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作品 - 20110607_602_5276p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


怪人ジャガイモ男、正午の血闘(Mr.チャボ、少年よ大志を抱け)

  角田寿星


かりんとう一袋を手土産に
Mr.チャボ宅に駆けつけた時には
怪人ジャガイモ男 愛称ジャガヲくんは
すでに卓袱台をはさんでチャボさんと差し向かいで
「こんな世の中 守る価値あるんですか」
まっすぐな瞳で問い詰めていた

台所ではことこと
カレーのいいにおいがしている

チャボさんは無言のまま
ジャガヲくんの真意が図りかねるふうで
腕組みしてジャガヲくんの瞳を覗き込んでた
「やあ 戦闘員A氏」
チャボさんが瞳をそのまま移してぼくを見つめる

ぼくは座りチャボさんはお茶を入れぼくはかりんとうの袋を開けふたり同時にかりんとうをつまみぽりぽりと食べはじめる ぽりぽりぽりぽり ぽりぽり

ジャガヲくん 正直に話してくれ
君 まだ中学生だったんだろ
「ちゅうが…えっ?」チャボさんが眼をまるくする
ジャガヲくんは年齢を偽って就いた駐車場のバイト先で怪人に遭遇し
みずから改造手術を希望した
そう フラワー団は中学生を改造しちゃったんだ

ぼくは報告書を読み上げる
汚職事件のキーマンだった父親は出張先のホテルで「自殺」
真相を調べていた母親ははるか北方の岬で謎の「事故死」
逃げるように母親の実家で
半分ボケのきた祖母とまだ幼いおとうといもうと
息をひそめて暮らしている
年金は祖母の病院通いでほとんど消えてしまい
学校に行くふりをして年齢詐称して実入りのいいバイトを探していた

これで 間違いないね?
ジャガヲくんは俯いて両膝をぐっと握りしめる

困るんだよなあ 悪の組織といえども
労働基準法に違反して監査に目を付けられると
今後の悪行に支障を来たすおそれがあるので

腕組みをして
天井の木目を眼で追ってたチャボさんが
「めしにしようよ」と
カレーのにおいのする台所へ立っていった

三人分のカレーを抱えてチャボさん
「さあ勝負だよ 先に食べ終わった人が勝ち
 ね」
と ジャガヲくんの分はチョモランマのような大盛りだ
チャボさん
このヒーローにあるまじき卑怯なハンデは

もぐもぐもぐ チャボさん 魚の骨が入ってますが
「ああこれ サバ 煮崩れしちゃった
 煮込んでるから骨も食べられるよ ばりばりばり」
食べられんのチャボさんだけですよ…
うわっ 肉かと思ったら何ですかこのねちょっとした食感は
「すいとんだよ カレー粉も小麦粉つかうからねえ」
ご飯とすいとん一緒に食べる日が来るとはなあ
ええとあまり訊きたくないんですが
しなっとした緑色のこの物体は
「よもぎとすかんぽ 裏に生えてた」
チャボさん これはいったい
何の罰ゲームですか

「ジャガヲくん
 腹いっぱい食べようね
 とにかく腹いっぱいに」

ジャガヲくんはもくもくと食べながら
しきりに涙を拭う仕草をする
原因が
カレーの量のせいなのか
カレーの具のせいなのか
それとも別の理由なのか
定かでないが

「おかわり
 ありますか」
チョモランマカレーをすっかり平らげたジャガヲくんの
食欲と言葉にぼくは驚愕する
かくてジャガヲくんは
にっくきMr.チャボとのカレー対決に勝利を収めた
チャボさんはど真ん中にカレーの大鍋を置き
ビニール袋に入ったパンの耳の束を
どさっと卓袱台にひろげる
汗だくになりながら
三人で前かがみになって
カレーをかき込みつづける
近くで学校のチャイムが
キンコーンと鳴って
今や互いを見やりもせず
世の中のことを
一瞬だけ忘れて

文学極道

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