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水野 温

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


みずのこまかな粉粒が・・・

  水野 温


みずのこまかな粉粒がじかんとなり
まいおちることが綺羅によってもてあまされている


だれもいないばしょをつくることが
あのコンビナートのひろがる工場地帯のしずまりかえった午後につながってゆくんだねって とうめいな粉塵をもてあましたあしたをてのひらのなかでくみたてていたら ガラスの鳥がとんでゆくまばゆさが壊れかけたアパートの埃だらけのちいさな窓のむこうに、飴色に夭折されたつらさをともなってながれるのがみえている ここにはどんな近似値も意味をなしていないので いなくなってゆくひとのコトダマだけがいみをつくっているんだ
みずを空に書きかえてゆくことがコトダマにつながっているんだ なだれてゆく綺羅のなかで雲がじかんにきずつけられていって なにもかもがわすれられてゆくのだとしてもそれはそれでゆるされているのかもしれなくて ガラスの鳥のこわれた骨の破片が韜晦をとかしてみずぬるむアジュールブルーにぬれつづけてゆく


みずのこまかな粉粒がじかんとなり
まいおちることが綺羅によってもてあまされている


どうなんだろう、コンビナートから
おりてくる金属質のなまぬるさが陽のあかるみのなかでこまかくちりつづけながら工場地帯をつつみこんでいって ここにすべての欠損のいみがあるとおしえてくれるのだけど だれもいない何万日もの日々がうすくうすく空のうえにひろがっていくので かぎりなくとおざかるものの名まえさえもわからなくなってしまう ガラスの鳥の夢みるばしょにつながっているかもしれない(困惑のかたちをしたうすい陽がながれる)アパートのちいさな窓をすかしてみると うそをささやくアジュールブルーのなかで ふわふわとうかぶしろい小船がはるか高みの溶鉱炉に座礁してつらそうなしぶきをあげているのは 今日という日のための記念碑かもしれなくて とうめいな気流がみずのいろをじかんのうちがわにおりこんでいた


みずのこまかな粉粒がじかんとなり
まいおちることが綺羅によってもてあまされている


「無人の工場地帯のまんなかにある、いまはなにもおかれていないためにがらんとしずまりかえりひろがっている資材置き場のまんなかのほこりっぽい地面のうえに、午後の陽ざしのながい帯域につつみこまれるようにして少女がぽつんとひとりでたたずんでいる写真が、解体をまつばかりの古いアパートの壁に貼られていたのを思い出していた」



みずのこまかな粉粒がじかんとなり
あなたをつつみこんでいるのをうそのように感じていて とおくにみえるコンビナートに蒼空とともに舞いおりてゆくのもなにかのあざむきのように濡れているのは「彼方」ということばへの遺跡なんだよと、すぎさってゆくものへは飛沫させてみる (そこからはじまることがすべてだと)写されたあなたの写真をしまいわすれて飛ぶガラスの鳥の夢をみるためにアパートの窓をあけはなせば ふわふわとうかぶしろい小船がはるか高みの溶鉱炉に座礁するしぶきが夢をいつまでも濡らしつづけていった


偽の植物園

  水野 温



蒼穹ということばのなかにきえてゆく鳥の声が
とりかえしようのないあえかな記憶の
みずみずしいうそを
傷つけている 

そしてわたしはきみにはもうあたえることができない

いうよりはあたえるものさえも思いだせないままに秋の
蒼穹のなかにきえて
ゆくのである 鳥の声は。 (あざやかな
黄金状の死のなかで倒れふす男の夢が
反復され)水の気配がしずかにひろがってゆく。

    ありふれた風景がひろがる秋の植物園のまぼろしが
            陽射しのうちがわにおりこまれ

思いだせないもののおもさが
枯れ葉いろの空白ににじみながらしずんでゆくいたみを
すこしづつずらしながら
鳥の声をきいている

きいているのはだれだろうか
わたしではない。


水葬

  水野 温




水葬という
ことばの碧さにしずむ街があるのならば 
その街のはずれにはいつも、だれからもみすてられた植物園がある

(みあげれば
そこには)
まとまりのない沈黙が
みずをせきたてるようにあおさをふかめ
こわれかけた噴水のまえにたたずむ盲目の少年のうえにひろがっている

みすてられたもののあえぎは
きこえない

あざとい夢のなかで奔流する風は
ゆりもどされて
そこにある。
せきする鳥の落下はぬれてゆくからすべてもまたぬれおちてしまうのだと
あらゆる葉脈にかきうつしても、やはりすべてはだれの記憶からも
はがれてゆくので
こんなにもあおざめているのだろうか、
みえない瞳でみつめられるものを
あやうい方位にはぶいて 
少年は石化するまでいつまでもたたずむことしかできない

窒息におきかえて
あざわらう雲の追悼はしろい
(とりかえしのつかない)みずへの追訴のように、子どもたちの歓声が
錯覚されて
みみをゆびでとざしてもせきとめられずに
こわれてゆくことば、
あるいは
葉音
(がある)

モノトーンのくるしみをみどりにおりかさねてふるえる」
円錐形の風のように
きっとなにかがそこなわれてしまっている
噴水台のテラコッタにからまる蔦はきっと空にもからまりながらすべては
石化してしまうのだろうかとあなたにきく

(その問いに
こたえるべき声もまた盲目)
植物園にかすかに反響するものはだれの声でもない


  水野 温

いくつもに損なわれた星がみずをとざして
うつろうことの代償をもとめないしらじらとした川からモノレールがとおざかってゆくの
を bridgeというかげろうのしたでみつめている風がささやかな結晶のあてどなさからふ
きこぼれている 朝があけるという音階に木洩れ日がひつようであったかどうかはともか
くとして草いきれのなかで初夏はのぼりつめようと雲につながり 土手下のふるいコーポ
ラスに陽ざしをつくっていった 

 
讃えられることのない(煌めく)という葉脈へ
かけあがってゆく空気のうすさがふるふるとひろがりながらそれはとらえることができな
くて あけはなたれた窓に夭折する夏やすみのにおいがふりつのっているよね わたしが
しるすことのできなかった最終章が雨あがりのまぶしさにとまどうようにうつむいて と
おざかってゆくモノレールからさよならって告げてくれている 聡明な風という逆理にそ
っくりな草のにおいがすこしだけ遅れながらさよならってかえして、つまりはさよならっ
ていうことだ 雨あがりがまだどこかでぬれている



「なくした脊椎をさがしてウイグルの砂のうえを旅する少女の物語をモノレールのなかで
読んでいた」あなたはとおざかってゆく(もうろうとしたガラスのむこうがわで)
街の高台がふりそそいでいって
きらきら

きらきら



とうめいなまみずの損壊が
空のまんなかでみえない星をかくまって 過ぎてゆくということのもどかしさを傷まして
いるのはなぜなんだろう ささえきれない余白のきれはしがbridgeのみぞおちあたりでみ
つめている草いきれへの憧憬を (まだねむりたらない)へのゆっくりとしたあゆみでか
ぞえあげてゆくのがまどろっこしいのなら わたしが開けた窓に沿って木漏れてゆくさよ
ならというあてさきはけしてあなたに追いつきはしない 昼下がりを歌うために朝がかけ
のぼってゆこうとしている


もてあまされた、鳥たちの滑空を打とう
ふりしきるものは みえない蒼というmetaのうちがわなのだから みえなくなる「えいえ
ん」なんてあのとおざかってゆくモノレールの背中のようにうらがえされて ポケットに
入れられて空にむかってぬれてゆくのさ (みるみるうちに)をあおくあおくそらしつづ
ける虚数のようにながれてゆくジェット気流がむすうにこわれてふりつのれば 鳥たちの
滑空を打つおとが鳴りひびいてゆく


開けはなされた窓からはもうモノレールはみえない

文学極道

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