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作品 - 20100713_077_4545p

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まいそう

  yuko

よるの砂浜に。わたしははだしで、かいがらをあつめている。しろいゆびさきがかさついて、ひびわれに砂がまじる。爪さきにも砂がはいりこんで、こするとぽろぽろとけずれていった。かいがらをみつけるたびに、冷たいみずで洗う。それからそっと壜につめて。ふたはしない。あしくびのアンクレットがしゃらしゃらとなって、そのたびにほしくずがおちてくるような気がする。そらをささえる無数のあおじろい手首が、そこかしこで松明をかかげ、星ぼしを繋ぐあわい糸が夜空にうかびあがる。

***

手すりのない螺旋階段を、かれらはのぼっていく。うみのそこから、そらのかなたへ、夜に紛れ。アルビノのうさぎが、かれらを先導していく。その赤いまなざしが、雲間を照らしている。潜水艦のサーチライトみたいに。かれらには、ゆびがなく、あるいは、むねがえぐれ、あるいは、みみがふさがれ、あるいは、めがつぶれ。それは、生まれたときからのものかもしれないし、しだいに失われたものかもしれない。そうしつによって、完成されたこどもたち。夜明けにかれらは、いっせいに身を投げる。欠けたつきに祈るように。うみはゆっくりと満ちていく。色素のうすい髪がみなもにひかる。

***

わたしは、かれらを知らず、かれらも、わたしを知らない。わたしも階段をのぼって、砂浜を離れる。それからひらべったい岩のうえで、かいがらを細かくくだくのだ。それをまた、壜につめて。かえりみちはいつも足のうらが冷たい。そっとへやへもどると、かいがらたちを、いちまいいちまい、棺のうちがわにはりつけていく。なにがここに葬られるのかは、まだ知らないけれど。いつのひかこの棺は、かいがらに埋もれてしまうだろう。気がつけば、アンクレットは塩水にすっかり錆びれてしまっていた。奇形児たちの身投げにわたしは声をもたなかった。かれらが名前をもたないように。まいばん、棺にかいがらをはりつけていくこと、きっとそれが、わたしの祈りだった。

***

幾千もの舌が夜を白く磨きあげていき、せかいはあさをむかえる仕度をする。砂浜では、あおいはねの蝶が鱗粉をまき散らして、夜のふちを滑っていく。螺鈿の棺はそのふたを閉じ、わたしもまた名前をもたず、祈るすべさえあいまいなまま。うみに面した出窓をあけたら、あさやけはわたしたちの影をふたたびつよく焼くだろう。わたしたちは、どうしようもなくゆるされているから。いつかえいえんまで、舟をこいでいこう。せかいじゅうのわたしたちにひとつの名前と、ねがわくば一輪の花をそえて。

文学極道

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