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作品 - 20120328_452_5973p

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みずのこまかな粉粒が・・・

  水野 温


みずのこまかな粉粒がじかんとなり
まいおちることが綺羅によってもてあまされている


だれもいないばしょをつくることが
あのコンビナートのひろがる工場地帯のしずまりかえった午後につながってゆくんだねって とうめいな粉塵をもてあましたあしたをてのひらのなかでくみたてていたら ガラスの鳥がとんでゆくまばゆさが壊れかけたアパートの埃だらけのちいさな窓のむこうに、飴色に夭折されたつらさをともなってながれるのがみえている ここにはどんな近似値も意味をなしていないので いなくなってゆくひとのコトダマだけがいみをつくっているんだ
みずを空に書きかえてゆくことがコトダマにつながっているんだ なだれてゆく綺羅のなかで雲がじかんにきずつけられていって なにもかもがわすれられてゆくのだとしてもそれはそれでゆるされているのかもしれなくて ガラスの鳥のこわれた骨の破片が韜晦をとかしてみずぬるむアジュールブルーにぬれつづけてゆく


みずのこまかな粉粒がじかんとなり
まいおちることが綺羅によってもてあまされている


どうなんだろう、コンビナートから
おりてくる金属質のなまぬるさが陽のあかるみのなかでこまかくちりつづけながら工場地帯をつつみこんでいって ここにすべての欠損のいみがあるとおしえてくれるのだけど だれもいない何万日もの日々がうすくうすく空のうえにひろがっていくので かぎりなくとおざかるものの名まえさえもわからなくなってしまう ガラスの鳥の夢みるばしょにつながっているかもしれない(困惑のかたちをしたうすい陽がながれる)アパートのちいさな窓をすかしてみると うそをささやくアジュールブルーのなかで ふわふわとうかぶしろい小船がはるか高みの溶鉱炉に座礁してつらそうなしぶきをあげているのは 今日という日のための記念碑かもしれなくて とうめいな気流がみずのいろをじかんのうちがわにおりこんでいた


みずのこまかな粉粒がじかんとなり
まいおちることが綺羅によってもてあまされている


「無人の工場地帯のまんなかにある、いまはなにもおかれていないためにがらんとしずまりかえりひろがっている資材置き場のまんなかのほこりっぽい地面のうえに、午後の陽ざしのながい帯域につつみこまれるようにして少女がぽつんとひとりでたたずんでいる写真が、解体をまつばかりの古いアパートの壁に貼られていたのを思い出していた」



みずのこまかな粉粒がじかんとなり
あなたをつつみこんでいるのをうそのように感じていて とおくにみえるコンビナートに蒼空とともに舞いおりてゆくのもなにかのあざむきのように濡れているのは「彼方」ということばへの遺跡なんだよと、すぎさってゆくものへは飛沫させてみる (そこからはじまることがすべてだと)写されたあなたの写真をしまいわすれて飛ぶガラスの鳥の夢をみるためにアパートの窓をあけはなせば ふわふわとうかぶしろい小船がはるか高みの溶鉱炉に座礁するしぶきが夢をいつまでも濡らしつづけていった

文学極道

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