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しりかげる

選出作品 (投稿日時順 / 全6作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Petite et accipietis

  しりかげる

 
 
眠れない真夜中。
この街を縦横無尽に走る、幹線道路。
行き交う蛍は、目的地を知らないの。
乱立する、高層建築物。
点された炎は、ひどくつらそうに、
死角を放出している。


ねえ、、


ビルの脇に等間隔にたたずむ、
カーキ色の街路樹。
公共バスに窮屈そうに乗る、
仕事帰りの会社員。
裏路地にかりそめの関係を探す、
涙線のない女子高生。
コンビニに並んだ菓子パンみたい。
一様にくたびれていて、
きっと鉄の味しかしないわ。


パーティーに使う、
折り紙のわっかを繋げて作るやつ、
あれ、名前なんて言うんだっけ。


視線の抱擁、
網膜、と、網膜、
キスをしよう。
篝火の暖色に包まれ、
ホームレスの男たちは、
小さな公園の隅で、
儀式をしている。
震える、切っ先、
吐息、絡める、
重ねる、輪、


保健所ではたくさんの動物が、
毎日殺処分されているから、
その中に二人ぐらい、
人間が混じり込んでも、
きっと、気付かれない。
声を潜めて、一緒に、
おどりを、踊ろう。


温度のないリズム、
壊れた問いかけ、
吐き捨てられたガム、
誰も知らない。
願い、人、
きこえる、きこえず、


感覚が。


昨夜から、どうもおかしいみたい。
どうおかしいの。
なんだかね、すごくぼやけてる。
ふうん。


摩擦。


数多もの心が波になる。
数多もの波が海になる。
銀波が水面を浚う。
水中は見えない。
傷付いた音や光が、
手のひらの世界を、
飽和させている。


不器用な喧騒。


夜ごと、内部で生み出された騒音を、
やかましい光に変え、
ネオンサインから排出している。
そんなパチンコ店。
夜ごと、光に集まる蛾のように、
汚れたスニーカーたちが、
忘却の快楽を求めてコインを弄る。
そんなゲームセンター。
夜ごと、淡く色づいた爪が、
指先でついばむように、
一瞬の空白を傷つけあう。
そんな風俗店。


空っぽの欲望がね、
ぎらぎらしている、
そんな悲しい光が、
この街の夜を照らしているんだよ。
眠らない街、だって。
眠れない街、なのにね。


うるさい光たちが、
羽虫のように飛びかって、
ぶんぶうん、って、
耳障りな音を立てている。


こんなに明るいから、
星なんて見えるはずもなく、
綻びのない常夜に、
都心は傷跡を抱き、
旅人たちは、
祈りを、
 
 
 


蝶の葬儀

  しりかげる

 
 
 
ささやかに腐敗させてください、と。酸性の雲の下、わたしの少女が祈る。どこかで目にしたことのある風景、慟哭、白波、ハーモニカ、あらし。
雨音。鳴り止まない歓声が、いつまでも記憶の片隅に座している。弱酸性の黒い雨粒が、石畳にぶつかって跳ねる。停滞する梅雨前線。けぶる街の幻影を、わたしの少女が遊泳する。幼いころの落書きは押し入れにしまわれたまま、風化して、輪郭だけがおぼろに、ぬるい水面に浮かんでいる。
汚れたガラスの容器には、塩水が貯められている。容器の底には、溶媒にとけきれなかった塩の塊が、緩やかに、緩やかに、けぶる街の幻影を遊泳する。わたしの少女は泣いている。その傍ら、少年は曇天を見上げ、無表情、黙り込んだまま、少女の縁を規則的に周回している。

ささやかに、雨が降りしきる初夏の夜、ささやかに、弔いの花は添えられる、献花台に献花台に献花台に、わたしは眠る、ささやかに、わたしは目覚める、変貌することのない蛹たち、ささやかに、踏み潰す、ささやかに、花弁は力を奮いはじめた、

夏。わたしの腕が届かない絶妙な距離で、ふわふわと浮遊する蝶。(踏み潰された蛹から産み落とされる骸と、)うつくしい翅。握りつぶしても乾いた音しか立てない。乾いた音で死んでいく昆虫。わたしの少年は、骸から産まれる骸を次々と殺戮していく。かさかさ。炎天下の真昼、少年は無表情で虫を殺す。殺す。殺戮の底(で、少女は両手を胸の前で絡めて、祈りのかたちを司る、贖罪、涙を流しているのはわたしですから、彼を許してあげてください。
、と、おままごと。

塩水、ねえ塩水、清らかではない悲しみのなかで、強烈な日差しが乱反射している。塩水、わたしとわたしとわたしとわたし。溢れだす言語は世界に溶け、やがて見えなくなる。巨大な水溶液、その底に沈められた文字列。

夏は実りだけを抱きしめていたいから、と言って突き放してほしい。鼓動も、音楽も、循環も、すべては嚢が伸縮を繰り返すように、少女と少年の、希望だとか、交わりだとか、わたしの、二人の、独りのすべてを、抱擁しながら、それでも世界が世界としてあるというのなら、溢れる光条、意味なんて必要ないから。と言って、言って、せめて、意味のない周回に、花を添えて、弔いの、手向けとして、抱いて、すべてを死なせてもなお回り続けるというのなら。

梅雨が去って、ほとぼりが宿される赤子の、骨の組織、無機質な生命、肉塊、紛糾する理性、熱気に包まれるわたしの少女は夢を見ることを止めない。わたしの少年は虚ろに宙をさまよう。赤子は踏み潰され、踏み潰された赤子から夏が羽ばたく。極彩色の蝶紋。回転。ああ、わたしとはこれほどにうつくしくいきている。骨、骨、骨、積み上げられた骸、乾いた音を立てて死ぬわたしと、成り代わる骸の。ささやかに花を手向けて、ささやかに、そうして、またささやかに、踏み潰された蛹の血が、頬に垂れて、どうして、ほら、こんなにも塩辛い。
 
 
 


ラブポエム

  しりかげる

 
 
 
愛している、とつぶやく以外に愛しかたをしらない僕たちは、結ばれるための両腕を身を守ることばかりに使っている。(獣であったなら射精だけで終われたのに)ポエムを書くうちは、獣の愛しかたをしらない



「両腕」


排水溝から溢れだした熱情が崩壊のはじまりを告げる。ひび割れたアスファルトが濁流に沈み、(むらのなかにくにがうまれるようにみずのなかにうみがうまれ、はもんのようにひろまっていく)ほとりには夜光虫の炎がぼんやりとゆれ(点滅をくりかえす黄信号とともに)色彩が燃えていく視界。波と雲の境界が決壊し、鮮やかな藍が燕になって飛散する。その軌跡から徐々に色彩が剥ぎ取られ、縦横無尽に無色の傷跡が残る。「なぜだろう、僕の鼓動はひどくおだやかなのだ。」隣では、あなたが両腕を無色の天にかかげて、なにかを抱きしめる仕草をする。(あなたの背中に、おもむろに崩壊の牙を突き立てる。)僕は、あなたほどやさしくはなれない(この両腕は傷つけることしかしらない)、あなたの背中から紅の翼がうまれ、ほとばしる熱。羊皮紙にこぼれおちる文字。あなたの器に裏切られたことにして、その恨みで詩を書くから、傷つけることしかしらないこの両腕、(非生産的なポエム)あなたは、きっと許してはくれない



「愛しかた」


積み重ねた小石を、不意に蹴り飛ばす。(これが愛です/といわんばかりの)唇と唇が触れあうと、きまって頭痛がする。こめかみにあてがわれたふるえが、滅びてしまった街角に流れこむ。沈没する落葉樹が上方に葉を巻きあげ、葉脈に刻まれたまじないが(閉ざされた空に向かう胡蝶の群れ、マントルに横たわる婚約指輪)、逃れることはできないと知っているから、だから、身体が触れあうだけでは、、、歌は終わらない。内臓を撫でる手に体温を感じたとき、はじめて僕はうたを終わらせることができる。ひとがひとであることをやめないように、うたはうたわれることをやめない



「隠喩」


星が降る。大地が落ちる。空が割れる。海が走る。ひかりが、ひとつふたつ、地平をかけぬけて、轟音とともに軋む僕のせかい、の、隣で、あなたはうたをうたう。(わたしがわたしであるとは/誰が定めることだろう/あなたがあなたであるとは/誰が認めることだろう/自身が自身でありたいのか/そう思わされているのか/世界の中のわたしがあり/世界の中のあなたがある/世界が世界でありたいのか/わたしが世界でありたいのか/わたしたちはわたしたちであり/わたしたちはわたしの集合である/わたしはわたしたちでありたいと望み/わたしであることをわたしたちは求める)足元にはシロツメクサが咲いていた。あなたは腰をかがめてそれを摘み取り、風にのせて飛ばす。(世界の終わり)可憐、な、声、に、飼育、された、僕たち、隠喩が、降り、積もり、燃えあがる、億千の、残光、、抽出、された、激情が、息をとめ、刹那、隠されたままの、爪が、水面を、引き裂く、僕、僕は、傷つけることしか、しらない! 傷つけることしか! ああ、波紋、加速する、雨、色彩が、欠如した、僕の、ひとみに、燃えあがる、炎が、空を、舐め、海を、濡らし、あなたの世界と交わろうとする、、僕と、あなたの世界、あなたの世界が崩れおちる前に、僕、僕に、せめて慰めの、ポエムを、


ーー射精。




「ラブポエム」


獣(五感が呼吸をやめてしまって、あなたのうただけがこの世界のすべてだった。ほろべ。わたしのなかに宿るあなたの器はすこしずつ朽ちていくのに、声帯だけはなぜかみずみずしくなっていく。ほろべ。わたしとかつてのあなたの狭間に、うたが手向けられている。ほろべ。ひとつの世界が砕けて、その断片が幾多もの世界に降りそそぐ。世界の底にはまだたくさんの世界が連なっていて、終わることができないようなしくみになっている。)獣よ、夜明けに祈らずにはいられるだろうか。(点滅をくりかえす黄信号がもとの場所にもどっていく)「なぜだろう、僕の鼓動はひどくおだやかなのだ。」ほろべ、「せめて、あなたの器がこの一日の最果てならば、束の間だけ僕は眠ることができる、

「どうか、
三分間だけ
滅んでください

世界。」
 
 
 


ラジアータ

  しりかげる

 
 
家の裏手には大きな田が広がっていて、毎年夏の終わりごろになるとたくさんの彼岸花が群生する。幼いころ、学校が終わるたびに急いで田へやってきては、その花を摘み取り母へ渡すのが私の日課だった。「おかあさんはやくよくなってね」そういって手に握ったものを差し出すと、彼女はいつも口元だけで笑んだ。ダイニングテーブルの中央に置かれた瓶のなか、日ごと、繊細な紅色の花が増殖していく。


日付が変わるころになるといつも、その複雑なかたちをした花をかこんで夕食をとった。私と、母と、名前も知らない男。男はいつも夜更けにやってきては、母の顔に皺をひとつ増やして明け方に帰っていく。「かぞくそろってごはんたべるっていいわね」それが母の口癖だった。家族という言葉を咀嚼するように唱える。幾度も、幾度も、


(手首に赤い筋をはしらせて泣き崩れるおんな。誰なのかよくわからなかった。皺だらけのただれた皮膚が蠢く。頭のなかに、水面に像が映るように、彼岸花が浮かんでは、乱れ消えて白く眩んだ。台所の床に点々と、花を絞ったような汁が垂れた。毒が揺れている。割れた瓶。またやったの? って、誰かが/私が、つぶやいた気がする。ねえ、また、、、)


それはとても複雑なかたちをしていたので、元には戻らないと知っている。だから新しいのを摘み取ればいい。そういう呼吸法しか習ってこなかったから。瓦解と分娩を繰り返して潮が満ちそして引くように、同じ工程を幾度となく消化するうちあちこちが麻痺してしまって。


麻痺してしま、って


触れたことのない男のために鍵をかけずにおいた玄関の扉。ほんとうに鍵が必要なのはこの小さな四畳半の自室だった。目覚めるといつもここにいた。ひとりで暮らすには広すぎる家のなか、黄ばんだ蔦柄のレースだけが音を立てはためいていた。割れた陶器が散乱して、触ると傷ついてしまいそうなくらい鋭利な断面。が、不揃いの呼吸を導く。刃先/蜘蛛の巣/生活/とうに砕けてしまっている。


斜陽。あわい暖色がごっこ遊びの残骸を濡らしていく。その滑らかな手触り。髄まであの男の声が染みこんだ家。黒点。母が飛び去ったこの窓辺からは、彼岸花の咲きほこる田がよく見えた。赤い滴が点々と、薄汚れたフローリングを濡らしている。皮と果肉のあいだに爪を立てて果汁が溢れだす。熟れた、


果実の。
香りがした。
その花。


細い花弁が水面に浮かんでいる。褐色に濁った湖畔。こちらには私、対岸には母/おんなが薄靄に埋もれていく。その裸体。香水の臭い。口紅。口紅。水面には細い花弁が浮かんでいる。おんな/母が唇を動かす。声にならない剥げたマニキュアの、色褪せた、湿った指先。目を背けることができない。「わたしのなかのいちばんおんなにちかいばしょからやってきたの。あなた」おんなが遠のいていく。宿り木として産まれてきた私。そう、あなたをこうしたのは私だ。おんなが遠のいていく。夢の続きから小指を積んでいく私を宿り木として産んだのは、あなただ。靄の先は白く、見えない。


(radiata,
拡散する血管
花ひらくように)


この屋根のしたに家族と呼ばれるものたちが暮らしているはずだった/おんなは裸体をさらしながら転がっている/深夜に音を立てて開かれる玄関の扉/息づかい/糸/目を覚ましたときにはもうすでに、私の手首に流れる血潮は誰のものでもなかった。台所の床には彼岸花が咲いている。陶器の欠片、そのうえにたくさんの花弁と、真新しい血痕を残して、はじめから続けていく。「はやくよくなってね」緻密な花。輪郭が濃くなっていく。蛍光灯。板目。テーブルクロス。黒点。鳴りやまないサイレン。幾度も声をかけたの、に。ねえ、またやったの?/またやったの?/っ、て。
 
 


サンクティティ

  しりかげる

 
 
この星は
どうしようもなく球体ですので
放逐された
吐瀉物、体温、影、
この身体で分泌された、もの、が
私の背中を追ってくるはずでした


たとえば
大気圏と呼ばれる
学術的なカテゴリ
呑みこまれたのは
ガラス張りの小部屋で
どこに散っても
ひとつの青に連れられ
左脳をもたない
原始的なしくみの
むきぶつ、に
飼育される
いき、もの


(腹を引き裂かれた馬のはらわたが
ごぷっ、とこぼれて
ずるずる伸ばされてゆく
星を引き裂いて
はらわたを取り出せば
どれだけ伸びるのでしょうね)
長いものには巻かれよ
、って先生が言っていました
ですから
長い、果てしなく永い
まるでえいえん? みたいな
内蔵にくるまれて
それがしあわせだと
おもいました/おもわされました
いいえ。
しんじてみました


けれども


裂いても割いても
なかから溢れるのは
もこもこ、した、綿ばっかりで
“ぬいぐるみ”
(ためしに
私のお腹を裂いてみたら
なかには幾百もの
プチプチした卵がつまっており)
あるいはこれが
いき、もの
なのだ





、唐突に。
呼吸
億劫になって
終わらせようとしたら
内蔵、が、喉、から
せり出してきました
勝手に呼吸をはじめる内蔵たち
、すう
、はあ


そのとき
気付きました、ね。
こうやって
いき、もの



飼われている。


尻尾をひきちぎられた日、
これまで放逐してきた
吐瀉物、体温、影、
この身体で分泌された、もの、が
私の背中に迫ってきていて


繰りかえされることを拒んではみるが
置いていかれるのはたまらないから、


すぐにでも左脳を捨て
単純なしくみになりたかった


ひとしく
いき、もの、は
青を冠して
異なる内蔵に巻かれてゆく
たとえば
大気圏と呼ばれる
学術的なむきぶつ


隠されながらも
普遍だと安堵できた
張りつめる水面
浅い目覚めのなかで
「神聖とは、


騙されることでしたから」
私はただ頷きながら
はらわたを首に巻き
おだやかにねむる。


(いびつな無精卵を
つみかさねて
そのうえにねむる。)



 
 


小品(オヤドリを埋めるための)

  しりかげる

 
 
りる/りるる/りる
嘴の勾配に沿って過去をゆるすものはコトリではなく、産卵の痛みだけをわかちあういつわりのコトリだから、地面には剃刀の刃だけがひかり、金属のつめたい光沢に安堵する。空はとおく架空の翼では巣立つことができないから、オヤドリはコトリに脚を与えた。濁った血液の流れ。嘴の勾配に沿って過去をゆるすものはコトリではない。この墨に汚れた金貨が溶かされているとしても。
りる/りるる/りる
冬を窓辺から享受して、布越しのひかりでえがく芽吹き。影のおちる室内、病床、古書を枕にしてコトリは眠り、ときおり目覚めてはひどく咳きこむ。やまない鼓動は雨音のように屋根を穿つ(コトリは卵生だから母の鼓動をしらない(花瓶にいけた筆(痛覚の麻痺(書物は答えを教えてはくれない。重力をしたがえた沈黙だけが厚く降り積もり、喉が乾いたコトリは窓の結露を舐める。涸渇による支配がつづき、逃れるための自傷。自傷。自傷≠
りる/りるる/りる
意識が糾弾されることはないから、という点でのみはばたきをゆるされたコトリの、ゆるされるべきさえずりは瞬く間に射撃される。垂らされた宵闇からもたらされた解体。痛覚から画鋲をうみだすさかしまの行為によってコトリは求愛する。(わたし、はこわ、くはない、よ(わた、しはこ、わくはない、よ(おいで、そして、(ひかりの墓地に足跡を記す。


/はねをすてた!
のは、にんげん、で
かれらが“evolution”とよぶ、
それはただしいこと、だと。
“セイカツ”life? に
必要、なものは
ただひとつ、迎合、で。
/迎合/ゲイゴウ
嘴の勾配に沿って、
/さえずりをすてた!
/そらをみあげない!
かれら
に、あらがうため
脚を切り落としたのに
、うばわれた
翼を返して! と
さけぶこのくちはいつしか
にんげんのくちびるにかわっていた

進化。/退化。
をいわうひとびとの
祝祭日、
卵料理がふるまわれた
あさ、そらから
やわらかな羽根が降る
ふぇざーれいん
肉親を棄て、
胎生をこばむコトリは
“イキョウト”とよばれ
この街に宵は
訪れない。どこまでも
均等な/light?
right/それはただしい。
そしてどこまでも
まちがっているのだと


りる/りるる/りる
コトリの翼は重力の影響下から逃れられない。墜落する夢をみて、目覚め、眠り、(書物は眠らない(みちびきのよるはひとにはみえないふちのげんごでえがかれる。燃やされていけ、空(孵化し、産卵の痛みにより生かされてきた。
りる/りるる/りる
りる/りるる/りる
同化することが神秘、だから、
 「異化、させて
五感を共有するとよい
 「それが?
真価なのだ、よ
 「この街に、宵は訪れない


街に拡声器はひとつしかなく、伝達しておなじ進化をたどることだけが至福だった。足跡を空に刻むことはできないから、均等な朝が来たらコトリは翼を棄てなければならない。(ことなった陣痛、(分裂で増殖するかれら(無精卵を抱くことだけがせかいのすべてだった。そしてコトリはもう、これいじょう、嘘をつくこと、ができない

オヤドリをさえずりに埋めた冬の朝。窓の外の街はあまりにも鮮明だから、どれだけ埋めても揺らぐことはない。おなじ声の質感のうえに引かれた絶対的な白線。最後のさえずりを打ち消すために、けたたましい機械音で鳴く拡声器。
りる/りるる/りる
諦観が日差しと共に降り注いでいるこの街に、宵は訪れない。反復をやめない均一な朝は、信仰するひとびとにだけとてもやさしい。
 
 

文学極道

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