過ぎし階段には
弓なりの
くたびれはてた薔薇
折れ曲がる
矢のような
かぼそい一輪
しおれた
赤黒い花びらの
内側にくるむ
瀕死の雨の匂い
鞭をうたれ
水気で重くなった
黒ずむ静脈と
おなじ色の茎
固く短い棘が
弧の先にこわばり
階上へと向き合う
彗星が窓ごしに
光のキスを投げるとき
薔薇は足に踏まれ
盗人の泥を宿す
咲き栄えた庭の
群れなす思いでが
泥のなかに流れ
届きあぐねた天上の
木星のぬくもりを
踏み板に見出し
花びらの下顎呼吸で
雨が残した一滴を
深くしみこませる
雲がわだかまりをとき
半月は高くのぼり
薔薇の影はのびて
階段を駆けあがり
眠る恋人の待つ
とこしえの夜を包む
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選出作品
作品 - 20120518_850_6106p
- [佳] 手向けられなかった花 - 菊西夕座 (2012-05)
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手向けられなかった花
菊西夕座