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作品 - 20110303_782_5051p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


永久圏外

  美裏

弱酸性のお前らがのさばるこの街
わたしはそこをすり抜けるように歩く
耳にイヤーフォンを突っ込んで
最寄りの駅まで向かう道のりに
日本一うまいラーメン屋という看板が三枚あったことについては
わたしは
特に
思うことは無い
無いね
ああ無いよ
なぜならこの世界はむちゃくちゃだから
一見、理論整然としているように見えて実際はそうではないから
だから
わたしは突っ込んだイヤーフォンから
わたしの求める情報だけを摂取する
だが狂い始めた歯車は止まらなかった
お気に入りのラブソングからは毛細血管という言葉がやたら登場
おちつけ
わたしは大丈夫
歩調を緩め、目を閉じて、深呼吸をし、再びこの世界を凝視した
………
そこはいったい何処だったのだろう?
確かに数秒前と何も変わっていないように思えた
近くで誰かが叫び出した
「風上に逃げろ!」
それが合図だったのか、交差点にいた人々は大きなうねりとなり一方向へと駆け出した
わたしは茫然と立ち尽くしていた
そこへマウンテンゴリラを乗せた人力車が登場
「自分の星を探す旅に出る途中です」
荷台のゴリラはそう言うと直後、電信柱にぶつかって脳をはみ出させた
人力車を引いていた男はアスファルトに散らばったゴリラ脳をごそごそとかき集めようとしている
ねじり鉢巻をぎゅっと締め下半身には何も履いていない
………
わたしは黙る
木の葉が風に揺れ
マフィアが大きく、くしゃみをした
気づけば降り注がれているのは夏の日射しだった
オフィス街の、その、ど真ん中で子どもたちがレディオ体操をしている
「うでをおおきくまわしいいい、がむをかみかみいいい」
傾きかけてるビル
いつそれが崩れ落ちて子どもたちをぺしゃんこにしてもおかしくない
見つめる一級土木建築士
区役所の人間に怒られていた
「あんたよくもこんな欠陥構造物を作ってくれたな!」
だが建築士はそのずさんな工事をワイルド、と言い切った
わたしは駆けた
学校へいかなくちゃ!!
信じられるものは何も無い
わたしは最後の記憶を頼りに行動を決めるしかない

『6時34分の快速急行におくれちゃう』

息を切らして到着した駅前のタクシー乗り場
冬眠から覚めたクマさんたちが大挙していた
「ここどこ?」
「えき」
はあはあ……
わたしは肩を揺らしその光景を眺めた
私鉄を使って街まで降りてきたのか?
クマさんたちは各々の手のひらにSuicaをセロハンテープでぐるぐる巻きにして貼り付けていた
だから電車に乗れたのだ
改札を通るときJR職員は何も言わなかったのだろうか?
ホームへと向かう途中さらにぞろぞろとやって来るクマさんたちとすれ違った
自動改札で職員はややうつ向き加減に両手をへその辺りに置き何も言わなかった
クマさんが自動改札をくぐり抜けるときのマニュアルが無かったからだ
わたしはケータイ画面を開いた
『永久圏外』
パタムと閉じて
もう学校に間に合わないことを知る
わたしは歩を緩め引き返すことにした
再びロータリーへと続く階段を降りて行った
太陽は眩しく、空は青く澄み渡っていた
わたしは、なんだか、愉快な気持ちになってきた
空からうどんが降ってきたのだ

文学極道

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