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作品 - 20110831_238_5494p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


蜂塚さん

  case

蜂塚さん




添乗員は無駄に喝采して 本朝に埋ずまる蜂に似ている
このバスの乗客は あたしだけだったはずなのに
すべての補助席に空白が充填されていて 息苦しい とても

あたしが飲む
酔い止めの薬は添乗員のお姉さんが運転手さんから預かったものとのこと
「蜂塚さんっていうのよ」
耳たぶの黒子を避けるようにピアスをしている
目の下の隈が濃いお姉さんのハンドクラップ

パチ  パチ  パチ

  パチ  パチ  パチ

    パチ  パチ  パチ

蜂塚さんは一言も喋らずアクセルを踏み込み
あたしは 胸のスカーフをそっと緩めて
ぼんやりした風景の残像一つ一つに
黒子を添乗させていくお姉さんに似た脚の長い蜂を パチンと


**


高校生のころ
休みの日、視聴覚室の前にある広い
廊下で 
あたしたちはお互いの耳たぶにピアッサを噛ませた

髪の毛の絡んだお互いの耳たぶを
ピアッサは噛み砕き
いつしか視聴覚室の扉が開いても聞こえてくる音はなくなっていた
だけどあたしの耳たぶを針が貫通することもなく
運動部はいつも走ってばかり
あたしはずっと膿んでいた



大学生のころ
旅先の宿、脱いだ靴のなかで
あたしは刺された
人差し指の爪の生え際から産卵管の抜けない蜂が脚をばたつかせている
あたしは刺されたままにしておけなかった

されば脚を掴み地面に叩きつけるも
あたしのことを見向きもせず
蜂は白樺を抱く山の稜線に沿って
飛んでいった
あたしはたちまち赤黒くなった脚先を見つめながら
充電の切れかけたケータイを開いた
そしてアドレス帳の「わ行」に
メールを一斉送信した
しかしMAILER DAEMONさんからしか返事が来なくて
そのうちディスプレイの明かりが消える



本朝に埋ずまる蜂に似た社会人になったころ
あたしは無口な運転手の運転するバスの添乗員だったり
そのバスのなかで運転されたりしていた
すべての補助席を倒して
誰もいないバスのなか 押し倒される
蜂塚さんに脚を舐められながら
なぜかあたしはセーラー服を着ていて
皺にならないように畳まれた二人の制服を見ている
誰かが添乗員の服装で 手を叩いていた
耳たぶの黒子みたいなかさぶたを甘噛みしつつ
蜂塚さんは突き入れてくる



すると

激しく前後に揺さぶられ

ぼんやりした風景の揺さぶりが

これまであたしに刺さってきた何もかもを

世界に向かって逆流する陽光みたいな蜂にしてしまうと同時に

パチン

文学極道

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