*朝の歌
Time is money
と知りながら、
I'd spend my whole life sleeping
ねむりつづけた。
夢の中では、
鍵穴越しに稲妻が垂直に走るのが見えた。
盗んできたレズビアンの人魚を犯そうとした。
彼女は抵抗せずに、ただ何かを叫んだが、
その声は雷鳴にかき消され、目覚めたあとになってから、
彼女が唖であることに、突然思い当たるのだった。
9:00 a.m.
寝過した朝は、いつもきまって
底抜けに晴れあがっている。はなだ色。たいらかな空。
どんなにつまらない夢もけっして安価な買い物ではないよ。
Time is moneyである以上、
無償で手にしたものなどひとつもないのだ。
しかし、たとえ一期が夢だとしても、
狂うかわりにまじめくさって、
いまは駅の構内を走り抜けるぜ、
乗り逃がした通勤快速は夢なんかじゃないんだからね。
走れ、走れ、度重なる遅刻が減給対象であろうとなかろうと、
TimeをMoneyに兌換するため、
I've been working like a dog
ステットソン! 犬は人類の忠実な友だよ、
放蕩息子もときには吠えるぜ。
こんにちは、すばらしきパイプカットの広告塔!
吠えないときには、放蕩息子も
利殖のHow to本を手にとるよ、
離職した同僚たちに電話をするよ。
「御機嫌よう! 生きているにしても倒れているにしても――、
それでも、億万長者になって金の使い道に困るような時があったら、
いつでも遠慮なく連絡してくれ」
むろん誰からも連絡は来ない。
個人から大企業まで、暇の押し売りなら事欠かないが、
TakeとはGiveするためのいわば消極的な承認にすぎない、
と言ったのは誰か。
誰に言われたわけでもないが、
I spent my whole life guessing
Time is moneyである以上、
人づきあいにも貸し借りは極力避けてきたのだ。
あらかじめ別れは済んでいる……
その原則を律儀に守り通してきたのだ。
おかげでひどく印象の薄い男になったが、
放蕩息子は幽霊のようなものだから、
こうして満員電車で足を踏まれる恐れはないのである。
長生きするさ、人類が幽霊を抹殺するまで。
こんにちは、瑕疵ある新婚生活の貸借表!
*夜の歌
凍てついたケヤキの木が、
十二月の鈍い電飾にさらされている。
まばらになった葉のざわめきは、きらめく結晶となって
氷雨のように地面を濡らしている。
みんな、ここに詩人がいるよ!
それというのも、いまだ書かれていないもの、
それはみずからを不可能にするものであり、
かれはそれを書くことによって、おのずと破滅者の、預言者の、
相貌を帯びてこざるをえないのだ。
ああ、ここには批評家さえいる!
疲れたこころとからだは、あらゆる文学に敵意を燃やす、
暖をとるために。書記形式のモナド、モナド、モナド。
残業明けの感傷的な時刻をやり過ごし、
放蕩息子は家路を急ぐぜ、
I'll spend my whole life sleeping
犯しそこねたレズビアンの人魚に、
まだ別れは済んでいないんだからね。
最新情報
選出作品
作品 - 20091217_290_4026p
- [佳] Time is moneyまたは放蕩息子の歌える - んなこたーない (2009-12)
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Time is moneyまたは放蕩息子の歌える
んなこたーない