拝啓
これは、私があなたに宛てた最初で最後の手紙になるでしょう。こちらはもう随分と日が短くなって、丁度今、夕暮れ時です。秋の冷たい風が銀杏の葉を染めて、歩道では銀杏がずいぶん潰れてしまっています。
窓の外に目を向けてください。アパートの正面にあたる道路では、バスから降りる人が列をつくって、ぞろぞろと行進しているのが見えるでしょう。列が列を作り、途切れることなくいつまで続くのでしょうね。其れを数えるのを生業にするだれかが、いると聞いたような気もします。
道のあちこちで動物が死んでいて、彼らの眼はことごとく白濁して、なにも見えないようです。あなたがたは彼らの腕を、足を、折り重ねて焼却場へ運んでいくのでしょうね。ただ生まれたというだけで、ただ死んだというだけで。
私は彼らの灰を、町中を流れていく川に撒いてあげたい。上流から次第に分岐して、網目状に張り巡らされた、約束のような川。舞いあがる灰は風に乗って、誰かの涙を取り戻すかもしれない。そうすれば彼らの眸は少しずつ透明になり、燃える炎の赤は血と同じ色だと、知ることができるでしょう。四角い建物から出る煙の行き先を、追うこともできるでしょう。同情はいつだって優しいから、私はそれが悲しいのでした。
燃えていく
骨は光
血は種
からだじゅうを風が
通過して
燃えていく
今この机には強い西日が射して、窓の外を直視することができずにいます。こちらはといえば、肺を悪くしてから、呼吸をするたびにひゅうひゅうと煩いので、先日、母が耳を落としてくれました。わたしたちはたがいの声帯を触り合って会話をします。首の据わらない母の口元を、きれいなハンカチで拭ってあげるのが好きです。彼女の視線はいつもすこしだけ右上にはずれていて、私は川の話をする。だくだくと流れていくものの話を。私にとっての母は、たぶん窓枠なのでしょう。
そして窓の外はすべてあなたです。なんて言ったら、あなたは驚くでしょうか。然し私は、これ以上のことばを持ちません。窓の外はすべてあなたですから、私は鍵に手をかけることができない。すべての穴という穴が塞がれて、ここはいわば結石なのでした。それがあなたのすべてを塞いでしまったらいいと、思いさえするのに、これを読んだあなたはきっとただ困ったように目を伏せるのでしょう。
私はこの町に生まれ、育ち、私の両親も、そのまた両親も、そのまた両親も、この町に生まれ、育ち。列のどこかに並んでいるのでしょう。川は道筋を変えながら、いつまでも下流へと流れ続けている。あなたの頬骨に触れたい、ですが其れは強すぎて、私の指先を焼いてしまうから。さようなら、この町には海がないので、私は流れつくことができませんが、ただ生まれ、育ち、流れ流れ、この小さな部屋でまた新しい命が生まれようとしている、
のです。突然お手紙を差し上げた理由は、これが全てです。
燃えていく
重ねられた
わたしたちの
空洞の
容れ物の
空洞の
身体
が
轍にばらまかれて
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作品 - 20101130_437_4865p
- [佳] あなたへ - yuko (2010-11)
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yuko