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作品 - 20110624_049_5301p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


デフォルマシオン

  葛西佑也

きみたちは死んだ、
これがぼくの最後のことばだとしらなかったから
ちいさいころに公園で転んで、血を流した
あの赤と同じような日差しがカーテンの隙間からぼくにさし
水分を奪っていく、干からびたのは言動だけではなく
単純にこのおからだのうるおいでもあったのだろう

面白いことも言えないし
きみたちをよろこばせることもできないから
ぼくはもう口を開くことをやめて
目を動かそうと思うんだ
兼愛の精神でもってね
祖母の遺影の前には
常に新しい花が供えてあって
それの御蔭で父さんの背中は風化しない
砂場で作った楼閣のようなものは
いじめっ子によって崩れさる
響くのはたてものの崩壊音ではなくて
あの憎たらしいガキ大将が発する
謎の効果音だけだった
空にしたはずのペットボトルの中には
わずかな水気が残っており
光が乱反射する
それは万華鏡だと言ったら大げさだろうが
今のぼくにとっては十分にうつくしいものだと言えるはずだ
暗闇の中で無数の虫のようにうごめいて
あちこちかきむしっていたあの日に比べたら
ぼくときみたちはなんて幸せなんだろう
その証拠に最後のことばなんてものを送ろうと言うんだから

一緒に墓参りへ行こう
別に論語に毒されたってわけじゃないけれど
御先祖様を大切にしてみようって思ったんだ
いつかの思い出で咲き乱れていたあのまぶしいお花畑は
きっと墓場の隣の空き地で
ぼくが恋をする相手はそこの住職さんかもしれない
あるいは住職さんがぼくを弄るのかもしれないし
そのどちらでもよいのだけれども
きっとおばあちゃんは泣くだろうし
おかあさんは絶望するに違いないんだ
でも、きみたちはしあわせだろう
ぼくが詩をやめたなら

夏場にもこもこのセーターをきて
それがいくら鮮やかな七色だって
きっと清少納言にすさまじきものだって一蹴されるに決まってるんだ
お前がいくらおしゃれだと思っていても
それは、バケツの中で泳いでいたあのおたまじゃくしくらいに
哀れなんだ
そう、近所の女の子が
無数のおたまじゃくしを取ってきて
バケツの中に放り込み
真夏のくそ暑い日に家の外に放置して
挙句の果てにボール遊びをしていたら
バケツをひっくり返した
すべてが干からびて
どうなったのかわからないけれども
ぼくの膝からは甘酸っぱい血が流れてた

どうして甘酸っぱいってわかるのか?
それはあの子が舐めて教えてくれたんだ
ぼくたちはいつも放課後にお互いの味を確かめ合った
すくなくとも、当時おもいつく身体のあらゆる味を確かめ合った
そうしてぼくたちはちゃんと味のある人間なんだね
そうだよ、味の無い人間なんて最悪なんだと
笑いながら話していたんだ

そうだ、大橋君の話をしよう
ぼくと大橋君はいつも返り道に神様ごっこをした
お互いにいろいろな神様を作りだし
戦い合うんだった
ぼくは君の作りだす独創的な神々に恋をした
そして嫉妬した
とにかく君を辱めてやりたいそう思っていたのかもしれないし
あるいはなんらかの恋愛感情だったのかもしれない
結局、ある日大橋君が立ちションをして
ぼくは夢の中で溺死してしまったのだった
神様はたすけてくれはしないし
ノアの方舟なんてそのときはしらなかったんだから

ああ、やになってしまうな
どうしてこうも書くことがないんだろうな
叫びたいこともないんだろうな
まともに生きさせてくれよ、なあ、きみたち
宇宙ってひろいんだろう?
って、よくわかってないくせに頷いてるのはよくないぞ

つれづれならぬままに、
ひぐらしPCに向かひてこころに移りゆくよしなしごとを、
そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそものぐるほしけれ。

闇夜に光る無気味な画面
健全なものが映し出され
それはあらゆるリアルを流し去る
夢ならば覚めないでほしい
けれども、
夢にも現にも君には逢えないし
ぼくのとある部分できみに触れたところで
なにも応えてはくれないんだもの

部屋の観葉植物が枯れている
右も左もわからなくなった
この狭く住み慣れた空間で
ぼくは迷子になってしまった
少なくとも傷口を舐め合うことはできなくなったし
裸体を傷つけることもできなくなった
干からびて死ぬこともないけれど、
あのときのような潤いもないだろう
そして絶望を重ねたくないから
あらゆるものを遮断したくなった
というふりをする
そうして期待通りの出会いをしていく
いつになったら最後のことばを吐けるのか
ぼくたちときみたちはおそらく幸せだ
だってこれがぼくの最後のことばだ

とりあえず、もう書くことはやめにしないか
そうしないか

文学極道

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