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作品 - 20100916_333_4705p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ラブポエム

  しりかげる

 
 
 
愛している、とつぶやく以外に愛しかたをしらない僕たちは、結ばれるための両腕を身を守ることばかりに使っている。(獣であったなら射精だけで終われたのに)ポエムを書くうちは、獣の愛しかたをしらない



「両腕」


排水溝から溢れだした熱情が崩壊のはじまりを告げる。ひび割れたアスファルトが濁流に沈み、(むらのなかにくにがうまれるようにみずのなかにうみがうまれ、はもんのようにひろまっていく)ほとりには夜光虫の炎がぼんやりとゆれ(点滅をくりかえす黄信号とともに)色彩が燃えていく視界。波と雲の境界が決壊し、鮮やかな藍が燕になって飛散する。その軌跡から徐々に色彩が剥ぎ取られ、縦横無尽に無色の傷跡が残る。「なぜだろう、僕の鼓動はひどくおだやかなのだ。」隣では、あなたが両腕を無色の天にかかげて、なにかを抱きしめる仕草をする。(あなたの背中に、おもむろに崩壊の牙を突き立てる。)僕は、あなたほどやさしくはなれない(この両腕は傷つけることしかしらない)、あなたの背中から紅の翼がうまれ、ほとばしる熱。羊皮紙にこぼれおちる文字。あなたの器に裏切られたことにして、その恨みで詩を書くから、傷つけることしかしらないこの両腕、(非生産的なポエム)あなたは、きっと許してはくれない



「愛しかた」


積み重ねた小石を、不意に蹴り飛ばす。(これが愛です/といわんばかりの)唇と唇が触れあうと、きまって頭痛がする。こめかみにあてがわれたふるえが、滅びてしまった街角に流れこむ。沈没する落葉樹が上方に葉を巻きあげ、葉脈に刻まれたまじないが(閉ざされた空に向かう胡蝶の群れ、マントルに横たわる婚約指輪)、逃れることはできないと知っているから、だから、身体が触れあうだけでは、、、歌は終わらない。内臓を撫でる手に体温を感じたとき、はじめて僕はうたを終わらせることができる。ひとがひとであることをやめないように、うたはうたわれることをやめない



「隠喩」


星が降る。大地が落ちる。空が割れる。海が走る。ひかりが、ひとつふたつ、地平をかけぬけて、轟音とともに軋む僕のせかい、の、隣で、あなたはうたをうたう。(わたしがわたしであるとは/誰が定めることだろう/あなたがあなたであるとは/誰が認めることだろう/自身が自身でありたいのか/そう思わされているのか/世界の中のわたしがあり/世界の中のあなたがある/世界が世界でありたいのか/わたしが世界でありたいのか/わたしたちはわたしたちであり/わたしたちはわたしの集合である/わたしはわたしたちでありたいと望み/わたしであることをわたしたちは求める)足元にはシロツメクサが咲いていた。あなたは腰をかがめてそれを摘み取り、風にのせて飛ばす。(世界の終わり)可憐、な、声、に、飼育、された、僕たち、隠喩が、降り、積もり、燃えあがる、億千の、残光、、抽出、された、激情が、息をとめ、刹那、隠されたままの、爪が、水面を、引き裂く、僕、僕は、傷つけることしか、しらない! 傷つけることしか! ああ、波紋、加速する、雨、色彩が、欠如した、僕の、ひとみに、燃えあがる、炎が、空を、舐め、海を、濡らし、あなたの世界と交わろうとする、、僕と、あなたの世界、あなたの世界が崩れおちる前に、僕、僕に、せめて慰めの、ポエムを、


ーー射精。




「ラブポエム」


獣(五感が呼吸をやめてしまって、あなたのうただけがこの世界のすべてだった。ほろべ。わたしのなかに宿るあなたの器はすこしずつ朽ちていくのに、声帯だけはなぜかみずみずしくなっていく。ほろべ。わたしとかつてのあなたの狭間に、うたが手向けられている。ほろべ。ひとつの世界が砕けて、その断片が幾多もの世界に降りそそぐ。世界の底にはまだたくさんの世界が連なっていて、終わることができないようなしくみになっている。)獣よ、夜明けに祈らずにはいられるだろうか。(点滅をくりかえす黄信号がもとの場所にもどっていく)「なぜだろう、僕の鼓動はひどくおだやかなのだ。」ほろべ、「せめて、あなたの器がこの一日の最果てならば、束の間だけ僕は眠ることができる、

「どうか、
三分間だけ
滅んでください

世界。」
 
 
 

文学極道

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