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作品 - 20100211_630_4160p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


がんばれ、ベアーズ

  ゼッケン

石を握って
ぼくは
ピッチャーマウンドに立つ

ぼくの住む町でいちばん清潔な建物はパチンコ屋で
磨かれた床にぼくの顔が映るほどで
毎日、生活保護がくるくるぴかぴか回っていた
オーナーであるあなたが住む隣町のリトルリーグのチームは
全員がユニホームさえ着ていた
胸にはベアーズと赤文字でチーム名が刺繍されていた
卑屈な狡猾さが怠惰を助長しかしないぼくたちの町
見えない場所に巧妙に隠された痣のあるぼくたちは全員が素手
それでもフィールドに立つ
プレイボール!
審判が開始の合図を告げたのでぼくは
石を握った手を大きく振りかぶる
打たれてはいけなかった、背後で守備についた仲間はいまだグラブを持たない
ぼくの球を受けるキャッチャーも素手だ、ストライクを投げてはいけない
一球、バッターの頭をぶち抜いてやる
手頃な石を川原で拾う
くたばれ、リトルリーグ!
振り抜いた腕から放たれた球速は真実の120キロ
度肝を抜いて
真昼の陽光を反射してヘルメットが宙に舞った
デッドボール!
審判が叫んだ
しかし、ぼくには見えていた、頭のいい相手はぼくがこうするしかないことを知っていたので、
待ち受けて寸前に避けた動作でヘルメットを宙に飛ばしてさも致命的な被害を受けたかのように
うわぁーと叫ぶ、痛みはあっただろうか?
デェェェッドボォォォル
公式に報復の承認を得た隣町ベアーズがいっせいにベンチから飛び出してくる
計画通りの制裁の発動だが、こちらもすでに背後で守備についていた仲間が走り出しているはずだ
ピッチャーマウンドを包囲した隣町ベアーズにぼくは引き倒され、打撃打撃打撃される
制裁用スパイクの硬い底で地面に倒れたぼくを踏みつける22本の足の隙間からぼくは首を捻って見た
仲間たちは空になった相手のベンチに殺到する
真新しい革の匂いのするグラブと傷ひとつなくキンキンと音のするバットを片端から抱え込む

盗め!盗め!

ぼくたちはぼくたちのチームをつくるのだ
そしてそれぞれが家に帰ったら
グラブで拳を受け止め、バットで脳天を殴る

文学極道

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