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作品 - 20110122_267_4985p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


アメリカン・ルーレット

  ぎんじょうかもめ

 

「ロシアン・ローレットはもう古い」
この店内にけたたましく響く
1977年、かの英国王室を
血圧あげて馬鹿にするパンク・ロックを遮った
その言葉を、しっかりと聞きとれた。
振り向くとひとりの男が
ワインを口に含み
こちらのカウンターに向かって歩いてくる。
彼の風貌は ただそこらのカーテンをはがし
体にまきつけたような
このつめたいシアトルでは
とても不釣合いなもの。
また彼はとても痩せていて
その体から、卵のくさった臭いがしている。
「ロシアン・ルーレットなんてもう古い
 これからはアメリカン・ルーレットの時代になるんだ」
彼はぼくの皿のポテトを
採ろうと右腕を伸ばしたので
ぼくはその右腕をつかんだ。
腕はつめたく、また湿っていた。
ぼくは彼に尋ねた。
「そのアメリカン・ルーレットって一体なんだい?」
彼は皿から
ポテトをとって口にほおばると
飲み込んで答える。
「それはな
 まず弾を6発
 全部つめこんでから
 ロシアン・ルーレットをやるんだ
 アメリカン・ルーレットのすごいところは
 最初に撃ったやつはかならず死ぬってことさ」
その言葉に
ぼくは目をきらきらさせて思った。
かならず死ぬ。
すごい。
そうだよ。
ひとはかならず死なないと。
彼はつづけてこう言った。
「だけど、死ぬことなんて簡単『だった』
 生きることくらいに
 だからさ
 生きかえることだって
 死ぬことくらい簡単『だった』んだ」
彼は
茨の冠をかぶっていた。



パパ、わたしのクマちゃん、今朝方しんじゃったみたいなの。
だって昨日はあんなにたくさんお話してくれたのに
今朝になってみたら、ぜんぜんおしゃべりしてくれないし、つめたいの。
どうして、昨日はあんなに元気だったのに
今日はひとこともお話してくれないの。
だからこのクマちゃん、もうしんじゃったのかなって思って。
っていうかこれ、単にクマちゃんのシカトかな。
事実だとすればマジ、ムカつくっていうか、ナイよね。
クマちゃんぜんぜん空気読んでナイよね。
だからわたし、こんなメンヘラみたいな遊びはやめる。
パパだってわたしを未来
30代、無職、自称詩人みたいな生き方させたくないでしょ。
パパはわたしをニルヴァーナのカート・コバーンや
リチャード・ブローティガンみたいに、逝っちゃった精神状態で
ついに拳銃で頭を撃ちぬくような人生歩ませたいの。
それって今もクールっていえばクールだけど
第一、ここは日本で
スーパーマーケットで拳銃を購入することさえできないのよ。
お願いパパ
だからわたしにローラーシューズを買ってよ。



かもめの鳴く声はだんだん近くなり
また波の音もだんだんと近くなってゆき
その音はまた意識の向こうへと
すこしずつ、すこしずつ
遠のいてゆきました。

わたしは雪山の一角で
ぎゅっと自分の体を抱きしめながら寒さに震えておりました。
しっかりと握っていたものは、ばらの花に携帯電話。
今日、たしかにこの場所で
わたしは恋人とデートの待ち合わせをしたはずでした。
携帯電話で
現在地を確認しますと
たしかにここ、この場所です。
たしかにわたしはこの場所で、恋人と待ち合わせをしたはずでした。
「しぶやえきはちこうまえ」
しかし携帯上のその地図はずっと更新されておらず
2050年のものと、とても古いものでした。
またわたしはその地図上の、その古いことばを読むことなんて
ほんとうはできなかったのです。

 

文学極道

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