わァじゃわめぐ、じゃわァじゃわァするじゃ、
なァ、がァどごさいだっきゃ、どごさ、
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ざらついてたから、月面に触れるみたいな胸の空砲とか、とてつもない熱風に遠ざけられてく無数の、
名前も知らない、小さく小さくひび割れてくときのからだのさざめき、
いずれ遠くの後ろの方から近づいてくる擦音も、街頭に引き延ばされた髪の歳月に寄り添いながら、耳元でふるえる装飾具を連れ、鳴らして、
手をひいて歩く、地面が目を覚まして急に起き上がる、朝でもないのに、ひんやりとうなじの辺りを、ゆっくり逆撫でていく、動物の感触に、尖った嗅覚が、脳髄を通り抜け、べろりとはみ出した舌先から、熱のかたまり、
月、
月面から、光に濡れる、浮遊する瞳たち、いくつもの、地上で姿勢を低くするものたちが、瞬間、いっせいに襲来する、草藪に千の虫が湧き、いっせいに北上する、走る足の親指から破裂、破裂の、掻き乱れ隆起する皺が、祖母のからだを北上していく、
点々とした染みが、地平線上を、一群の象の群れになり、幾度も踏み潰された記憶の皮膚から、大きな大きな耳を揺らして、長い鼻から、水浴びでもするように、水しぶきが舞い上がる、いくつもに飛び散って、たとえ砂のようになっても、もう誰ひとり消えてなくなるな
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わたし帰る場所がない。帰る場所がないのに、帰りたい場所があるから、あるような気がするから、お母さんにごめんなさいと言わなくちゃ。言わなくちゃって口ごもって、地球が無数に太陽を身ごもって、朝、目玉焼きを、冷蔵庫に並べられたパックの中から、卵と卵を、エプロンしながら、おはよう、おはよう、おはよう、
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ガードレールを越え聳えかかるような山林のなかを一時間ほど走ると、その家はある。くねくねとした道沿いにぽつ、ぽつと、民家が点在し。方々に生い茂る手つかずの草むらに隠れ、ひっそりと渓流が。川のわきには、風呂敷ほどの田畑が様々に広がり。いい時分には、その中にぽつんと、青いつなぎを着た人が見える。おーい。色褪せてくたびれた帽子の。こんな山地じゃ誰がほんとうに生きてるか死んでるかなんてわからない。ガラス越しに見えるあのフィギュアみたいな人も、見えない汗をからだに浮かべてる。生きていれば、何だって、同じように。
ハンドルを切って角を曲がり、ドアを開いて車から降りる。玄関を開け、色褪せたつなぎが壁に静かに垂れ下がっている。ここには涙がいくつあっても足らない。
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選出作品
作品 - 20111123_892_5716p
- [佳] 田へ - WHM (2011-11)
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田へ
WHM