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作品 - 20120726_060_6228p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


滅そうもない

  菊西夕座

「お客様、閉店でございます」
―俺様がお客様に見えるか
「俺様、閉店でございます」
―俺様は俺様でも俺様と呼べるのは俺様だけなんだよ
「お気の毒さまです」
―なに言ってんだよ
「孤独、なのかなと思いまして」
―孤独イコール気の毒ということは同じドクなのか
「字がちがいます」
―俺様もちがうんだよ
「折れ様でしょうか?」
―骨、折られてぇかてめえ
「閉店ですので『居れ』とはいえないですし」
―居座る気はねえよ
「イスは悪くなくても席は立って頂かないと・・・」
―イスは確かに悪くねぇな
「スイス製のイスです」
―2つもイスはいらねえよ
「それひとつだけです」
―じゃ『ス椅子』にしとけや
「イスラエル製のイスもあります」
―イスもラエルイスもあるってか
「もらえません」
―買ったんだろが
「買いました」
―金だしたんだろが
「出しました」
―俺様にもだせよ
「逆です」
―なにが逆だ
「お勘定がまだです」
―俺様を何様だと思ってるんだ
「逆さまでしょうか」
―ピンポーン
「ラストオーダーは終わりました」
―注文の合図じゃねぇ
「なんの合図でしょうか」
―正解の合図だよ
「なにか当たりましたか」
―俺様は逆さまなんだよ
「客でなく逆ということでしょうか」
―貴様が俺様の客なんだよ
「これはなにかのギャグでしょうか」
―客だよ
「特に注文はありませんが」
―さっき注文しただろうが
「閉店のご挨拶の件でしょうか」
―当店のご閉店の件だよ
「当店は来来軒です」
―名前なんか知るか
「来来とは来い来いという意味です」
―来てやったよ
「残念ですが閉店の時間です」
―客じゃねんだよ
「逆でしょうか」
―そうだ
「逆様、閉店の時間です」
―逆さまだろうが
「閉店の時間です、逆様」
―倒置じゃねえんだよ
「すでんかじのんていへ、まさかさ」
―なに言ってんだ
「どなた様も閉店でございます」
―貴様が出ていけや
「後始末がございますので」
―金の始末はつけたるわい
「めっそうもない」
―滅するに決まってるだろ
「というと」
―まだわかんねえのか
「とんと」
―とんとでなく盗っとだよ
「盗人は昨日3人入りました」
―バイトみてぇに雇ったか
「雇ったではなく盗ったのです」
―なにを盗った
「店の売り上げです」
―それでどうなった
「零零軒と揶揄されました」
―俺様は遅かったってわけか
「店じまいです」
―逆さまもいいところだ
「署までご同行願えますか」
―何様だ貴様
「いかさまです」
―なんだそりゃ
「囮捜査です」
―てめえサツか
「貴様がサツです」
―となると俺様はまた・・・
「逆さまさ」
―貴様、俺様を返せ
「貴様は貴様でも貴様と呼べるのは貴様だけなんだよ」
―偽物め
「ピンポーン」
―いますぐ俺様を返せ
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
―帰る
「毎度ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
―自作自演はやめてくれないか?
「めっそうもない」
―滅しろ悪魔め
「貴様が悪魔です」
―となると俺様はまた・・・
「逆さまです」
―俺様が逆さまに見えるか
「お気の毒さまです」
(以下、延々とつづく)

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