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作品 - 20120502_580_6071p

  • [優]  水葬 - 水野 温  (2012-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


水葬

  水野 温




水葬という
ことばの碧さにしずむ街があるのならば 
その街のはずれにはいつも、だれからもみすてられた植物園がある

(みあげれば
そこには)
まとまりのない沈黙が
みずをせきたてるようにあおさをふかめ
こわれかけた噴水のまえにたたずむ盲目の少年のうえにひろがっている

みすてられたもののあえぎは
きこえない

あざとい夢のなかで奔流する風は
ゆりもどされて
そこにある。
せきする鳥の落下はぬれてゆくからすべてもまたぬれおちてしまうのだと
あらゆる葉脈にかきうつしても、やはりすべてはだれの記憶からも
はがれてゆくので
こんなにもあおざめているのだろうか、
みえない瞳でみつめられるものを
あやうい方位にはぶいて 
少年は石化するまでいつまでもたたずむことしかできない

窒息におきかえて
あざわらう雲の追悼はしろい
(とりかえしのつかない)みずへの追訴のように、子どもたちの歓声が
錯覚されて
みみをゆびでとざしてもせきとめられずに
こわれてゆくことば、
あるいは
葉音
(がある)

モノトーンのくるしみをみどりにおりかさねてふるえる」
円錐形の風のように
きっとなにかがそこなわれてしまっている
噴水台のテラコッタにからまる蔦はきっと空にもからまりながらすべては
石化してしまうのだろうかとあなたにきく

(その問いに
こたえるべき声もまた盲目)
植物園にかすかに反響するものはだれの声でもない

文学極道

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