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作品 - 20100213_743_4172p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


言語的存在とは何か

  右肩

第一編
 靴屋の冬靴。言語的存在になるところ

第二編
 文法規則は牝馬 赤黒い脚四本を雪に立てる

第三編(実在は言語的未遂である、と彼は僕に言った)
 セントルイスを語らぬ羽音その冬蝿

第四編
 笑い声ではない決してない鰤起

第五編(硬貨を八枚並べなさい、と君はバカなことを言う)
 空腹の言語の神のこの吹雪に硬貨八枚

第六編
 チェス。クイーンは冬林に立っている

第七編
 凍港という語が追い立てる船という語を

第八編(鴉に読めない文字が包装するもの。その実体が嘴で剥かれる)
 もの喰えば鴉ああと鳴く。経済の内実を剥く

第九編
 幻影を言語周回す。クリスマス。

第十編
 語の爛熟 何も熟していない。地上に渇く種の殻。春。


反「言語的存在とは何か」

反第一編
 僕は靴屋である。靴屋は靴しか売っていない。昨日は肉じゃがを食べた。胃が凭れている。涙が流れる。感情は涙ではない。

反第二編
 僕は獣医である。治療のため牝馬の性器に腕を突っ込んだことがある。文法規則はぶよぶよして血にまみれていた。

反第三編
 セントルイスでは長い放尿を経験した。それは日本での放尿と、香港での放尿と、インスブルクでの放尿と質的に同じであり、量的に異なっていた。
人生とはこういうものの間に嵌め込まれた言語的存在である。もちろん、そこに蝿は飛んでいる。辛い。

反第四編
 鰤起。鰤起。鰤起。姉はダッフルコートを着て防波堤に立っている。鰤起。海から打ち上げられる石は皆丸く小さい。

反第五編
 僕はバカなことを言っている訳ではない。この視界のない吹雪の中でも君の買った三冊の『エロトピア』の古本は八百円であり、釣りがない上に五百円玉は嫌いだ。だから総て百円玉で払って欲しいと言っている。君の僕に向けるねっとりした視線は、決して言語的ではない。

反第六編
 クイーンは裸だ。

反第七編(君は「それも言語だ。唾棄すべき言語だ。」と僕に告げるだろう)
 僕は船である。追い出されることなく凍っている。ペニスも凍っている。尿道口から言語は出てこない。

反第八編
 経済の外殻は証券取引所や銀行にある。内実は魚肉ソーセージとしてビニールの包装に包まれている。僕は雨の日、セントルイスのトイレの片隅でそれを食べた。ほどなく発熱した。

反第九編
 「す」はサ行変格活用の動詞であるが、あらゆる名詞を動詞化しようと策謀を巡らせてきた狡猾な策士である。第九編では、クリスマスの系に列なる言語を周回という動的な語とともに、動詞として動的状態に置こうとしている。危険だ。

反第十編(僕に春がなくても、誰かが持っている。富も季節も遍在する。それでいい。)
 言語は野に捨てられる。


「反『言語的存在とは何か』」の存在にコメントする
 「言語的存在とは何か」は俳句的記述ですが、俳句の社会性を個人的世界の個人的充足に置き換えています。ですから、まるで無謬のように振る舞います。
「反『言語的存在とは何か』」は、これに対し、無謬だろうがなんだろうが、屑は屑だ、と「言語的存在とは何か」を規定しなおしています。
 しかし、それは外部からの規定を待つべきものであって、本質的には同質の内容を繰り返す愚挙に過ぎないのではないか、と僕は考えます。僕は考えます。

反『「反『言語的存在とは何か』」の存在にコメントする』
 いえ、考えていません。
 

文学極道

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