て来てやっと自分が生きていることを実感できたのですか、僕も過去の自分が生きていることを確かめたくて、しばしば想像を膨らませるのです、東京都板橋区の狭い路地を自転車でこいでいるときの自分、その水銀のような統覚と雨のような身体、記憶と想像の二つの長所にあいさつを重ねながら、過去に僕が生きていたことを確かめることで、現在の自分が居てもいいような気がするのです、過去がなかったら今の自分は不当です、悪です、過去があるから現在は正義なのです、さて未来を想像してみましょうか、未来に挨拶して握手して会話していつの間にか未来と入れ替わりましょうか、ところが未来は出入り禁止です、僕の城下町には入れません、なぜかというと希望という厄介な病気に罹っているからです、希望によって皮膚がただれた泣きそうな少年が僕の未来です、少年と僕とは戒護者立会いの下でガラス越しに接見するのです、未来という少年は永遠に服役しなければなりません、生きている実感、それは多様な仕草で人々の口のあたりに貼りつきますね、孤独ですか、それは何を指しているのですか、例えば世界で初めて生まれたエネルギーは孤独だったでしょうか、孤独とは挫折あるいは挫折未遂、孤独な人間の周りにはあまりにも美しい情念が広がっています、孤独な人間は空間を飾り過ぎるのです、だから虚しくなる、挫折する、人間は美しい関係未遂を繰り広げることで、その論理的背後である孤独に再び修飾されるのです、部隊が編成されます、兵士が行進します、戦争の演習が幾度もなされます、あなたが復讐心に駆られて相手に反撃する、それは戦争と同じではないですか、口喧嘩と撃ち合い、どちらも同じ回路の上を走っていく超越同士の衝突でしょう、僕は昔よく喧嘩をしました、素手の喧嘩です、一度警察に通報されて、取り押さえられて、尋問されて、釈放されて、警察官の体を支えている大地には権力の肥料がまかれていました、警察官の制服には国家の押し付けがましい苦悩が焼き印されていました、行政の意思決定における上司と部下との確執が僕に烙印を押すべきか流れに流れていったのです、あなたは何もかもが嫌なのですか、あなたの中には複数のあなたがいて、それらのせめぎあいが絶えざるストレスを生んでいるのですか、そしてそれを発散するために、酒を飲んでは暴れ、そしてそれを後悔するのですか、僕には嫌悪する資格がありません、嫌うことによって築かれた小さな丘の上で自足していると、いつの間にかその丘が奈落だという現実と幻想の折衷物に背筋をまさぐられてしまうのです、僕は好んで分裂しますが、分裂した木の枝や小宇宙や活字がそれぞれに愛し合い絡みあってしまうのです、僕はこの分裂してもなお生き伸び続ける自己愛が怖い、そしていつもの自分のキャンバスからはみ出る快楽と苦痛は、もはや自分が描かれる場所がないという香りのようなものにはじき出され、暴れることによって不在になることの手触りはどんどん増殖してしまいました、あなたは入院するのですか、病院による監視の粒によってあなたは穴だらけになるでしょう、近所の噂話の壁によってあなたは水平の重みを感じるでしょう、病人を隔離する制度がその目的の純粋さを失い社会の感情と政府の権力によって泥まみれになる現場においてなおもあなたは自分の存在を叫び続けることができますか、

文学極道

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