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作品 - 20110525_321_5243p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


円を成す

  破片

丘陵の頂上に建つ家屋が
ぶっ壊れたりしないなら、
星風はその湾曲した屋根群に沿って
今日ものぼっていくんだろう
帰って来なくていい、のぼり続けるんだ
y=xの2乗、
吹き出すくらい単純だろ
屋根のその整った放物線を ずっと奇妙だと思っていた

雲が晴れない 空には蓋がされた
どこで途絶えるかわからないまま
少女は「世界」を口にする、
コントラストの潰れた部屋
雨に晒され続けたサンダル 黄砂を塗した窓ガラス
おきにいりのぬいぐるみ 背を押されて呟いた、世界
風はやんだ

惑星や恒星間の距離を手に取れる
指先で弄んだ宇宙はとても小さい、
入り込む隙間のない風が吹き下りてくる
そんな日はとても晴れていて 流れが出来る
丘の上にたくさん たくさん
空はどんどん乾いていく 人々は濡れていく
星から来る風、
ひとの目に舞い込む埃は
何色なんだろうね

次々と風が追い出されて わたしたちの
頭上に空きができると、風は、
そうやって屋根を伝って上を向くんだ
地上に染みた水分を連れていく
少女は風にあおられる 顔をあげる
涙を流さない ことばを殺されて、
わたしたちは次々にミニチュアの
宇宙を取り上げられながら

帰って来なくていい、
わたしたちの奇妙な放物線に
少女のつぶやいていない世界が
吹き下りてきたなら
ねえ それは星風 ひとりひとりの
間隔を目いっぱい拡げて、
おだやかな色彩の揺りかごにとても、
とてもわらいながら、
少女の長く細い睫毛を
揺らす
放物線を描いた

文学極道

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