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作品 - 20120625_469_6169p

  • [佳]  WIFE - 菊西夕座  (2012-06)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


WIFE

  菊西夕座

大漁の釣りからかえってくると
妻が竿を3本くわえ込んだまま
「おハイり」とうれしそうにいう
「ただいま」と返せるはずもなく
まっ青になって立ちつくしていた

棒立ちになった夫にむかって
くぐもる声で「おハイり」となおもいう
その口にまっサオが入れる隙はもうない
地上に釣り上げられた魚のように
ぴくぴく震える唇を干からびさせていた

痴情にめざめたお盛んな妻は
縛らせた両足を潮でぬらしながら
一糸まとわぬ下半身をひらめかせ
人魚が踊るしょっぱい海面よろしく
シー(SEA)カップの乳房を波うたせている

その胸にはなんどか突っ伏したことがある
大量の悲しみを受け止めた大皿の胸
傷口からあふれる痛みを吸い尽くす海綿体
顔を上げればほほえむ瞳が視界を照らし
どんな不幸にも沈まない太陽に見えた

だれにもその秘所は隠されていなかった
すべての穴場が大公開されていた
垂れた竿なら猥婦(WIFE)が夢中でしごいてくれる
夫がひきつりまっ青になるころには
糸引く竿が彼女の口から水揚げされた

目くじらを立ててみても涙がこぼれてくる
やはりクジラには塩水が必要なんだろうか
とめどなく流れて集まる涙を見ていると
目クジラがやるせなく水底へと沈んでいった
意気地のない眼差しがこちらを見返している

不漁の海から顔をあげると
妻が舌で3本の糸をまきとりながら
「おカワり」と噴水泉をおしひらく
「ただいま」とすがるように飛びついて
この雌クジラだけは逃がすまいと突っ伏した

文学極道

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