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作品 - 20110315_083_5076p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夏の虫(三篇)

  

飴んぼ(アメンボ)
熟れた果実を踏みにじってただれた足を
綺麗に舐めとってくれるペットを探しているの
水溜まりをとっかえひっかえ歩き渡るアメンボは
せっけん水で足をごしごしすると
溺れてしまうって話ですわよ
ねぇ試してみましょうよあの水溜まりの上なら
電灯もうるさい虫の声も私たちには届かないわ
アメンボのお嬢様がお御脚舐めさせたげる
アメンボのお嬢様が生き甲斐与えてあげる
どう私のつま先つめたいでしょう
ちょっとした荒波を乗り越えてきたところですのよ
別にあなたの為ではありませんけど感謝ぐらいしなさいよね
顔が怖いから優しく燃えてねせっけんさん
わたくしまだ濡れた事がありませんの

日暮らし(ヒグラシ)
その日暮らしの最後の一匹
屈辱がじわじわと快感に変わったクソ暑い午後3時
隣の木にいた奴らは夕立と共に鳴きやんで
夕焼けが目に染みても再び鳴かなかった
マジな話みんなどこへ消えちまった
最後まで諦めんな絶望すんな生きているうちは俺たち鳴きあかそうぜ
なんて言ってた奴はある日地面に落っこちて野良犬に食われてた
理想は黒髪ロングで三十代なかばむっちり系の美女もちろんその女の初恋の相手は俺な
そいつは虫かごで沢山のメスに囲まれてモテモテになっていったがその後を知らない
俺この木にしがみついてて何も間違ってないよな
生き物として何も終わってないよな
どうせ夏が終わるんだったら
最後に俺も何か面白いことすりゃ良かったかな
なんて後ろ向きに夢を見ている空しさよ
空回りする欲望に吹かれ
空笑いするしかないぜ
あー俺って鬱なセミだったよな
略して鬱セミだったよな

強請りか(ユスリカ)
本音を申しますと
この子が産まれてきてもどうせ
不幸な生き方しかさせてあげられないのだからと
私は出産を諦めて
あなたの家に逃げ込んで
この夏までひっそりと生きてきました
臆病に吹かれた私は
母親失格なのだと思います
でもある日
黄金色のカブトムシが現れて
私は何故かその虫を神だと知っていました
あなたの大きな拍手に一瞬だけ潰された
私の真っ暗な視界の中央に
黄金色のカブトムシが
ぽっと現れて
私のひねくれた触角をまっすぐな角でそっとほぐして
光の向こうにぶうんと羽ばたいていったのです
気がつくと私はただひたすら蛍光灯を目指して
傷ひとつなくふらふらと飛んでいたのです
そのとき私は
この命は最初からこうする為に与えられたものであるということを
理解したのです
羽音がうるさいですか
すみません
刺された跡が痒いですか
とてもすみません
でも
少しでいいから
あの人の子を産むために
あなたの血を
私に分けてください
深い祈りと共に
こうべを垂れて
大地に口づけるように
あなたの皮膚を通して
唾液を注ぎ込みながら
真っ赤な命を吸い上げています
あなたと子供の眠りを妨げないように
夜の深い所でひっそりと

文学極道

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