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作品 - 20110131_369_4999p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


The eternity is on the stove.

  長押 新


言葉の中を泳いでいた。
やがて小さな言葉に行くほかなくなった。
そこに潜り込まねばならず、感覚でしかないが引き寄せられたのち、言葉は残らず去ってしまった。
目を覚ますと、それでまた言葉の海が、ここに出来ている(彼はおはようの代わりにいつもこう、話しかけてくる)。


私と彼は古い本の中で、探し物をしていました。どのみち他にはしたいこともなく、いつもいつの間にかどっぷりと日が暮れるのです。湿っぽい埃が、寒さで鴇色になった頬をロマンチックに美しく見せました。その埃の様はまるで、ちらちらとして私たちかのようです。
そこでは、昔ながらのものが、湧き出るような、とにかく愛に誘ってくれるようなもの、それが見つかるような気がしたのです。もしくは、それを既に得ているために、うまく言い表せるような言葉、を探しているのかもしれません。とにかく、長い間、私たちはお互いにお互いの中にいるような、そんな気さえしていたのです。
ところが、彼は譫言のように、冒頭の言葉を繰り返すようになりました。私の中にいながら、身近なところから遠ざかるところ、を歩いているかのようなのです。それで、非道く傷がついたという顔で私の顔を見つめるのです。まるで私を贋物みたいな目をして。
ああ、傷口にうじ虫這わせるみたいに女を這わせたら、あなたの焼かれるような痛みのうちに、わたしも焼かれていかなければならないんだわ。女の腹に溜まるのは、本能。固い唾が喉を通らなくて、裂けた皮膚の下、黄色く濁る膿。バルバルバル。果てしない叫び、憂いより呻き。バルバルバル。動かしているのは、あなたの手。手なんて消えて欲しい。手、消えろ。Te quiero.ねえ起きて、私の話を聞いて、さっきからずっと子供の声が聞こえる。Quiero te.紅茶入れるから、ほら、また子供の声、私の話を聞いて。古い本、いえ私、いいえ言葉、言葉に綴じ込められて、言葉を泳ぎ切らないうちに、愛に、愛には届かないんでしょう。This is a my love.ほら、また愛って言ったわ。
あ?
言葉を叩いたら、埃っぽい言葉たちが一斉に飛び出してきてちらちらと、足元に降りました。降ると言えば、随分と外に出ていませんから、もう外では雪が降っているかしれません。永遠に降り積もるかのようです。ストーブの上の永遠?足の裏で散らかした埃を集めようとしながら、器用に会話しました。ストーブの上の永遠?私は利き足が左ですから彼の左足を何度か踏みました。ストーブの上の永遠?埃は私に集められて、塊となりました。ストーブの上の永遠?埃は、嘘をつきます。今はそれが、分かります。このように、綿のように降り積もるのは、雪か嘘からしいですから。審美的な瞳に、私が映ります。その時になって差し出される届、古びた、封筒に入れられた言葉、その契約。紅茶のためのお湯が沸きます。ストーブの上に封筒を置きます。お湯の音、子供の声がする、彼には本当に聞こえないのかしら。ティーカップを温めます。今に私たちは、この本の中に、永遠に、閉じ込められます。

文学極道

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