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作品 - 20111126_977_5723p

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フロムS・トゥS

  浪玲遥明

アスファルトで固められた道路を歩いていました。ところどころ罅割れた隙間から洩れる月明かりが、足元を照らしてくれる夜。星空には引力があるので、屋外を歩いていると時々、宙に浮きそうで怖かった。流線形のメロディが映る水たまりで、アメンボがすやすや眠っていました。

立ち止まって目を閉じては、瞼の裏に明日の太陽を探すのですが、何度試しても見つかりません。ただ、画用紙の中で風が吹き、少年が広い草原の中でカマキリと一緒にバッタを探しているだけなのです。太陽が無くても、空は青かった。

それでも歩き続けると、道路の傍らに生えている見たこともない樹の枝から、葉っぱが一枚ペロリと剥がれて、ひらひら舞い落ちながらだんだん赤くなっていくんですね、地面を見るとその樹の周りだけ真っ赤に染まっていました。

(それにしても、星空を見上げる人は星や月に何を期待しているのでしょうか。この間、通りすがりに獅子座をハサミで切ってみると、ライオンと鯨が生まれて、鯨が星屑をすべて飲み込んでしまったので、私の夜空は空っぽです。ようやく星空の引力を心配せずに安心して夜の街を歩くことができそうで、ほっとしています。)

封筒には、草原で吹いていた風と、ライオンの鳴き声、流線形のメロディ、それからアスファルトの隙間から洩れていた月明かりを一緒に入れておきました。今思えばきっと、あの赤に染まりながら舞い落ちた木の葉が明日の太陽だったのですが、掴み損ねた今となってはもうどうしようもありません。しかし、僕はまだ生きています。あなたを愛しています。どうか、忘れないでください。

(そうそう、水たまりは実は海でした。)

文学極道

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