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作品 - 20101122_294_4847p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


みずのながれ

  早奈朗

息を、つむぐ

ひろがる花びらのまろやかな落ちこみに尾翼をつらぬいて、わたしは生成する。落ちるそこのところから、くつ跡のくぼみを音楽にかえて、色になりぶあつい花弁を胸のなかでふくらませる。ティッシュをとじこまれ、ゆるやかなすき間のうちをわずかずつ揺れながら息を落とす。みるまにひびき匂やかになる。本をひらき塗っていくことば。くろくなりつつある貝がらにふくれた花弁をつけたして、わたしとひろい海がかきこむ旋律。嬰音と休符のあいだにあみで引きよせるシロナガスクジラ。みずが潮をよび、潮がふかみをよぶ。銀のいろがみが波をおりたたんでいく。ひどくさざめきをくわえられて、ながれる海は、ひびけ、よろこび、霧になってちれ。わたしは飛行機だ。首をかたむけて風をきこう。あり方をちぢめよう。ひろがりの沃地はいつも泥にうずめられているから、そこでかけられる音楽はラジカセがぬまに埋もれて、ききとりにくい弦楽器がおどろきのようにあふれる。原住民はおどり、足かせをはめ、ことばをうたう。たがやす土波は都会をおおい、アンクレットがたがいにふれあいたたかわす。ちりがきょうの空にうかぶ。天はひろくつぼまっているから、雨がふる。わたしたちはよろこびをわかち、はんぶんにしてそれぞれ持っていく。家には塔がたてられている。そこにくもつをおき、煮立ちをかこつ。炎のはしらが立ち、それを演奏している。つえの先に火がなめらかにあり、それをのむ。ことばが侵入する。わたしは火を発ちてみちをいく。のむようにことばの家がゆれている。わたしはそれを統御しない。だからうめこまれもしない。そして雲をあつめて、笛をふく。雲がちぎれてむらさきいろの糸があらわれる。それでくみしき毛布をつくって、ひろく地球にしく。こんな物語のあとで地球がばくはつする。太陽系にとびだす。火星にいじゅうする。そして麺をすすり地球をなつかしむ。だけどわたしたちは飛行機だから、羽をひらき、うもうになれる。そしてかたく空をとぶ。うちゅうをとぶ。宝石のきりをめずらかに袋からはなつ。それは街に生えるだろう。そしてひとびとが萌えでる芽をふみつける。「それはひつようか」「ひつようだ」「ふくろからとびだそう」「そんなこともあるな」「ある」切り出される鉱石をわってなかからとび出てきたみずをひろくしきちりばめる。胸を宇宙のきぼにのばして、息をあたたかくすっている。とびこむ文字はうおになり胸をきり裂いていく。みどりのちしおにぬれ、雪をふくみながらたっている。

わくせいよふるえに触れて、みどりごえの藻せん毛の手を生やしてはえてこい。かみつくひとみのなごりをコップにかきくだいて、みる目をつぶる。あなたのことばをあけると、グライダーがきばをひらいて、のみこむ。みずべのきしにいつまでだって ぬれている ねこになる黒いつばさの男のひとみ、なん着陸して 読むことを解きほぐして小石がひびくまで池をわる。
ががーりんの はっけんに

みぶるいする ころも
○がとどく。家が折れて、つつみこまれるまで腕をのばして丸天井に桟敷をしき広げる。あおくなるまで川をせおってうってたとう。ながれるがらんに刻みこまれた文字は浮き喉にまで達するからそれをはきださなければならない。わたしが少しずつ皮ふを四角にはがしていって打ちつけるぬり壁の奥には歴史が書かれているから、それをとりだすために、一歩わにになって、絵本をころして、さつ戮の嵐が、ふきあれていって、文字をことばでよべば、「おまえはどこにいるか」
「ぼくはどこにもいない」
「それならば腕はどこにあるのか」
「腕は、ここにある。見せようか」
「ぼくたちは見せなくていい」「だから、川にながれる」「文字が川にながれていく」「すり切れるような布を小石のひょうめんにあてて、こすりつける。それがむかしからの作法だから、わたしたちは川に面した町でこうして行商をやっている」「あなたは老婦人だ」「わたしは老婦人の乳をもつ」「それならばしわぶきのむこうの町で酸化しながら、あなたはひだを表面ずつひらいて、わたしをねむらせるつもりなのか」「草はらでねむりなさい」「あなたは眠りのあい言葉をもつ。わたしは、あおを塗るすべを見つける」「見つけよ」

繰りくだるうちに穿孔が花ひらいて濃霧から氷になるためにことばが文字になったのじゃなかったか。氷をやぶるためにあなたの目がひらく地底のしもはむれて赤くゆれている。手がむすうに生えるのなら指がとどくためにたくさんの距離を経て、ぼくの舟は座礁する。いみがしもになるならばあふれるような腕は指揮のほうこうを海のなかにとどくように、引っ張りあげて、地面がゆれる。声がはり叫ぶ。腕のゆび先がいかになって、海に向かって青くなりのびていっても、地はだが海面にふれていっても、記述する糸がぼくはほしい。みずがしたたりぼたぼたになる。音をたてて炎になってゆく。海をこえられるのなら、その上を歩けるのなら、つばさになり黒ぐろとひろがれるのなら、波になろう

くずなみになろう

たちかえることが、波のあい間から声を立ちのぼらせることならば、みどりを踏みつけていって青をこぼらせる演奏のかん隔のかごの中からみどりとりんごとふくれあがるならば,記述するそばから、たくさん歩け。わたしのことばの窓から、いっぱいこぼれ落ちろ。ぬり薬をぬって、絵をえがいて、網のあいだから木を見つめよう。みずがひいていく。いけ、おがわ。「製鉄になれ」

ぬりぐすりをぬっていく。静脈がひらいていく。みどりがこんで、気がつくとたきぎが燃えている。まちがえることもなく、最後にはみずをきりぬけろよ、ことば。水をかこんで、ふるえる間欠泉を譜面としてながめて、まよい出す音をものかごにひろおう。魚をつくろう。いきてとびこむさかなを。うおがせびれになり、いきかえるとき、いみがことばになりおおきな山をつくる。のぼらなくてもいいから、穿とう。流れをくずしていこう。岩にしがみついて血をなめ、けずろう。歯をみせる。うかびあがって消去になる。身が、音符になるとき、たよるものが、雪崩のじくにあるとき、ゆきをむかえるために、あるくこと、時計をもつこと。しし髪に、櫛をさし込んで、草原がひろがる。大地にねざすこと、たゆむこと。みどりがおおきくなり枯れてゆくこと。よびこみの声が、わずかずつ小さくなっていくこと。そして、つぼみがひらくこと。

冬の波がきて、つゆをふくむこと。月にながれること。重心を、引っ張って、ずらすこと。わかれていって、つながらないしもや、もやを、どのようにうまく切れるか、きそいあっている小人になる。そして、夢のなかで、かえってくる。家がたおれて、メスをいれる。氷になり、うかぶ。ぼくははきだされている小石につかまり、からだのすみずみまでゆびになり刺しゅうを入れる。なかがわから見てくれていることを、ひろがる海の内がわのなみをそっと引きしぼって、弓になる。髪のすみずみまで/貝がらになり/くちてゆき/また再生する。記述することばは、くちてゆき、しかし洗いながされない。泥のなかから、たまっていく。

文学極道

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