秋、すじ雲を吹く風から生まれ、眩しさの中を降りてきた蟻。
天上、地上。撓んだ茅萱の葉の先端で、蟻は僕に知性を教えた。
知性。空に風があり、この扇状地には扇の骨の伏流水がある。
血管と繋がる意識の中を、ふる里の地理が推移する。
蟻の眼は暗い複眼であった。
大ぶりの触角が二本、くらくらと動いていた。
「我々の営為は、知るものと知らないものを照応することだ。天文の霊的記録者たることだ。」
蟻よ、そうに違いない。たとい君が走り、増殖し、下草の葉影に拡散し、姿を消すだけの存在であっても。
知るものがあり、知らないものがあって、君や僕がそれらを少しずつ受け入れていく。
地面に横たわり耳を当てても、流れるものの音は聞こえない。
だからといって、希望がないこともないのだ。
僕の体の裂け目の奥に、言葉が大きな空洞を作って待っている。
宇宙の総体が傾ぎ、まったく新しい意味が注がれる。
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選出作品
作品 - 20100930_588_4735p
- [佳] まったく新しい蟻 - 右肩 (2010-09)
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まったく新しい蟻
右肩