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作品 - 20110510_816_5200p

  • [佳]  Y.S.L - 葛西佑也  (2011-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Y.S.L

  葛西佑也

ねぇ、宇宙ってどんなところ?
まあるいの?
ねぇ、宇宙ってどんなところ?
まあるいの?

否。

手におさまってしまうんだよ。
けれども、ものすごく大きくて、
とてもとても手にはおさまらない。
それでも、手におさまってしまうんだよ。

神楽坂で甘味を食べた
あんずあんみつだった
甘味と酸味。
―ねぇ、キスしない?
―それで、そのあとは?
―いいから、ねぇ、ねぇ。

浮き出ている青筋を指でなぞる
小さな山脈の起伏を確認して
あのひとを受け入れる準備を終えた
口の中の渇きが
一瞬で緩和された。
(不釣り合いな宇宙だ!









*ジョン・ガリアーノ(John Galliano)

パリのビッグメゾンのトップデザイナーが
反ユダヤ的発言で警察に連行され
解雇されてしまった
彼を愛してやまない世界中のファンたちが
嘆き悲しみ
世界からまたひとつファンタジーが
奪われてしまったことを
恨んでいるに違いない
むき出しの肉体に花をそえ
ひたすらに賛美する
夢の国からやってきた幾人もの
騎士たちが
たずさえた剣で
観衆を切り刻む
ぼくたちは彼らを美しき海賊と呼ぶことにしよう
そして、
朝にシャワーを浴びて
イニシャルが刻まれた下着を身に付ける
脱衣所にはシダーの香りが充満し
お髭の手入れに余念はない
このファンタジーが
いつまでもさめてくれなければ
さめてくれなければ
誰か骨をひろってやってくれ
お願いですから



*エディ・スリマン(HEDI SLIMANE)

カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)は
彼の作るものを愛してやまず
その愛の証明のために
自らの肉を削った
ぼくたちはエディ、きみに熱狂した
街には枝みたいにほそっこい足して歩く
黒ずくめの若々しい美少年たちが溢れ
彼らは路地裏でキスをしあったのかもしれない
あるいは
お互いに酔い合って人ごみで
溺れて居たのかも知れない
エディ、街はきみのキャンバスだったはずだ
だから写真を撮るのかい?
ちょっとぐらいウェストがきつくたって
我慢できたんだから
帰ってきておくれよ
反骨精神を
美学を与えるだけ与えて
放置だなんて
普通の人がするプレイじゃないよ
恵比寿のバーできみの噂を毎晩のようにした
シャンディガフがおいしかったと思う
それでもぼくは
きみの後継者をきみ以上に
愛しているよ
だから、あるいみ感謝しているんだ
ああ、
たそがれている
知らない海で



*クリス・ヴァン・アッシュ(KRIS VAN ASSCHE)

クラシカルでエレガント
狂おしいほどに美しく、クール
灰色の町から一人おとこが
田舎道を歩いてやって来る
雨は今にも降りそうで決して降ることはなく
そしてぼくとの距離が縮まり
やがて抱擁する
それは日が暮れるまで続き
聞いたこともない異国の言葉を
お互いに耳元でささやき合う
それからお別れの記しに
きみは着ていたフォーマルジャケットを脱いで
ぼくの肩にかけてくれる
背中を押してくれる
もと来た道を引き返す
雨が降り始める、灰色の雨
しかし、世界はこれまでになく明るく
希望に満ちている
ぼくたちはしなやかにしたたかに
生きていける



*ジル・サンダー(JIL SANDER)

女史、あなたが去ってから
ぼくは悲しみ暮れております
女史、あなたがある日本人と握手をかわすと聞き
ぼくは半分嬉しく、半分悲しくなりました
あなたのミニマリズムも受け継いで
ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)は素晴らしい仕事をしておりますが
やはり、あの時代が懐かしい
シャツの光沢は
栄光と謙遜の象徴であり
美しくも永遠に未亡人である
かの有名な美女の
憂鬱と自らに対する自信の表れでしょうか
何の変哲もないスーツには
哲学があり
それを纏うことの重圧に
押しつぶされる人がおりました
魂は解放され自由になるのでしょうか?
自分自身を見てほしいのか
この美しき纏いものをみてほしいのか
すべてを錯覚するほどに
絶対的な美しさの前に
ひたすらため息ばかりついたあの日に
戻れますでしょうか
女史



*イヴ・サン・ローラン(Yves saint Laurent)

ああ、あなたは間違いなくひとつの歴史を作った
あなたの遺伝子を受け継いで
さまざまな小宇宙が作られた
愛するトム・フォード(TOM FORD)のリブゴーシュに
トムフォードのあのイタリアのビッグメゾンも
あなたがいなければお目にかかれなかったでしょう
やはりあなたは紛れなくモードの帝王なのです
ぼくがインターネットで最も夢中になったのが
あなたのパリコレクションであり
ぼくに息吹を吹き込み目を輝かせたのも
あなたのパリコレクションでありました
さびれた町のとある一軒家の一室で
この世を去って行ったものの骨をひろう
人生で最も大切な出会いは、自分自身との出会い。
と語り、
映画になって、人生になっても
あなたは風化することがない
永遠に、狂気の中で一緒に踊ってはくださいませんか
ワイングラスにうっすらと
唇の跡が残り
口の中に広がる酸味は
何かを分解した
気がつけばなみだがほほをつたって
ぼくの顔の細胞らしきものが
破壊された
もういちど生まれたい
裸のままで生まれたい
くるおしい。






ジョンガリアーノ
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エディ・スリマン
http://www.hedislimane.com/

カール・ラガーフェルド
http://www.karllagerfeld.com/

クリス・ヴァン・アッシュ
http://www.krisvanassche.com/

ジル・サンダー
http://www.jilsander.com/

ラフ・シモンズ
http://www.rafsimons.com/

イヴ・サン・ローラン
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トム・フォード
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