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作品 - 20120510_705_6087p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


こしあんルーレット

  大ちゃん

僕は
お饅頭の中身は
粒あんが好きだが
嫁の母は
こしあんが好きだった

好きなだけならいいが
粒あんのことを
下品だとか
気持ち悪いとか
さんざん虚仮にする

長期に渡り
家族ぐるみで
生活費の援助を
受けている身としては

「そうっすねぇ、あんなの、あんこじゃないっすよ。」

なんて引きつり笑いで
受け流すしかないけど
内心は
はらわた煮えくり返っている

他の事は良いんだよ
かるーい気持ちで
スルーできる
大人だもの

だけど粒あん
粒あん

はるかかなた
南米の地にあると言う
女だけの王国アマゾネスの
選りすぐりの戦士達の
豊潤なクリトリスを
じっくりコトコト
弱火で煮詰めたような

有名バリスタも舌を巻く
あの艶
あの照り
あの触感
ああもう考えただけで
いっちゃいそうです僕

ある日
夕ご飯のテーブルに
おまんじゅうが並んでいた
だれが買ってきたのかな

「めしの時間に、一緒に食うのがエエンやで。」

お菓子に目がないお義母さまの
いつもの無茶振りだった

「よっしゃや〜、皆いっせいに食べるで。」

お義母さまのそれって掛け声で
僕達ファミリィーは同時に
お饅頭にかぶりついた

「うぉ、まっずぅ、粒あんやんけ。
アンコやと思うたら、
中にウンコが入ってるで。」

お義母さまはペッて
口から黒い塊りを
お吐きになられた
そんでもって
テーブルにベチョ

その時
僕はあろうことか
「何をするんだ。」って
刺すようなきつい目で
お義母さまをにらんでしまった

だってだって
可愛い僕のプリンセスを
ウンコ呼ばわりしたんだもの

「なんじゃ、われ、文句あるんか。」

し、しまった
けど時すでに遅し
盾になってくれるはずの
嫁はんも今日は
女子会に行っていて不在

「お前、さてはあれか。こんなけ援助させといて、
今日も子供の入学金、しめて60万円払わさせといて、
えらいキバむいてくるんやのぉ。」

「おばあさま、ぼくたちのおまんじゅうは、
みんなこしあんだよ。」
長男が騒ぎ出した

「さてはお前やろ、わての皿にだけ、
わざと粒あん入れたのんは。」

下垂した上目蓋を
プチ整形で
無理やり大きくした
その白目がちな眼が
更なるど迫力
天然3D画面で
僕に迫ってきた

そ、そんなこと
やってません、やっていません

「わてへの、嫌がらせか〜、ほっとけんの。
今まで、お前等に援助した1億円、耳をそろえて返せや。」

なんぼなんでも1億円って
あんまりにも法外でっせ
ママン

お義母さまは食いさしの
粒あんのおまんじゅうを
床にたたきつけると

「やってへんのやったら、これを踏んで見いや。」
踏み絵ならぬ踏み饅を
僕に強要してきた
恐ろしいことになった

ごめんね
僕のアマゾネス軍団
でっかいゴキブリを
叩き潰した事のある
この腐りかけのスリッパで
お父ちゃんは今
君達を踏みつけるね

悪く思わないでよ
これも生きる為なの
家族の為
子供たちの為なの

はうあ〜
お饅頭はビッチャって潰れた

「ほう、やればできるやんけ。
早くティッシュで拭き取って、
そのウンコ饅頭を
トイレに捨てて恋や。」

「はいっ。」
僕は元気良いお返事とは
裏腹にトボトボと
粒あんを捨てに行った

今、トイレに
ぼろぼろな
お饅頭を流した
人間よもう止せ
こんなことは

しかし良く見ると
なんと一粒だけ
しっかりと黒光りする
ほぼ完全態の豆姫が
奇跡のように
便器にへばり付いていた

僕はたまらず
可愛い子ちゃんを
指先でツマミあげ
くちづけした

「おばあさま、おっさんがトイレで
おまんじゅうを食べているよ。」

気が付くと長男が
こっそりと僕の様子を
伺っていた

そうだったのか息子よ
全てを仕組んだのか?
お前こそが
スパイだったのか

不甲斐無いこの俺に
愛想をつかして
この家から追い出す気なのだな

「お前なんか、消えてなくなれ!」
息子の吐き捨てるような
声に追い討ちをかけるように
お義母さまの足音が
廊下に響き渡っていた

その時の
僕にはそれが
熱帯の太陽に
焼かれながら
人食い人種が
狂おしく
打ち鳴らす
ドラムのリズムに
聞こえていた

文学極道

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