どこかの寺の鐘が鳴り
ビルの屋上に現れた野良犬の
遠吠えは細くかすれていた
その寂しい咆哮は喧噪を吸い取り
すべての色を拭い去った
深まる影に表情は隠れ
存在の輪郭だけが際立っていった
水道橋の中途には丸帽子の男がひとり
何をするでもなく立ち続け
反対側の欄干を
女の子が綱渡りのように両手を広げて
歩きはじめた
彼らの足下の川には
数日前に誰かが取り損ねたボールが
河口に向かって流れていた
そして
今日も使われずに無駄になった切符が
手の中で少し大きくなった
野良犬の姿はもうなく
風にとばされ舞い上がる菓子パンの袋に
微かな夢を忍び込ませた
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選出作品
作品 - 20110607_628_5281p
- [佳] 水道橋 - ロボット (2011-06)
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水道橋
ロボット