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作品 - 20110808_548_5431p

  • [優]  糞迷宮 - 大ちゃん  (2011-08)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


糞迷宮

  大ちゃん

激しい雨が降っていた
土曜の昼下がり
娘を塾に送る車中
便意をもよおした

「お父さんお前の塾のトイレ、借りてもいいかな。」

「絶対ダメ。却下。キモイ。」

年のせいなのか
若き日の男色行為のせいか
僕のバタフライバルブは
待ったなし
したくなったら
すぐ緩む構造だった

塾に着くと娘は
すばやく降り
「ウザイ、行け。」って
力任せにドアを閉めた

仕方なく家路についたが
すでに限界が来ていた
意識が遠のいて行く
なぜこんな目に遭うのか

猛烈な雨の中
苦し紛れに
アクセルを踏んだ

出る 出る 出る 出る 出る

もやの中に
白い建物が見えた
引きずられるように
その駐車場へと入って行き
来客用スペースに止まった

シートから立てなかった
完全な金縛り状態だ

その時
お尻に風を感じた
僕の下水管から吹く
生温かい滅びの風

初弾は蛇の頭ぐらい
ニュルッと飛び出してきた
蓋が取れた感じ
この時
少し圧力が
下がった気がした

動ける
よし
ここで止めてみせる
いや止めるんだ
トイレを借りて
そこでするんだ
僕は腰を浮かせた

ああダメだ
止まらない
バタフライバルブは
酸欠のイソギンチャクみたいに
大きな口を開けて
ベロンベロンにめくれあがった

次から次へ
いやらしい音を立てて
汚臭のする半固形物が
パンツの中に溜まっていく
同時に僕の尊厳が
崩れていくのだ

ほとんど出し切ったところで
降りしきる雨の中
外に出た
いきなりずぶ濡れになり
さざんかの垣根に飛び込んだ
少し泣いた

すると非常ドアの影から
一人の老婆が
おいでおいでと
手招きをしている

垂れ下がった
ジーンズを揺らしながら
彼女について行った

部屋に招かれると
僕はトイレを借り
後始末を始めた
幸いにもパンツの
タイトな形状と
ヒートテック素材のおかげで
外には漏れていなかったが
ジーンズのその部分には
汚いシミが広がっていた

パンツを脱ぎ
裏返して
汚物を便器に捨てていると
パシーンと
ケツを引っぱたかれた

「よしお、このウンコたれが。」

老婆だった
顔に僕の糞の
跳ね返りが付いていた

「こっちに来い。」

彼女は僕を風呂に連れて行った

「つらかったやろ。悲しかったやろ。」

柿渋石鹸で隅から隅まで
念入りに綺麗にしてくれた
排水溝に昨日食べた
ニンジンのカス混じりの
便が溶けては消えて行った

老婆はパンツも
洗ってくれて
おまけにジーンズのシミも
全力でふき取ってくれた

「よしお、次はいつ来るんや。」

「おかあさん、またすぐ来るよ。」

僕は泣きながら答えた

手渡された
大人用のオムツを
キュッとはいて
その白い建物を後にすると
何食わぬ顔で
塾に娘を迎えに行った

僕は、よしおじゃないけどね


後日お礼に行ってみると
そこは介護付きマンションだった
管理人に適当な理由を言い
例の部屋に案内してもらうと

「ここはもう半年、誰もいないよ。」
との事

鍵を開けてもらい
中に入ると
がらんとして何もなかった

ただ
トイレにはかすかに
僕独特の油っぽいウンコの
匂いが漂っていたし

お風呂の排水溝には
ニンジンのカスと
磨り減った柿渋石鹸が
ピッタリ
へばりついていたんだ

文学極道

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