「母さん
ふたりともどこ行っちゃったのさ?
いっしょに河のゴミ漁りするって約束してたのに
「そういや俺たち
ハクに何も言わなかったな あんちゃん
「言えねえよ 冗談じゃねえ
連れてけなんてごねられたらあの人が哀しむだろうし
そもそもこのアクアバイクじゃあ
三人も乗ると沈んじまうよ
「夜明け前に出ていったわ
すぐ戻るって言ってたけど
あれは嘘ね
ふたりとも義肢を置いていったもの
「俺たちふたりで三本腕三本脚だな
不便でしようがねえ
「まあ仕方ねえ
あれがあると俺たちの位置が筒抜けだからな
「え?多分?
「そう多分 河の上流よ 人喰い森のむこう
あの消えない光の柱 あそこに
『内陸の宝石』という名前の都市があったの」
「あんちゃん 若くてきれいだったな あの人
ハクみたいな息子がいるとは信じらんなかった
「んー あー 冗談じゃねえよ
「耳まで真っ赤になんなくても さ
「母さん あんちゃん さ ゴミ漁りの合間に
『こうして腰を落ちつけるのも悪かねえな』
とか よく言ってたのになあ
「ほんと 嘘つきね
これをあんたの脚にしてくれ だって
あんちゃんの義足はあたしに合わないし
片方しかないのに」
「ハク 河の上流ははじめてか?
しっかりつかまってろよ
「母さんごめん ぼくどうしても行きたいんだ
あのふたりの手と脚になってあげたいんだよ
「ああそうとも
俺がハクのあんちゃんになってやろう
「そしたら俺は にあんちゃんだな
「こっから先は隠れ里の世界さ
河沿いに仮宿がぽつぽつあるが
集落までの道は地元の奴しか知らねえ
もっとも森に喰われてなきゃの話だが」
「ありゃ事故…だったのかねえ…
管理局の干渉 って噂は?
「ぼくが生まれる前から
消えない光の柱はあるの?
「15年前のことらしい まあ…事故だろうな
都市ひとつぶっ飛んじまったんだ
『人道的な』ヤツらのやり口じゃないだろ
「そして管理局の手をはなれた
「そう今や さぞ人間的な生活をしてんだろ
俺たちが昔やらされた
『鼠捕り』とか『兎狩り』とか
「あたし…あそこにいたの…
ううん ずっとこの村にいたの…
気づいた時には両脚がなかった
あの人が来て ハクあなたが生まれて
そしてあの人は出ていったわ
ちょうど今のふたりみたいに
「鼠捕り
「食糧倉庫に忍び込む奴をミンチに
「兎狩り
「目ぼしい集落を襲って根こそぎ…
なあ 冗談じゃねえよ
俺たち あれをやるか飼い慣らされるか
どっちかしか ねえのかな
「あの人って 父さんのこと?
父さん どこにいるか知ってるの?」
「俺たちは河を遡る
「河を遡る
「俺たちは地下道跡をつたう
「地下道跡をつたう
「俺たちは河上鉄道に乗る
「まだ通じてるといいけどな
「そして『内陸の宝石』へ
「宝石なんて喰わせもんだよ」
「母さん
あのふたり さ
父さんを捜しに行ったのかな
「ハクの親父がいるって保証は?
「ああ 生きてんだか死んでんだか
ずっと音沙汰なし だとさ
「だとしたら
どうしてぼくを置いて行ったんだ?
いっしょにいようね って約束したじゃないか
「父さん ね
消えない光の柱をずっと気にしていた
留守にした自分の責任だ って悔んでた…
あたしと小さなあなたを抱きしめて
必ず戻ってくるから って…
「惚れた女のためかい?
まったく馬鹿なことやってるよな
「あんちゃんの馬鹿!ふたりのバカヤロー!
「俺たちの馬鹿は
生まれた時っからだろ」
「なあ ハク
おっかさんひとりで大丈夫か?
「ハク あなたはあなたの人生を生きなさい
あたしを気にする必要はないわ
「ひとりじゃないよ 村の人たちがいるさ
「壜のなかの手紙
「うん 河のゴミ漁りでみつけた
「日付は?
「一週間前」
「もう村は見えねえな
「ああ もう見えねえ
「まあ
行けるとこまで行こうじゃないか」
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選出作品
作品 - 20110205_432_5013p
- [佳] 内陸へ(マリーノ超特急) - 角田寿星 (2011-02)
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内陸へ(マリーノ超特急)
角田寿星