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作品 - 20110128_332_4994p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


小品(オヤドリを埋めるための)

  しりかげる

 
 
りる/りるる/りる
嘴の勾配に沿って過去をゆるすものはコトリではなく、産卵の痛みだけをわかちあういつわりのコトリだから、地面には剃刀の刃だけがひかり、金属のつめたい光沢に安堵する。空はとおく架空の翼では巣立つことができないから、オヤドリはコトリに脚を与えた。濁った血液の流れ。嘴の勾配に沿って過去をゆるすものはコトリではない。この墨に汚れた金貨が溶かされているとしても。
りる/りるる/りる
冬を窓辺から享受して、布越しのひかりでえがく芽吹き。影のおちる室内、病床、古書を枕にしてコトリは眠り、ときおり目覚めてはひどく咳きこむ。やまない鼓動は雨音のように屋根を穿つ(コトリは卵生だから母の鼓動をしらない(花瓶にいけた筆(痛覚の麻痺(書物は答えを教えてはくれない。重力をしたがえた沈黙だけが厚く降り積もり、喉が乾いたコトリは窓の結露を舐める。涸渇による支配がつづき、逃れるための自傷。自傷。自傷≠
りる/りるる/りる
意識が糾弾されることはないから、という点でのみはばたきをゆるされたコトリの、ゆるされるべきさえずりは瞬く間に射撃される。垂らされた宵闇からもたらされた解体。痛覚から画鋲をうみだすさかしまの行為によってコトリは求愛する。(わたし、はこわ、くはない、よ(わた、しはこ、わくはない、よ(おいで、そして、(ひかりの墓地に足跡を記す。


/はねをすてた!
のは、にんげん、で
かれらが“evolution”とよぶ、
それはただしいこと、だと。
“セイカツ”life? に
必要、なものは
ただひとつ、迎合、で。
/迎合/ゲイゴウ
嘴の勾配に沿って、
/さえずりをすてた!
/そらをみあげない!
かれら
に、あらがうため
脚を切り落としたのに
、うばわれた
翼を返して! と
さけぶこのくちはいつしか
にんげんのくちびるにかわっていた

進化。/退化。
をいわうひとびとの
祝祭日、
卵料理がふるまわれた
あさ、そらから
やわらかな羽根が降る
ふぇざーれいん
肉親を棄て、
胎生をこばむコトリは
“イキョウト”とよばれ
この街に宵は
訪れない。どこまでも
均等な/light?
right/それはただしい。
そしてどこまでも
まちがっているのだと


りる/りるる/りる
コトリの翼は重力の影響下から逃れられない。墜落する夢をみて、目覚め、眠り、(書物は眠らない(みちびきのよるはひとにはみえないふちのげんごでえがかれる。燃やされていけ、空(孵化し、産卵の痛みにより生かされてきた。
りる/りるる/りる
りる/りるる/りる
同化することが神秘、だから、
 「異化、させて
五感を共有するとよい
 「それが?
真価なのだ、よ
 「この街に、宵は訪れない


街に拡声器はひとつしかなく、伝達しておなじ進化をたどることだけが至福だった。足跡を空に刻むことはできないから、均等な朝が来たらコトリは翼を棄てなければならない。(ことなった陣痛、(分裂で増殖するかれら(無精卵を抱くことだけがせかいのすべてだった。そしてコトリはもう、これいじょう、嘘をつくこと、ができない

オヤドリをさえずりに埋めた冬の朝。窓の外の街はあまりにも鮮明だから、どれだけ埋めても揺らぐことはない。おなじ声の質感のうえに引かれた絶対的な白線。最後のさえずりを打ち消すために、けたたましい機械音で鳴く拡声器。
りる/りるる/りる
諦観が日差しと共に降り注いでいるこの街に、宵は訪れない。反復をやめない均一な朝は、信仰するひとびとにだけとてもやさしい。
 
 

文学極道

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