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作品 - 20120728_122_6237p

  • [佳]  二度寝 - 浪玲遥明  (2012-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


二度寝

  浪玲遥明

淡い桃色の朝焼けがしずかに蒸発して、音もなく空が青くなるのを、じっと窓
越しに見つめていた。貧弱なスピーカーから流れる音楽と、母親のすすり泣き。
どうやったって布団から出られはしないんだ。カチ・コチ・カチ・コチ。突き
刺すような一秒一秒が、痛い。起き上がらなくてはならない。起き上がって、
朝食を食べて着替えて靴を履いて自転車に乗って、学校に行かなくてはならな
い。手のひらのなかの現実を、握りつぶすことさえできなかった。

昨日の夜から吐き気がひどい。枕元には洗面器もビニール袋もないから不安だ。
寝返りを打つたび、背中の筋肉の隙間にふっと、青い液体が流し込まれる。カ
チ・コチ・カチ・コチ/かすかにきこえる秒針の音。母親はさっき仕事に出か
けた。体のどこかで神経が切断され、この体がどこまで自分のものなのか解ら
なくなったのはいつだったか。再度接続を試みている。起き上がることなど、
目が覚める前から諦めていた。

(瞼の裏に広がっている雨上がりの草原、そこでは、歩き続けないといけない
のだと、歩き続けなくては死んでしまうのだと、なぜか知っていた。太陽が見
えない曇空。しめった足音に雑草が踏みつぶされていく。ときどき隕石が降っ
て僕を打つから、体の所々に青い痣ができた。痛くはない。顔だけぼやけた友
達が現れては消える。大丈夫だよ、体の輪郭だけでも君が誰かは解るから。消
えていく。何も喋らない。表情もない。消えていく。僕はただ歩く。)

だんだんと雲が減って、太陽が見えるようになると、草原も乾いて、そのぶん
体が重くなる。足がもつれ転んで、膝にかすり傷ができた。地面に手をつき下
を向いている僕の横に立っている君は誰だろう、見上げようとして目が覚める。
鼓膜を甘噛みするように、音楽はまだ流れていた。窓越しに見える空は、雲ひ
とつない晴天だ。まばたきを繰り返し、やっとのことで重たい上半身を起こす。
僕はひきずってでも、遅刻してでも、今日もまた学校に行くんだろう。

文学極道

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