生ぬるい草に
ちらばった弁当箱から
ゆっくりと
母の持たせてくれた
小瓶をとりだし
ひとつまみ
かたつむりに
もうひとつまみ
かたつむりに
浸透圧が、拡散が、と
今日の授業でならったものですから
つい
のけぞり
背をまるめ
ころがり
そうして縮んでゆく姿が
なんとも愛らしく
かたつむりに
口付けを
いえ、ばっちいのでしませんが
口付けを
しなければいかれない
心持になったのです
のけぞり
ころがる
その姿を見ていたら
とてもかわいそうな気持ちになって
だれがこんなことを!
と、急いで水筒を手繰り寄せ
からまる指でくるくるとフタを開け
烏龍茶を狙いのさだまらない手で
どぼどぼと、とにかくどぼどぼと
注ぎました
やせ細ったカタツムリは
しだいに太りだし
助かった、
と思うと水に映った真っ青の空が
横目に映えました
太りだしたと思ったカタツムリは
表面にたくさんのゼリーの皮をかぶって
内側で硬く固まっていました
ウィンナーを刺していた串でつついても
ゼリーがほどけていくだけで
蝸牛の角のしまっているときは
空が晴れるのですって、君
蝸牛の角をだしていたから
雨と思って迎えにきたんだと
君が言っていたからですよ、君
うすべにの傘を持って
カタツムリは難くとじている
即ち、晴れ
水溜りの青が
そうだ
とかぶせてくる
わかっていますとも、ええ
肌を烏龍茶がぬらす
足も、腕も、
うす桃色のワンピースなのに
烏龍茶色になってしまっては困るのです、君
今すぐ、私の、うすべにの傘を持って
迎えにきてください、君
歩けないのです、どうか
あぁかたつむり つのをだせ
私は、なんてことを!
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作品 - 20101023_858_4778p
- [佳] (無題) - イモコ (2010-10)
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(無題)
イモコ