朝を見にいこう。群れからはぐれた少女が、電線を裸足で歩いている。
ねえ僕と朝を見にいこうよ。少女があかんべえして片足をあげる。
足の裏にマジックで番号が書かれてある。
液体糊を塗られた
胸のあたり、
さすられるのに慣れなくて、
僕は無力になる。
少女は
僕にてのひらを貼り着けると、
案山子になり、一本足を僕の腹に刺す。
突き通された裏側、一面のクリの花から不死鳥の群れが逃げる。
夏空のグレエが、わすれ雪にセメントを混ぜる。薄れゆく細胞膜が裂け、吐血されてきたクラストを、投げて、玉砕する。つめたく映えた紅い唾のあぶくが、僕に向けて自爆する。果てた天上で、あとかたもなく罅割れた稲妻へと、あなたを乗せた龍が巻きつく。あなたの凍りつく背筋では、蜥蜴のように、グラフィティの裸婦が這っている。連なりから途絶えそうな秩序で、生まれはじめた最後の少女たち、の脳内に分泌されるザーメンの雫、地球の化石が、掘り返される。地核を再燃させ、まっすぐな赤道の記憶を曲げていく。方角を失くしても、イドはただ左へと向かう。バランスを歪めた男性の、左手に握られた心臓を、まだ、僕でつなぎとめている条の虹色。冠動脈の彩りが流れてく愛しさに、匂いは尖端を溢れだす。幻影のフォトンが、旭の手前で着発しそう。
蝉は生きているあいだ名無しでも、死んだらちゃんと名付けられるんだって。
蝉の脱け殻に向かって教えながら、案山子の少女が笑った。
脱け殻とは僕の顔で、蝉は感情のこと。
名付け親になるのは、少女の恋した少年だと言う。
少年とは
死んだ少女の名
蝉はみな、少年と同じ名になりたい。
電圧に潰され龍は墜落する。真下で、ひかる鮮血を火山が鏤め、青い石綿がちりちり燃えている。焼けた台風が吹きすさび、高架橋の下、空を埋めていく鳩羽鼠の砂。飛ばされて行ったカブトムシの死骸の跡、倒れながら芽吹く若緑の嫩。髪を鷲掴みにされ無理やり上を向かされると、あなたが乳頭から黒々とした熱を垂らしていた。それから顔面を、たくさんの足裏が跨いで行き、折れたカーブミラーの中、少女が左に手を振る。力尽きた龍を浚い波打つ地平線で旭が破裂する。淡い桃色が弱めていく左目の視界、突き抜ける白線、渡る少女たちの列があなたで見えない。
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作品 - 20100826_991_4658p
- [佳] 夏に降る - ただならぬおと (2010-08)
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夏に降る
ただならぬおと