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作品 - 20120702_599_6181p

  • [佳]   - 水野 温  (2012-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  水野 温

いくつもに損なわれた星がみずをとざして
うつろうことの代償をもとめないしらじらとした川からモノレールがとおざかってゆくの
を bridgeというかげろうのしたでみつめている風がささやかな結晶のあてどなさからふ
きこぼれている 朝があけるという音階に木洩れ日がひつようであったかどうかはともか
くとして草いきれのなかで初夏はのぼりつめようと雲につながり 土手下のふるいコーポ
ラスに陽ざしをつくっていった 

 
讃えられることのない(煌めく)という葉脈へ
かけあがってゆく空気のうすさがふるふるとひろがりながらそれはとらえることができな
くて あけはなたれた窓に夭折する夏やすみのにおいがふりつのっているよね わたしが
しるすことのできなかった最終章が雨あがりのまぶしさにとまどうようにうつむいて と
おざかってゆくモノレールからさよならって告げてくれている 聡明な風という逆理にそ
っくりな草のにおいがすこしだけ遅れながらさよならってかえして、つまりはさよならっ
ていうことだ 雨あがりがまだどこかでぬれている



「なくした脊椎をさがしてウイグルの砂のうえを旅する少女の物語をモノレールのなかで
読んでいた」あなたはとおざかってゆく(もうろうとしたガラスのむこうがわで)
街の高台がふりそそいでいって
きらきら

きらきら



とうめいなまみずの損壊が
空のまんなかでみえない星をかくまって 過ぎてゆくということのもどかしさを傷まして
いるのはなぜなんだろう ささえきれない余白のきれはしがbridgeのみぞおちあたりでみ
つめている草いきれへの憧憬を (まだねむりたらない)へのゆっくりとしたあゆみでか
ぞえあげてゆくのがまどろっこしいのなら わたしが開けた窓に沿って木漏れてゆくさよ
ならというあてさきはけしてあなたに追いつきはしない 昼下がりを歌うために朝がかけ
のぼってゆこうとしている


もてあまされた、鳥たちの滑空を打とう
ふりしきるものは みえない蒼というmetaのうちがわなのだから みえなくなる「えいえ
ん」なんてあのとおざかってゆくモノレールの背中のようにうらがえされて ポケットに
入れられて空にむかってぬれてゆくのさ (みるみるうちに)をあおくあおくそらしつづ
ける虚数のようにながれてゆくジェット気流がむすうにこわれてふりつのれば 鳥たちの
滑空を打つおとが鳴りひびいてゆく


開けはなされた窓からはもうモノレールはみえない

文学極道

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