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作品 - 20100924_488_4725p

  • [佳]   - yuko  (2010-09)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  yuko

真夜中に電話が二度、三度鳴って
受話器を投げたわたしの
背中ごしに
夜が羽化されてゆく
ひとり部屋の片隅の
白いとかげは音もなく消えて
そこには彼の
からっぽのからだだけが残った

なんだかとても虚しいのだと
つぶやいてあのひとは
ゆう暮れに影を折っては
風の隙間を飛ばしていった
そのたびに
そらはいたずらに赤さを増して
わたしはただ押し黙ったまま
几帳面な指先を見つめていた
心臓が離陸する
そのときまで

日捲りのカレンダーを
気まぐれにめくり数をかぞえ
夢のなかをとかげが横切っていった
まどろみの境目で
彼のしっぽをちぎって
透明な壜に詰めた

変われないのは変わりたくないからだと
言ってあなたは
清潔な衣服に
きちんとアイロンをかける
わたしは台所で
割れたガラスを齧りながら
エプロンの紐を解いて
毀れだしたことばたちが
壜の中でからからに乾く

すこしずつからだが
かたむいて平衡化している
朝焼けに
電話線の隙間を
さかなたちが泳いでいくので
流れていく血脈に
利き腕から死んでいく
そして夜の底が
音もなく流れていく
夢を見る

文学極道

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