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作品 - 20121017_081_6420p

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パチンとはじけてみんな終わる

  深街ゆか

缶詰を開けると外は雨降りで賞味期限はとっくに切れていた  婆ちゃんがどこもかしこもこんなものだわよって  母さんも私もそうかもねって  あの頃は確か毎日なんだかんだおかしくて  わたしたち手をつないで笑ってたんだったと思う  でも今は婆ちゃん半分ボケて  貝殻を耳にあてがって暮らしてる
/夜のね海のね波打ち際で/わたしねひとりぼっち/だったんだよ/小さな貝殻拾ってね/耳にあてると/波の音に混じってね/お母さんの声が聞こえるんよ
そう言って涙を流しておんおんと泣く  婆ちゃんの顔は小さなスズエちゃんの顔  スズエちゃんの涙が絶えず吹き込むから家の窓という窓はすべて閉ざされ  母さんはスズエちゃんをおんぶして暮らすようになった
スズエちゃんは母さんのおっぱいを気に入り  夜になると母さんの胸の中にずるりと潜り込んだ  スズエちゃんの涙はまだまだ止みそうになくて  ラジオから流れる台風情報に耳をすますと  聞こえてきたのは遠い日の母さんの声でした
傘をさしスズエちゃんをあやす母さんの影がもう少しで消えそう  私は部屋のすみっこの少し高いところからそんな母さんをただ見てた



  母さんコンビニ行ってくるけど何かいる?
  そう言って私スズエの貝殻をポケットに入れて
  家に帰らなくなって今日で何年経ってしまったんだろう



母さんをおんぶしてスーパーマーケットに行くと  生鮮食品売り場が季節の訪れを教えてくれた  魚が食べたいなと言った母さんのくちに  身をぐずぐずにしてから骨をはじいた魚を運んだ  ゆっくりと咀嚼する母さんを  どんな立場で見つめればよかったのか  今も正解が見つからない  夜  母さんは私の胸のなかで丸くなって眠る  わたしも母さんを包み込むように丸くなる  暗い部屋の一点を見つめていると  視界が狭くなって真っ暗でなんにもない  だだっ広い宇宙に迷いこんでしまった
婆ちゃん母さん  子宮に託した夢が  パチンパチンとはじけ散る音 が からだのなかで響きわたってます こんなところでしょうか こんなものなのかもしれませんわたしたち



缶詰を開けるとあのころのわたし達がゲラゲラと楽しそうに笑っていた

文学極道

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