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角田寿星

選出作品 (投稿日時順 / 全5作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


内陸へ(マリーノ超特急)

  角田寿星


「母さん
 ふたりともどこ行っちゃったのさ?
 いっしょに河のゴミ漁りするって約束してたのに
「そういや俺たち
 ハクに何も言わなかったな あんちゃん
「言えねえよ 冗談じゃねえ
 連れてけなんてごねられたらあの人が哀しむだろうし
 そもそもこのアクアバイクじゃあ
 三人も乗ると沈んじまうよ
「夜明け前に出ていったわ
 すぐ戻るって言ってたけど
 あれは嘘ね
 ふたりとも義肢を置いていったもの
「俺たちふたりで三本腕三本脚だな
 不便でしようがねえ
「まあ仕方ねえ
 あれがあると俺たちの位置が筒抜けだからな
「え?多分?
「そう多分 河の上流よ 人喰い森のむこう
 あの消えない光の柱 あそこに
 『内陸の宝石』という名前の都市があったの」

「あんちゃん 若くてきれいだったな あの人
 ハクみたいな息子がいるとは信じらんなかった
「んー あー 冗談じゃねえよ
「耳まで真っ赤になんなくても さ
「母さん あんちゃん さ ゴミ漁りの合間に
 『こうして腰を落ちつけるのも悪かねえな』
 とか よく言ってたのになあ
「ほんと 嘘つきね
 これをあんたの脚にしてくれ だって
 あんちゃんの義足はあたしに合わないし
 片方しかないのに」

「ハク 河の上流ははじめてか?
 しっかりつかまってろよ
「母さんごめん ぼくどうしても行きたいんだ
 あのふたりの手と脚になってあげたいんだよ
「ああそうとも
 俺がハクのあんちゃんになってやろう
「そしたら俺は にあんちゃんだな
「こっから先は隠れ里の世界さ
 河沿いに仮宿がぽつぽつあるが
 集落までの道は地元の奴しか知らねえ
 もっとも森に喰われてなきゃの話だが」

「ありゃ事故…だったのかねえ…
 管理局の干渉 って噂は?
「ぼくが生まれる前から
 消えない光の柱はあるの?
「15年前のことらしい まあ…事故だろうな
 都市ひとつぶっ飛んじまったんだ
 『人道的な』ヤツらのやり口じゃないだろ
「そして管理局の手をはなれた
「そう今や さぞ人間的な生活をしてんだろ
 俺たちが昔やらされた
 『鼠捕り』とか『兎狩り』とか
「あたし…あそこにいたの…
 ううん ずっとこの村にいたの…
 気づいた時には両脚がなかった
 あの人が来て ハクあなたが生まれて
 そしてあの人は出ていったわ
 ちょうど今のふたりみたいに
「鼠捕り
「食糧倉庫に忍び込む奴をミンチに
「兎狩り
「目ぼしい集落を襲って根こそぎ…
 なあ 冗談じゃねえよ
 俺たち あれをやるか飼い慣らされるか
 どっちかしか ねえのかな
「あの人って 父さんのこと?
 父さん どこにいるか知ってるの?」

「俺たちは河を遡る
「河を遡る
「俺たちは地下道跡をつたう
「地下道跡をつたう
「俺たちは河上鉄道に乗る
「まだ通じてるといいけどな
「そして『内陸の宝石』へ
「宝石なんて喰わせもんだよ」

「母さん
 あのふたり さ
 父さんを捜しに行ったのかな
「ハクの親父がいるって保証は?
「ああ 生きてんだか死んでんだか
 ずっと音沙汰なし だとさ
「だとしたら
 どうしてぼくを置いて行ったんだ?
 いっしょにいようね って約束したじゃないか
「父さん ね
 消えない光の柱をずっと気にしていた
 留守にした自分の責任だ って悔んでた…
 あたしと小さなあなたを抱きしめて
 必ず戻ってくるから って…
「惚れた女のためかい?
 まったく馬鹿なことやってるよな
「あんちゃんの馬鹿!ふたりのバカヤロー!
「俺たちの馬鹿は
 生まれた時っからだろ」

「なあ ハク
 おっかさんひとりで大丈夫か?
「ハク あなたはあなたの人生を生きなさい
 あたしを気にする必要はないわ
「ひとりじゃないよ 村の人たちがいるさ
「壜のなかの手紙
「うん 河のゴミ漁りでみつけた
「日付は?
「一週間前」


「もう村は見えねえな
「ああ もう見えねえ
「まあ
 行けるとこまで行こうじゃないか」


遡行(マリーノ超特急)

  角田寿星

男は消えない光の柱を背に両腕を水平にひろげた。十字架のシルエットがまぶしく
俺たちは男を凝視できない。そのままゆっくりと倒れるように光の柱を堕ちていく
男。父さん!俺たちは駆け寄ろうとするがたちまち武装した住民たちに取り押さえ
られる。
父さん!父さん!

河の水面にまっすぐなレールが浮かんでいる。河を行き来する鉄道の軌道だ。
そこには小振りながら本格的な機関車が停車してあり手動のトロッコを覚悟してた
俺たちは思わず安堵の吐息を漏らす。こいつのエンジンはまさか…そのまさかさ
ね。ユニゾンドライブだよ。小型だが海洋特急と同じ仕様さ。いい技師が来てくれ
たんでね。

俺たちは森に生かしてもらってるような気がするんだ。男は云った。こんな防護マ
スクひとつで人喰いの真菌を防げるはずはないんだ。おかしいと思うだろ?

ぽんこつ同然のアクアバイクを引き取ってもらう。三人も乗せてよくまあこの距離
を稼げたもんだ。メンテナンスに骨が折れるな。宿番がバイクを裏に繋ぎながらひ
っそり毒づいた。これからはボートと鉄道と…歩きだ。まあ気にすんな。もとっか
らあのバイクは誰のものでもありゃしないんだ。ちょうどこの星みたいにさ。

「なあ あんちゃん俺さ
 時々ここが痛むんだよ 声がするんだ
 そうしてまでお前は生きていたいのか って
「で? お前の答えは
「イエスだよ もちろん」

客車代わりの屋根なし貨車にふたり脚を投げ出す。河幅の分だけ森が切れて青い空
がみえる。豆と小麦の袋を担いだ行商人に下流の村からやって来た男がいたか訊ね
るがそんな男は知らないと云う。
下流に村?そんなのあるもんか。男は吐き捨てる。管理局が残らず消しちまっただ
ろ。あれみたいによ。そう云うと男は上流にそびえる消えない光の柱を指差した。
空に溶けそうなくらいに消えない光の柱。

俺たちは河を遡る。ハクは親父さんの顔を知らないんだよな?うん。やれやれどう
すんだよあんちゃん冗談じゃねえぞ。まあ…河づたいの仮宿をしらみ潰しにあたっ
てみるさ。

「ちょっと待てよ俺たちはただ
 この子の親父を連れ戻しに来ただけで…
「あんちゃん駄目だ こいつら聞く耳持っちゃいねえ
「ピンチだな
「ああ 片腕片脚のハンパ野郎ふたり
「ぼくもいるよ
「それと棒っくいが二本
「ぼくもいるってば
「さあどうするよ キャプテン・エック
「なに いつもどおりだろ
 無駄な抵抗ってやつをしよう」

「俺はただ事故の真相を知りたかっただけだ…あいつ…あの娘は昔俺の妻だった…
 年格好がどんなに変わったって俺にはわかる…俺のユニゾンドライブがあいつの
 両脚も記憶も何もかも奪っちまった…俺たちの記憶の欠片をみつけるんだ…レジ
 スタンスなんて正直どうでもいいさ…息子?何のことだ。ハクは俺の名前だ。
 ぼくがハクなんだよあんちゃん」

仮宿番の案内で地下道跡をふかく潜る。ひび割れたコンクリートから少しづつ水が
漏れて俺たちは歩きながら団子状のパテを次々に埋め込んで補修していく。あんち
ゃんその…もしハクの親父が見つかんなかったら…どうすんだい…あの人のこと?
あんちゃんの杖の音が高くひびく。

ユニゾンドライブは兵器でもあった。違うか?
機器が散乱する小屋に技師はひとり腰かける。…帰って来たらこの有様だ。おかし
いことにどこのデータベースにも事故の記載がない。それどころか『内陸の宝石』
さえ存在しなかったことになっている…どうして俺だけ生き残っちまったのか…生
かしてもらってるんだよきっと。あんたも俺たちもおんなじさ。

冗談じゃねえよ!あんちゃんが珍しく怒気を孕んだ声で怒鳴る。俺たちがお前らの
位置をチクるだと?何のために義肢を置いてここに来たと思ってんだよ。俺たちを
見くびんじゃねえ。

俺とあんちゃんは技師とハクの顔を交互に振り返った。そっくりだろ…そっくりか
い?あいつの方が目つきが悪いだろ…いやいやそっくりだろ。口もとの皺とか…ハ
クも将来こんな顔になっちまうのかなあ…お前らいったいさっきから何なんだ。俺
たちは下流の村から来た。ここにあんたの息子もいる。もういいだろ還ろう。

俺たちは河を遡る。河畔の森が手を伸ばして空を隠そうとしている。あんちゃんが
上流を差して何か叫んでるが防護マスクと風の音で聴き取れない。俺は顎でかるい
合槌をうつ。


怪人ジャガイモ男、正午の血闘(Mr.チャボ、少年よ大志を抱け)

  角田寿星


かりんとう一袋を手土産に
Mr.チャボ宅に駆けつけた時には
怪人ジャガイモ男 愛称ジャガヲくんは
すでに卓袱台をはさんでチャボさんと差し向かいで
「こんな世の中 守る価値あるんですか」
まっすぐな瞳で問い詰めていた

台所ではことこと
カレーのいいにおいがしている

チャボさんは無言のまま
ジャガヲくんの真意が図りかねるふうで
腕組みしてジャガヲくんの瞳を覗き込んでた
「やあ 戦闘員A氏」
チャボさんが瞳をそのまま移してぼくを見つめる

ぼくは座りチャボさんはお茶を入れぼくはかりんとうの袋を開けふたり同時にかりんとうをつまみぽりぽりと食べはじめる ぽりぽりぽりぽり ぽりぽり

ジャガヲくん 正直に話してくれ
君 まだ中学生だったんだろ
「ちゅうが…えっ?」チャボさんが眼をまるくする
ジャガヲくんは年齢を偽って就いた駐車場のバイト先で怪人に遭遇し
みずから改造手術を希望した
そう フラワー団は中学生を改造しちゃったんだ

ぼくは報告書を読み上げる
汚職事件のキーマンだった父親は出張先のホテルで「自殺」
真相を調べていた母親ははるか北方の岬で謎の「事故死」
逃げるように母親の実家で
半分ボケのきた祖母とまだ幼いおとうといもうと
息をひそめて暮らしている
年金は祖母の病院通いでほとんど消えてしまい
学校に行くふりをして年齢詐称して実入りのいいバイトを探していた

これで 間違いないね?
ジャガヲくんは俯いて両膝をぐっと握りしめる

困るんだよなあ 悪の組織といえども
労働基準法に違反して監査に目を付けられると
今後の悪行に支障を来たすおそれがあるので

腕組みをして
天井の木目を眼で追ってたチャボさんが
「めしにしようよ」と
カレーのにおいのする台所へ立っていった

三人分のカレーを抱えてチャボさん
「さあ勝負だよ 先に食べ終わった人が勝ち
 ね」
と ジャガヲくんの分はチョモランマのような大盛りだ
チャボさん
このヒーローにあるまじき卑怯なハンデは

もぐもぐもぐ チャボさん 魚の骨が入ってますが
「ああこれ サバ 煮崩れしちゃった
 煮込んでるから骨も食べられるよ ばりばりばり」
食べられんのチャボさんだけですよ…
うわっ 肉かと思ったら何ですかこのねちょっとした食感は
「すいとんだよ カレー粉も小麦粉つかうからねえ」
ご飯とすいとん一緒に食べる日が来るとはなあ
ええとあまり訊きたくないんですが
しなっとした緑色のこの物体は
「よもぎとすかんぽ 裏に生えてた」
チャボさん これはいったい
何の罰ゲームですか

「ジャガヲくん
 腹いっぱい食べようね
 とにかく腹いっぱいに」

ジャガヲくんはもくもくと食べながら
しきりに涙を拭う仕草をする
原因が
カレーの量のせいなのか
カレーの具のせいなのか
それとも別の理由なのか
定かでないが

「おかわり
 ありますか」
チョモランマカレーをすっかり平らげたジャガヲくんの
食欲と言葉にぼくは驚愕する
かくてジャガヲくんは
にっくきMr.チャボとのカレー対決に勝利を収めた
チャボさんはど真ん中にカレーの大鍋を置き
ビニール袋に入ったパンの耳の束を
どさっと卓袱台にひろげる
汗だくになりながら
三人で前かがみになって
カレーをかき込みつづける
近くで学校のチャイムが
キンコーンと鳴って
今や互いを見やりもせず
世の中のことを
一瞬だけ忘れて


花の名前をおぼえようとする/花の名前をおぼえられない

  角田寿星



マリーゴールドと
マーガレットの区別がつかない
ツバキとツツジを間違えて
笑われてしまう
アヤメとカキツバタにいたっては
はなっから諦観の境地で
でもそれはちょうど
パスカルとサルトルを間違えたり
萩原朔太郎と
高村光太郎の区別がつかないのと一緒で
きっと大したことじゃないんだろう

土曜の朝に
ぼくとたあくんは電車を乗り継いで
手をつないで花の咲く私鉄沿線を歩く
たあくんはことばが遅い無口な幼児で
父親のぼくもきっとことばが遅いんだろう
パンジーやサクラソウがご丁寧にも
名札をぶらさげてつつましく笑っている
閑静な住宅街の空き地は
クマもオオカミも荒らしに来ないからタンポポが伸び放題で
一瞬 菜の花畑かと見間違える

「たあくん たんぽぽ」ぼくが口を開く
「みかん の み」たあくんがこたえる
「みかんじゃねえよ たんぽぽ」
「おしさま」おひさまのことなんだろう
タンポポは当たり前のような何の感慨もないまあるい黄色で
春に暖まってきらきらして少しさびしくなる

時間がまだあるので
近所の公園に寄り道することにする
すべり台とブランコしかないちいさな公園だ
たあくんはひとりで
すべり台とブランコを何回も何回も往復する
両手をひろげ ときおり転びそうになり
たまには実際に転んでみせながら
ぐるぐるぐるぐる ぐるぐる
「バターになるぞう」
「のぞみ つばめ なんかいラピート」
たあくんがバターになった時の対処法だが
実はきちんと考えてあるので心配いらない

目的地は目と鼻の先だけど
朝っぱらから親子して
かるく道に迷って早くも遅刻しかかってる
白い尾の長い小鳥が一羽
茎のまっすぐな濃い緑の下生えをつっと横ぎっていく
ぼくはといえば
ちいさなブランコに窮屈な尻をうずめたままで
ぼくは花の名前をおぼえようとする
ぼくは
鳥の木々の草の名前をおぼえようとする




コスモスがコスモス色に咲いてて
ススキがススキのように揺れてる
土曜の朝
私鉄沿線の住宅地を
ぼくとたあくんは歩く

めずらしく陽が射している
建物の影が舗道をおおって肌寒い
ぼくは細長く伸びるわずかな日向をえらんで歩き
たあくんは
カエデの型をしたカエデの落葉を次々に踏んで
足裏の感触をさくさくと楽しんで歩く

たあくんも もう6歳
三語文までは話せるようになり
自分の意志も少し伝えられるようになった
ひらがなを書けるようになった
「小学校の普通学級は…ちょっと無理ですね」
と つい先日 通告された

名前の知らない木が白い大きな花を咲かせている
名前の知らない鳥がどてっぽーと鳴いてる
ぼくは無言で
たあくんはぼくの知らない歌を小声でうたっている
ページを開きっぱなしの本や
封をきらないまま積み上げてる専門書
のことを思いだす

ぼくはつまりそんなふうにして今まで生きてきた

近所のちいさな公園は愛犬家たちの社交場になってて
ちょっとしたドッグランの景観で
すごく楽しそうだ
ぼくの知らない近所の人たち
どこかの子が怪我でもしたのか
なけなしの遊具がまたひとつ撤去されてる
たあくんは犬がこわくて
公園に入れない
両手で耳をふさいだまま立ちつくしている
ぼくはたあくんの肩に手をやって話しかける

ぼくは知っている
耳をふさぐたあくんのしぐさは
気持ちを落ちつけるサインのひとつで
ぼくはそれだけを知っていて
たあくんの視線はぼくの知らない空間を見つめたまま
固まっている

公園を背にして ふたり
もう慣れてしまった舗道を歩いていく
たあくんが手をつなごうと右手をぼくに差し出す
ぼくはたあくんを見ないまま左手で
たあくんのちいさな手を しっかりと握りしめる
あたたかい ひざしが


テレスドン(『ウルトラマン』より)

  角田寿星


たそがれの空にひときわ明るく
かがやく星を子どもたちは指さして
あれは ウルトラの星
後ろすがたが
まるで祈りを献げるかのよう

ちがうよ。あれは宵の明星。
きみたちのすぐとなりにある惑星だ。

今夜は
しし座流星群
ながれぼしに願いを三度となえると
必ず かなう
教えてくれたのは地上の友だち
テレスドンのシルエットが
満天の星空を覆い尽くす
瑪瑙 サーチライト 月長石

地底湖に
ほそくながい金剛のすじが射して
二分間だけ月が浮かび 消える
ながい間 ぼくの宝物だった

テレスドン
ふとい腕とながいクチバシ
おまけに全身がきれいな土のいろ
いのちを賭けて
おそろしい光の巨人から護ってくれた

「凄いヤツだ…
 ナパーム弾ではビクともしない

銀色の巨人が放った
ベーターカプセルの閃光は
一瞬のうちに地底帝国を壊滅させた
あの 身も心も焼き尽くす凄まじい光
帝国が元戻りになりますように
みんなが還ってくれますように
眩しすぎる夜空が直視できない
三度願いを籠めるあいだに
流星群は消えた

テレスドンは 光の巨人
ウルトラマンに殺されたらしい
あれほど剛健だったテレスドンが
投げ飛ばされて
雄叫びひとつ揚げることなく
しずかに眸を閉じた という
ぼくはテレスドンをさがし続けた
苔 水晶 カンラン石
石筍 鉱山跡 永久凍土

地上の友だちが見つけてくれた
テレスドンは
目も虚ろで クチバシはぼろぼろ
見事な鳶色の肌はすっかり汚されて
「たたかいによわく
 かったことが ない
信じられない解説のおまけ付き
だった
テレスドンは死んだ
テレスドンは死んだんだ
ぼくは
テレスドンを
忘れた
絶対にわす れない
テレ スドンのきお くはぼくの
こころのお くにのこった
たった ひとつ の たから も


(冬の霧吹山は夜になると
 冷気が貼りついて月明かりさえ届かない。
 いちめんの雲母の闇。消え入るように歩く大きな翳は
 大怪獣 デッドンだ。
 赤黒い血がこびりついた ぼろぼろの背中に
 ちいさな地底人の子どもを載せて。
 眠っているのか デッドンの背中に頬を埋め
 微笑んでいる 退化した眼 土色の頬 泪の痕。
 音もなく霧のむこうに去っていった
 という。

文学極道

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