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作品 - 20100403_888_4294p

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世界語(aie aie)

  破片

朝焼けがこの手に入れば、雲を掴むことができたなら、走り去っていく星々が停滞するときを見逃さず、瞬きと、瞬きとの間に眠る赤子を取り落とさない、そのままでいてほしい、待っているあなたへ、光は指の間隙に入り込んで爆発するから、どうかそのままで、握り込まれた手は、こんなにも小さいのだから。


少しずつ新芽が綻びる、そんなふうにして目を開くべきだ。あなたの眼球はきっと世界になる。飲み込んで、そして好きにしたらいい、光の爆発を見たのはあなただけじゃない、その瞼の奥にしまい込むことなんてできない、太陽はわたしたちの足の下へ潜り込んでいく、異国の言葉で、誰にでも祝福されるために、だからこそ、目を開いて待っていてください、喜びが連なってたなびいていく姿を、


赤子は次に言葉を話した、母音しかない発声で、世界の様態を作り替えていく、そこには、ああほら、見えている、上昇と下降を繰り返す七色が、そこらじゅうで笑みをたたえている、こんなにも太陽が近い、しぼむことのない光彩があたたかく霞んで、その向こう、向こうまで果てのない、プリズムみたいな眩さで、世界はおおわれている、目を焼く鋭角的な色の景色には、生物がいない、いないまま、なにもかもが微笑んでいる、抱き上げる優しさを忘れないように、そっとつまさきから踏み入ろう、短くて小さな手が、胸の前で編まれている、水を浴びせてあげたい、双肩にとりついている見たこともない時間を、洗い流してあげるために、


まわりを囲んでいる新たな稜線が浮き上がっていく、その中心で、ふたり、鈍く発光する雲を掴んで、踝をくすぐる草々に墜落させた、「わたしたち、雨を降らせているの」という言葉に、赤子は無邪気に笑い、そして母音だけの世界を紡ぐ、若草色の、もっとも広い絨毯に話しかけて、どんどんと、どんどんと無尽に広げていく、水をやれば花が開き、空気が潤って色がつく、赤、橙、黄になり、そして緑、青、藍、紫、そんな色、そのあとで突然色が抜けた、草は草の色になり、千切っては落とす雲はやはり白かった、空気は空気の色になって、母親らしき人影の、そして、雲を掴む細い指の向こうに―――

雨が降れば、次には空気が燃え始める、空気を燃やす火の玉が、赤子に「はじめまして」と挨拶した、山も下草も、空さえも無限の光で照らされて、「アイエ、アイエ」という母音だけの言葉で、母が笑い赤子が目を開けて、せかいが、

うまれる。

文学極道

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