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作品 - 20120829_770_6302p

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電入操作官

  菊西夕座

ケータイ潜入操作官、略してケー官が、いきなりケーッと吹き出した。正面から自分を撮ろうとした矢先のことだった。吹き出した拍子に、ケー官の声があたしの額にモロに突き刺さった。硬い骨片のような声だった。ケー官は、あたしがカメラを向けたとき、メダリスト気分で自分の銀バッジ(正確には、バッジの尻のところだから、バッ尻、噛みつかれたバッジにとっては、とんだとバッチリ、なんちゃって)にかじりついてみせたから、おそらくケーッと吹き出した拍子に、噛み砕かれたバッジの欠片が一緒に吹き飛んだのだろう。あたしは自分にカメラを向けたのに、なんでアイツがポーズをとるんだ? しかも得意げにバッジなんか咥えて? アンテナが7本(通話GO=II+0[輪]+五=7、これがあたしたちの秘密の合図、どう? やかましい?)立っていることを確認してから、この件について、ケー官に電話してみた。すると彼はこう言った。「瞳の蛍が君の光」。

瞳のケーがあたしの光・・・・・・。
あたしは夜通しかけて読了した本を閉じるように、ケータイを静かに折りたたんだ。唇からはかすかに満腹後のようなため息が漏れていた。折りたたんだケータイを綿ジャケットの内ポケットにしまった。そうして、ケー官が潜入に成功したというきらびやかな双眸を閉じた。もう逃がさないぞと誓った。もう一生、『彼』を逃がすもんかと固く決意した。胸が、ふるえている。ヴァイブレーションだ。マナーモードで揺さぶりをかけてくるなんて、感激するほど紳士的。胸のふるえがいっこうに止まらない。官能的な着心音。たっ、たまらないわっ! あたしは内ポケットに手を突っ込んで、『彼』を取り出す。うれしさで身震いしつづける『彼』を両手でつまんで、股間を広げるように、観音開きでウヤウヤしく歓迎する。瞳のほうはまだ閉じたままだ。この幸せな瞬間を写メに残そうと思う。その想いを悟ったかのように、指先の震えがピタリと鎮まる。以心電信。さすがはケータイ操作官。手探りで通信端末をカメラモードに設定する。厳かに内蔵された『彼』を正面に据えて、目蓋を上げる。『彼』が銀バッジの端を咬んでにんまりしている光景が脳裏に浮かぶ。こんどこそ、確実にシャッターを切らなケーッと音がした。シャッター音よりも早く、ケー官が吹き出した。またしても、早撃ちだ。硬い骨のような声がほてった額を突き抜ける。なんでアイツはあたしと正対する途端に吹き出すんだろう? あたしの顔面がそんなにバカみたいにマズイのだろうか? 苛立ちながらじれったく指を動かしてこの一件をケー官に電話してみた。相手はすでに潜入操作を開始したらしく、電話に出ない。代わりに出たのは、あたしの執刀医、オペレーションドクターだった。ドクはこう言った。「今日こそは君の頭にめりこんだ異物を取り除こうじゃないか」

通話接続バッチGOO。バッジGOO? どうやら潜入に成功したらしい。
『彼』はいつかきっと、真のオペレーターが何者かを証明するだろう。

文学極道

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