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作品 - 20120204_260_5854p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


物の弾み

  便所虫

ほんの少し小器用にはなっても、思い出を数える仕草がいまだ、手指を折り畳む赤ん坊みたいだ。
窓ガラスに映るオヤジと目が合うたび、あたふたしている。カタタタ、
しなやかな舌で何百の恋をさえずり、歳月を軽やかに渡りゆくアラサーとかカッコいいんだっけ。
借りてきた眼鏡を外しては、まだ無邪気に可愛く笑えるだろうかなんて水割りをたまらずロックに変更し、
若さを呼び起こしている相変わらずの日々だったが
とりあえず、パンツの中に押し込めた三十年掛かりの計画がすべてであったのは事実だし、
こねくり回した果ての黒ずんだジョークが、こんな粘土遊びが人生であっても
どのみちお前は飽き足らないのだろうから。今夜はひとまず飲んで忘れるとしよう。カタタ、タン。

「元気な男の子よ」

肉体の維持に努めるため今日も元気に、終始据わった目で夢とか愛とか破壊しながら稼働中。
ほどほどのプログラムを選出し、君が満足するような点数を弾き続ける俺だよ。
受信フォルダをこまめに分ける恒例行事まで、すっかり板についたもんで
明日も『ファッション』の少女が、「愛してる」と小便をひっかけながら言うので、また笑顔で仕分けさ。
ヒラヒラさせた手首の包帯までファッションだって、別にアリなんじゃないの。
弾みで死んでも、それはそれ。すき間に噛ます段ボールが落っこちたぐらいの影響だが
とにかくお前は、代えのストッパーを用意してから死んでくれ。
そんでまた劇的に作用しないための魔法とかこねるのさ。
水割りをお湯割りにしても、解き明かせることなどありはしないのに。誰に、今。タン。タン。

「動いたわ」

時々、俺の手のひらの皺には垢がぎっしりと詰まっていて
君はそれを俺が誤って食べないよう、俺の指を一本ずつ開いていく。
垢がパラパラと払い落とされたあとの手のひらの臭いといったら、
それはもう頭に響く甘さで、飲み干されないグラスのすっかりぬるくなった水割りそっくりに重い。

誰がドアを蹴破って来ようと、屋根がまるごと吹っ飛ぼうと
いまさら何に大騒ぎすることがあるっての。データが無事ならよしとして
お前はただ、パスワードを変更して眠ればいい。
君の膨らんだ腹をさすり布団にもぐり込むと、押し入れの奥で風の音がする。ウィーン。
くぐもった意思のような耳鳴りは、少し酔っているせいだ。天井のシミがズレたのは家が傾いたせいだが
信じる手のひらの粘土臭さにだけは、やっぱり慣れない。


ボコッ

文学極道

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